プロデューサー・柳下大×演出・河原田巧也 「クオッカーズ」で届けたい演劇幸福度

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プロデューサー・柳下大×演出・河原田巧也 「クオッカーズ」で届けたい演劇幸福度

2024年3月20日(水)から3月31日(日)まで、東京・劇場MOMOにて上演されるクオッカーズ『バンブー・サマー2024』。本作は、元D-BOYSとして活躍していた柳下大が初プロデュースを手掛ける舞台。劇団アナログスイッチの佐藤慎哉が原作提供し、俳優の河原田巧也が演出に挑戦する。

2020年に俳優業を引退し、演劇から離れていた柳下。そんな彼が、「演劇をもっと広めたい」とプロデューサーとしてカムバックした。俳優として積み上げてきた縁とタイミングが重なり、一度離れたからこそ見えたものを形にするため、動き出した。

演出に、俳優として活躍する河原田巧也を迎え、誰かが「演劇に触れるきっかけ」になるような機会を創出を目指すという。上演に向けて、彼らの考える新たな「第一歩」について話を聞いた。

目次

柳下大――芸能界引退から、プロデューサーとしてのカムバックまで

――2020年に一度俳優を引退された柳下さんですが、演劇の世界に戻ろうと思われた経緯を教えていただけますか?

柳下:もともとは、この業界に戻るつもりはまったくなかったんです。自分の力に限界を感じて離れることを決意したので。前の事務所を辞めてからは、まったく違う業界でイチから社会人としてスタートをしようと思って、知り合いの会社で経営コンサルタントの仕事をしていました。

最初は、用語とかが台詞みたいに全然頭に入っていかなくて(笑)。でも、上司に恵まれたので2年間がんばって続けていました。そのタイミングでコロナ禍になったんですよね。経営コンサルの打ち合わせもオンラインになって、オンラインサロンを開いたりするようにもなりました。その動画編集を任されるようになったことで、映像に興味が湧きまして。そこでまた、思い切って会社辞めて、企業向けの映像編集の仕事をしていこうと舵を切ったんです。

そのタイミングで、舞台製作会社をやっていた俳優時代の後輩に「手伝ってくれないか」と声をかけられて、2023年の1月にやった舞台で演技指導をさせていただいたんですよ。さらにその流れで「6月にまた舞台をやるから出てほしい」って言われて、今度は俳優として出演することになりました。でも、その時は頼まれたから出ただけで役者に戻るつもりはなくて。

これでまた演劇と関わることは終わりかな・・・と思っていたら、その舞台出演をきっかけに、ある友人が数年ぶりに連絡してきてくれたんです。「会社の事業で芸能事業をやろうとしているんだけど、手伝ってくれない?企業向けの映像編集より、やっぱり芸能の仕事の方が向いてるよ」って(笑)。それで、「プロデューサー」としてもう一度演劇に関わってみようと思い、今回公演をプロデュースすることになりました。不思議なタイミングとご縁ですね。

――「俳優」として見ていた演劇と、「プロデューサー」として関わる演劇は違いますか?

柳下:知らなかったことばかりです。「劇場どこにしよう?」「どれぐらいのキャパでやる?」「リスクと予算は?」「脚本家は?演出家は?」全部決めないといけないですから。今回上演する『バンブー・サマー』は、アナログスイッチの佐藤慎哉さんの作品なので、演出もお願いできるかなと思ったんですが、ちょうど僕らの公演の1週間前にアナログスイッチさんの本公演が決まっていたので、「ごめん、演出はできない!」って言われて。そういうこともあるのか~と(笑)。

プロデューサー・柳下大×演出・河原田巧也 「クオッカーズ」で届けたい演劇幸福度

河原田巧也「演出をやりたい」コロナ禍で動き出した“いつか”の夢

――上演作品に『バンブー・サマー』を選ばれた理由は?

