4月6日(月)に東京・日生劇場にて開幕した『デスノート The Musical』。稀代の作曲家、フランク・ワイルドホーンと骨太な作品作りに定評がある演出家・栗山民也がタッグを組み、大ヒットコミックを世界で初めてミュージカル化した話題の舞台だ。初日を翌日に控えた4月5日にはキャスト3人が登場しての会見と共に、報道陣・関係者に向け、最終舞台稽古の模様が公開された。
関連記事:浦井健治、柿澤勇人ら出演『タイトル・オブ・ショウ』開幕
緩やかな傾斜が付いた舞台の上に置かれた教室の椅子。高校の授業の場面から物語は始まる。教師の口から語られる「法と正義」について周りと議論をたたかわせる高校生・夜神月(やがみらいと 浦井健治・柿澤勇人のWキャスト)。日本の法制度に疑問を持っている月は死神・リューク(吉田鋼太郎)が気まぐれで地上に落とした「デスノート」を偶然拾い、そのノートに名前を書かれた者は必ず死ぬ、と気付いてからは「キラ」として犯罪者や自らの活動を邪魔する人間を次々と葬り去って行く。
そんな「キラ」事件の捜査に乗り出す月の父・夜神総一郎(鹿賀丈史)。総一郎はその正体がベールに包まれた天才探偵・L(小池徹平)に捜査を依頼し、「キラ」を逮捕しようと試みるのだが捜査は難航。またアイドルとして活動するミサ(唯月ふうか)も別の「デスノート」を手に入れ、「第二のキラ」として死神・レム(濱田めぐみ)と行動を共にする。ある事をきっかけに「キラ」=月に強い好意を抱いているミサは、彼に協力してLを消そうとするのだが・・・。
この日の月役は柿澤勇人。柿澤は天才的な頭脳を持った高校生(後に東大生)でありながら、法の前では無力である自分に葛藤し、デスノートを偶然手にしてからはある種の万能感と共に“神”の視点で「キラ」として行動する過程を丁寧に演じている。透明で暗さを併せ持った青い炎のような「キラ」の役作りは観ていて終始スリリングだ。
不思議な雰囲気をまとった天才探偵・L役の小池徹平は、常に異形の姿勢で舞台上に存在する。背中や肩を曲げ、裸足で歩く様はどこか鳥や虫のようにも見えるし、うずくまるように椅子に座る姿は胎児のようでもある。小池本人が持つ明るく人の良さが溢れ出る雰囲気を全て消し去り、Lとして舞台上に存在する姿からは静かな殺気さえ感じられた。
この日、舞台上には不在だったが、Wキャストの1人として月役を演じる浦井健治も柿澤とはまた一味違う月のキャラクターを構築。二人の演技が異なる為、相手役の小池はその都度違った芝居でそれぞれの月=「キラ」と対峙する。二組の違いも本作の見どころの一つだろう。
見どころと言えば、欠かせないのがリュークとレム、二人の死神の存在だ。リューク役の吉田鋼太郎は「デスノートを持った人間にしか姿が見えない」という設定を最大限に活かし、日生劇場の舞台中を暴れ回る。蜷川幸雄演出作品等で見せる重厚な芝居を脱ぎ捨て、場を掻き回すのが楽しくて仕方がないリュークの様をこれ以上はない位に体現し、観客を魅了。この『デスノート The Musical』に出演が決定した際、「なぜ歌えない、踊れない自分がミュージカルに・・・」と不安を口にしていたのが嘘のようなエンターテイナーぶりは必見の一言だ。
ミサが「デスノート」を手にした事で彼女と行動を共にするレム役の濱田めぐみは、静かにミサを見守り、彼女を愛おしむ死神役を好演。登場する度に一瞬で空気を変える存在感とミサを想って歌うソロナンバーには圧倒される。黒と白、動と静、そして「デスノート」の持ち主に対する感情の方向性がリュークとレムで真逆に設定されているのも面白い。レムは本作の登場人物の中で実は一番ピュアな存在なのかもしれない。
『ジキル&ハイド』『ルドルフ』『シラノ』等、ブロードウェイでのヒットミュージカルを数多く手掛けるワイルドホーンの音楽は作品のテイストに沿った不協和音やマイナーコードを使用しながら、どの楽曲も壮大さとキャッチーさを併せ持つ旋律で耳に心地良い。月役の柿澤は「ロックシンガーのつもりで歌ってくれ」とワイルドホーンにオーダーされたそうだが、なるほど月のナンバーは特にエモーショナルに響いてくる。
人気コミック「デスノート」のミュージカル化が発表された時、多くの人がその計画に驚き、更に登場人物たちのキャラクターを舞台でどう見せて行くのか、どんな世界観で上演されるのか大きな興味を持って開幕を待ち望んだ事だろう。2015年4月6日、映画ともアニメーションとも違う新たな『デスノート The Musical』が東京で開幕し、「本当の正義」を問う矢は全世界に放たれた。
ブロードウェイの才能と日本のクリエイター陣、そして魅力溢れるキャストたちが織りなす最高の化学反応をぜひ劇場で体感して欲しい。
『デスノート The Musical』は4月29日(水・祝)まで日生劇場(東京・日比谷)にて上演。東京公演終了後は大阪、名古屋の各地で公演。尚、今夏にはキャストを変え、韓国での上演も予定されている。