小川絵梨子演出で『ピローマン』「新国立劇場 2024/2025シーズン 演劇ライアップ」発表会――演劇に内在する「他者との共存への力」

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小川絵梨子演出で『ピローマン』「新国立劇場 2024/2025シーズン 演劇ライアップ」発表会――演劇に内在する「他者との共存への力」

「新国立劇場 2024/2025シーズン 演劇 ラインアップ」発表会が行われ、演劇芸術監督の小川絵梨子よりその詳細や、演目選定に込められた想いなどが語られた。

シーズンの幕開けとなる10月にはマーティン・マクドナー作『ピローマン』を小川の演出で、11月には新作『テーバイ』(構成・上演台本・演出:船岩祐太)、12月には『白衛軍 The White Guard』(演出:上村聡史)、2025年4月にはこつこつプロジェクト Studio公演『夜の道づれ』(演出:柳沼昭徳)、5月からはシリーズ「光景-ここから先へと-」をスタートさせ、Vol.1にブルノ国立劇場ドラマ・カンパニーによる『母』、Vol.2に『ザ・ヒューマンズ-人間たち』(演出:桑原裕子)、Vol.3に『消えていくなら朝』(作・演出:蓬莱竜太作)を上演する。

小川絵梨子演出で『ピローマン』「新国立劇場 2024/2025シーズン 演劇ライアップ」発表会――演劇に内在する「他者との共存への力」

10月の『ピローマン』は、ある架空の国を舞台としながら、理不尽で残酷な世界の中に於ける「物語」が持つ役割や意義、そして紡ぐべき希望について問いかける作品。小川は、10年ほど前にも同作を別劇場で上演しており、コンセプトを一新し“物語の意義”に重点を置いて再び作品と向き合うと語った。出演は成河、亀田佳明、斉藤直樹、松田慎也、大滝 寛、那須佐代子。

11月の『テーバイ』は、シーズン唯一の新作。オイディプス王やアンティゴネのストーリーを下敷きに、道徳と平和を理想に掲げる反面、己の欲望と恐怖、防衛心に苛まれる人間の宿命を描き出す。なお、本作は新国立劇場が行っている「こつこつプロジェクト」の第二期のから始まっており、多くのキャストがこつこつプロジェクトからの参加となる。出演は植本純米、加藤理恵、久保酎吉、池田有希子、木戸邑弥、高川裕也、藤波瞬平、國松 卓、小山あずさ、今井朋彦。

12月の『白衛軍 The White Guard』は、ソヴィエト政権誕生直後のウクライナの首都キーウを舞台とし、まさに「今」へと現在進行形で繋がる物語。20世紀ロシアを代表する作家ミハイル・ブルガーコフの代表作として、1925年に小説として発表され、翌年、作家自身が戯曲『トゥルビン家の日々』としてモスクワ芸術座で上演し、「第二の 『かもめ』」と評され成功を収めた。今回は、それを元に2010年に英国のナショナル・シアターで上演され たアプトン版に基づいて上演する。
出演は村井良大、前田亜季、上山竜治、池岡亮介、石橋徹郎、内田健介、前田一世、小林大介、大場泰正、大鷹明良、今國雅彦、山森大輔、西原やすあき、釆澤靖起、駒井健介、武田知久、草彅智文、笹原翔太、松尾諒。

2025年4月の三好十郎作『夜の道づれ』は、「Studio公演」という新しい試み。こつこつプロジェクトの一環としてこれまでクローズドで行っていた試演を、小規模ながらも、観客の前で上演する。敗戦後の日本を舞台とし、混乱と不安の時代の中で人間存在の本質に向き合い、混沌の中でも人間が「歩み」続ける様を描く。出演は石橋徹郎、金子岳憲、林田航平、峰 一作、滝沢花野。

5月よりスタートする、シリーズ「光景-ここから先へと-」は、社会での最小単位である家族が織りなす様々な風景から、今日の社会の姿を照らし出すシリーズ。

第1弾は、チェコ共和国・ブルノ国立劇場の協力のもと、カレル・チャペックの『母』を招聘し、戦時下において出兵する息子たちとその母を描き、戦争という大きな暴力の中で個人の悲劇と人間性への葛藤の物語を日本初演する。

第2弾は、家族という近しい人間関係でも共有し得ない、現代社会において一人一人の人間が背負う存在不安や恐怖を描いた『ザ・ヒューマンズ─人間たち』。劇作家・脚本家のスティーヴン・キャラムのヒット作で、トニー賞受賞後に映画化もされた作品を日本初演する。

シリーズ第3弾は、2018年に蓬莱竜太が新国立劇場に書き下ろした『消えていくなら朝』。小川が芸術監督就任とともに打ち出した柱の一つ、「すべての出演者をオーディションで決定する」フルオーディション企画の第7弾として、蓬莱自身が演出する。出演者は2024年1月に公募を開始、2月から3月にかけてオーディションを行い、6名の出演者を決定する。小川は、再びこの作品を取り上げることについて「宗教二世の問題にも斬り込んだ本作は、今日の日本に於いて、更に鮮明で切実な物語として再生されると思います」と語った。

今シーズンには、「戦争」や「変革」の中で、悩み、失い、傷つきながらも暗闇の中で生きることへの肯定や未来への希望を見出そうとする人間たちの姿を大切に描いた物語が多く集まった。小川は「戦争や諍いにおいては強いイデオロギーが掲げられ、破壊行動への正当化も見られます。「戦争や諍いにおいては強いイデオロギーが掲げられ、破壊行動への正当化も見られます。しかし、その深刻な結果を背負わされるのは一人一人の人間となります。一般化や功利主義から離れ、一つ一つの命、一つ一つの個の生に目を向けることには時に膨大な精神力を必要とし、もちろん限界も存在します。しかし遠く離れた地の、または目の前の、自らに1とっての未知の他者を想像し、未知の視界を発見し向き合うための力、ひいて他者との共存への力が演劇には内在していると考えています」とその意義を語った。

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