柳下:いろんな作品を読ませていただいたんですけど、学園モノの会話劇という点がいいなあと思って、お声がけさせていただきました。脚本をお貸出しいただく時に、佐藤さんから「本、自由に変えてもらって大丈夫です」と言っていただいたんです。やりたいことの一つに、演劇の裾野を広げたいという想いがあったので、ライトな会話劇として僕が台詞の変更点やシーンの編集など脚色させていただいて、として上演させていただくことになりました。

――今回、演出は俳優の河原田巧也さんが手掛けられますが、お二人は以前から交流があったのでしょうか?

柳下:いえ、今回の上演がきっかけで。もともと、演出は「役者をやっていた人、または、役者をやっていて演出に興味がある人」にお願いしたいなと思っていたんです。そういう方がいないかなと探していたら、以前お世話になっていた方が「自分が関わっていた現場で、河原田さんが演出助手としてすごくよくやってくれたからどうだろう?」って紹介してくれて。それで、連絡してお話して、引き受けていただきました。

――河原田さんは、柳下さんから「演出をやってほしい」という連絡を受けた時はどう思いましたか?

河原田:まず、面識がなかったので「えっ、あの柳下さん?!」って驚きました。テレビや舞台で観ていた方でしたし、ミュージカル『テニスの王子様』の大先輩でもあるので。そんな方から、新しい取り組みの最初を任せていただけるのはとても光栄なことだなと思いました。

――河原田さんが演出をやってみたいと思ったきっかけは?

河原田:僕、もともと20代前半ぐらいからファンイベントとかで「いつかは演出をやりたい」とか、「劇団を作ってみたい」とか話していたんです。そして、きっかけは僕もコロナ禍だったんですよ。仕事がなくなってしまった時に、以前お世話になったプロデューサーさんが「なんかまた一緒にやろうよ。今、何したいと思ってるの?」と連絡をくれまして。その時「演出したいです」って答えたんですけど、その返答があまりにも即答だったので、その方が「それほど自分の中で気持ちが固まっているんだったら、その場を用意してあげるよ」と、すぐに初めての演出の場を作ってくださいました(2020年9月『RANPO chronicle 彼岸商店』トライアル公演)。

僕は今、水木英昭プロデュースに所属しているのですが、社長が演出家で、会社が制作もやっているということで、自社が関わる公演で演出助手をやったりしていたんですね。それが、去年の12月、古い付き合いの植田圭輔くんが初めて演出をする作品で、「出演だけじゃなくて演出助手やってくれない?」ってオファーをくださって、初めて外部で「演出助手」をやることになりました。

その時「ヤバい、ちゃんとしなきゃ!」って、とにかく前倒しで早く作業を・・・ってやっていた姿勢が良かったと思ってもらえたみたいで。その時お世話になっていた方が、大さんに僕を紹介してくださって、今回に至りました。

――なるほど、そこでいろいろ繋がるんですね。

柳下:そうですね。

河原田:今振り返ってみると、コロナ禍でいろいろと模索していたことが、ちゃんと繋がっているんだなって感じます。

役者として走り続けてきた自分たちだからこそ若手に伝えたいこと

――俳優経験を持つ方だからこそ、クリエイターに回った時に見えることがありますか?

柳下:そうですね。見え方は全然違っていて・・・。役者をやっていた時は、いい芝居をすれば次に繋がると思っていたんですが、裏方に回るとそれだけじゃないんだと痛感するし、情報はただ発信しても全然広がらないんだってことも分かりました。

2年間、まったく違う業界にいた時は、全然演劇の情報って目に入ってこなかったんですよ。僕自身の意識がそこになかった、というのもあるんですけど。でも、今まで興味を持っていなかった層に届くようにしないと、裾野は広がっていかないなと思うんです。まずは、興味を持ってもらうきっかけを作らないと・・・。

演劇業界って、古き良き文化があり、習慣があると思うんですけど、それを大事にしつつ、全く新しいことを考えていかないといけない。演劇界に、新しい人たちを呼び込みたいと思って、この「クオッカーズ」というプロデュース事業を立ち上げたので、それを課題に今後取り組んでいかないといけないなって思っています。

――どうやって興味を持ってもらうか、というのは、本当に大きな課題ですよね。

柳下:知る人ぞ知る、玄人好みの舞台はもちろん素敵で素晴らしいものが多いです。でも、やっぱりちょっと「演劇をまったく知らない」と、ハードルが高かったりもするじゃないですか。劇場に行くまで、内容がよく分からない時もありますし・・・。

昔は娯楽が少なかったから「演劇がなんか流行ってるらしいぞ」って聞いて足を運び出す人が多かったと思うんですけど、今は、娯楽の選択肢が多すぎるからなかなか舞台に辿りつかないんですよね、きっと。経営コンサルを経験したからこそ、商品である作品を広める、演劇を広めることを考えていきたいです。

それから、僕も役者になるまで舞台に立ったこともなかったし、観たこともなかったんですよ。そういう、役者という視点からも「演劇」ってお芝居の世界に入りやすい業界だと思うんですよね。アイドルの方や、僕と同じような未経験だった方にも。出る作品は、イベント的なものからガチガチに追い詰められるものまであるから、入ったあとはいろいろですけど(笑)。僕は、役者側も「この作品に出ててよかったな」と思える環境作りをしていきたいと思っています。

河原田:僕も役者がお芝居をする上で「どれだけお芝居、演劇を好きになれるか」がすごく大事だと思っています。作り手の意図がお客さんに伝わればいいという結論もありますけど、僕は、役者も充実して、作品を経験することで人生が豊かになるようになっていけば、結果的に観てくださるお客様に伝わるし、みんなの心が豊かになって、それが広がっていったら一番いいなと思っています。

――河原田さんご自身の目指す演出家像も?

河原田:僕は役者として、芝居感や人生観が変わる瞬間を、毎回自分の中で追い求めていきたいと思ってやっています。それは、演出に回った時も同じで。そういう想いを出演するみんなに感じてほしいという気持ちがあります。

今回の作品はライトで分かりやすい作品だし、きっとお客様にも受け入れていただきやすい作品なんですが、若い方々に、表面的にやるのではなく、そういうしっかり気持ちを持った上で、楽しくやっていこうということを、演出という立場から伝えていきたいと思っています。

――「若手が輝ける場所、活躍できる場所を増やしたい」というのは、柳下さんの発表時のコメントにもありましたね。

柳下:はい。今回のキャスティングは、オファーとオーディションと両方やりました。いろんなジャンルの方に集まっていただきたくて。だから、アイドル経験者の方、2.5次元作品で活躍されている方もいますし、一昨年までエンジニアとして会社勤めをしていた、という方もいます。

いろんなジャンルの方が集まってくれたからこそ、きっとお客様もいろんな好みを持っていると思うんです。舞台って、人によって好みが分かれるものもあるじゃないですか。だから、ライトに楽しみつつも、生じゃないと伝わらない面白さを体感してほしい。そんな意図を込めて、キャスティングと作品選びをしました。

河原田:『バンブー・サマー』は、ベースが竹取物語なんです。みんな知っているお話だと思うんですけど、僕、演出を考え始めた時に「まず竹取物語を勉強しよう」と思ったんですよ。調べていくと、月への信仰とか、竹に対する信仰とかが絡んできたり、すごく面白かったんです。

あと、竹って120年に一度しか花が咲かないって知ってます?しかも、120年に一度花が咲いたら、竹宿ごと全部枯れるんですよ。

柳下:そうなんだ?!

河原田:枯れてもその下に新しい命(タケノコ)があるので、それがまた伸びて・・・を繰り返していくんです。それが永遠の命の象徴みたいになっていたらしくて。それから、かぐや姫も竹から生まれますが、竹って異世界に繋がるみたいな概念もあったようなんですよね。竹藪を抜けたら、そこは異世界・・・みたいな。

SNSなんてない時代に、人づてにいろんなことが伝わっていく中で神格化されていったんだって思うと、また物語の捉え方が変わっておもしろいですよね。そういう成分を演出で取り入れられないかと思っているんですけど、基本はコメディであり、会話劇なので!いろんなジャンルの方が集まったいるからこそ、その人に合ったやり方でお芝居の面白さを伝えていきたいなって思っています。

――河原田さんの、演出家としての指針ですね。

河原田:演出ありきにはしたくなくて、キャストの力を引き出して輝かせたいです。料理とかも、最初から自分のオリジナル料理を作ろうと思ったら、初心者は失敗しちゃうじゃないですか。まずはベースの味付けを覚えて、一旦レシピどおりにやってみて、そこから自分なりのものを見つけていくのを、キャストのみんなとやっていきたいです。

――お二人の新しい挑戦の先を楽しみにしています。

河原田:僕にとっては3回目の演出になるんですが、しっかりと準備期間をもって演出をやらせていただくのは実は初めてで。なので、まずは自分が地に足をつけて取り組むことが一番大事だと思っています(笑)。僕が焦るとキャストの皆さんもスタッフの皆さんも絶対に焦ってしまうので、まずは落ち着いて。アイデアを蓄積して、柔軟に対応できるように取り組みたいと思います。

そして、役者のみんなとたくさんコミュニケーションを取ろうと思います。稽古の休憩中、演出家の方とスタッフさんが打ち合わせしていたりすると、役者は隙を見て話しかけにいかないと・・・ってなるんですけど、準備作業はなるべくキャストの見えないところで(笑)。もともと、あまり積極的にコミュニケーションを取りに行くタイプではないんですが、僕の経験が若い方の助けになったらいいなと思いますし、舞台って面白い!って思ってもらいたい。伝えるべきことはしっかり伝えて、明るい現場を作りたいですし、お客様にも明るい気持ちで帰ってほしいです。

新人演出家なので、自分のこだわりを全面に出していくのではなく、役者を助ける、スタッフを助ける、そういう人間になれたらいいなと考えています。

柳下:僕は、改めて演劇というものに触れて、その楽しさ、素晴らしさをどう発信したらいいのかを考えたていきたいと思いました。

僕自身は、役者としてはどちらかというとシリアスな、重い作品の方が得意だったし、役者人生ではターニングポイントになった作品が多かったので、いつかは皆さんにもそういう現場を・・・という気持ちもあるんですけど、まずはお客様も役者も「第一歩」を作らないと、そこには辿り着けないと思うので。

まずは、とにかく見やすくて、面白い作品作りの場を作っていけたらと思っています。そして、僕がプロデュースした作品に出たり、観たりしてくださった方が「お芝居が好きになりました」って言ってくれたら一番いいなと思っています。「クオッカーズ」に集まると、いいものができる、いい経験ができるって思ってもらえる団体にしていきたいです。

プロデューサー・柳下大×演出・河原田巧也 「クオッカーズ」で届けたい演劇幸福度

「クオッカーズ」とは?名前に込め想い

――最後に「クオッカーズ」の名前の由来を教えていただいてもいいですか?

柳下:「クアッカワラビー」って動物、ご存じですか?世界一幸せな動物って言われている・・・。

河原田:あの、ニコニコ顔の!

柳下:そう。僕のプロデュース事業に関わってくれる人たちをみんな幸せにしたい、お客様、役者、スタッフ、みんなひっくるめて関わった人が笑顔になってくれたらいいな、という想いを込めて「クオッカーズ」という名前を付けました。そういう集団を目指していきたいと思います!

舞台『バンブー・サマー2024』公演情報

上演スケジュール

2024年3月20日(水)~3月31日(日) 劇場MOMO

スタッフ・キャスト

【プロデュース・脚色】柳下大
【原作提供】佐藤慎哉(アナログスイッチ)
【演出】河原田巧也

【出演】
<月チーム>
宮崎想乃、東拓海、馬越琢己、宮脇優、河西剛徳、もっぱらカワサキ、矢島美音、薄倉里奈、永井良、弦間哲心、佐野真白、水野絵梨奈

<竹チーム>
倉持聖菜、田中尚輝、河合健太郎、江副貴紀、さとう豆、安堂大空、根岸可蓮、福留光帆、海老原雄一郎、黒澤諒、奥村颯太、遠藤瑠香

公式サイト

【公式サイト】https://banboo2024.quokkers-most.com/
【公式X(Twitter)】@bamboo_s_2024

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