2023年10月14日(土)に東京・新国立劇場 小劇場にて『アカシアの雨が降る時』が開幕した。初日前日に公開ゲネプロと初日前会見が行われ、竹下景子、鈴木福、松村武、鴻上尚史(作・演出)が登壇した。
本作は、鴻上による、時と記憶を巡る家族の物語。リアルとファンタジー、笑いと涙を巧みに操り、身近で普遍的な社会を炙り出す同作は、2021年の初演時に久野綾希子、前田隆太朗、松村で上演され、好評を博した。
本作では、桜庭香寿美役を、数々の映画・ドラマ・舞台に出演し、近年も舞台『ジン・ゲーム』などで精力的に活動する竹下、孫の木村陸役を、ドラマやTVコメンテーターだけでなく、舞台でも活躍の場を広げている鈴木、桜庭香寿美の息子で陸の父親の俊也役を、劇団「カムカムミニキーナ」主宰であり、劇作家・演出家でもある松村が演じる。
初日前会見では、竹下が「72歳のおばあさん役を演じる70歳の竹下景子です。よろしくお願いいたします」と笑顔で挨拶すると、「初演では久野綾希子さんが演じられました。まずは久野さんからのバトンをしっかり引き継いでいければと思っています」と意気込んだ。続けて、本作の魅力について「家族の話ですけれども、今の私たちが生きている状況、それと香寿美さんが青春時代を送った約50年前の話がクロスオーバーして、とても刺激的で、魅力的な作品だと思っています」と語った。
初日を目前に控えた鈴木は「今更ながらすごく緊張し始めていて、本当に始まっちゃうとひしひしと感じています」と緊張した面持ちながら、「稽古場ではお二人(竹下、松村)、スタッフの皆さんにご迷惑をおかけしながら、鴻上さんにもいろいろと教えていただいて、できるようになったことはたくさんあるなと言えるようにはなったかなと思います。本当に皆さん温かくて、若輩な僕に優しくいろいろと教えてくださったので、温かい現場だなと感じています」と稽古を振り返った。
初演にも出演していたということで気持ちは楽だったという松村は「最初は余裕をかましていたんですけど、僕が一番違う台詞をしゃべっているという状態で(笑)。出入りも忙しいですし、間違わずにやれるのかどうか。今日は間違えるかもしれないですけど、がんばりましょうという気持ちです」と気合いを入れた。
鴻上は、3人の出演者について「3人芝居ですから、全員が主人公です」とにこやかに語ると、竹下について「この役を引き受けてくださって本当にありがたく思います」と感謝しつつ、「とても元気な若々しいおばあちゃん役で、でも自分のことを20歳だと思っていて、自分の孫を恋人という風に思い込んでいるという、本当にばっちしな役です」と太鼓判を押した。
さらに「私の青春時代に(竹下が出演していた)『祭りの準備』という名作映画があったのですが・・・まさか今ここでご一緒できるとは夢にも思わなかったです。非常に私としては幸福な経験です」と喜びを露わにすると、竹下は「いやいや私のほうこそ、福ちゃんと恋人ですから幸せそのものです」と笑顔を振りまき、会場からも笑いが起こった。
その鈴木に対して、鴻上は「福さんは生まれて初めてこの役のために髪を染めました。その気合いの入れ方を観ていただければと思います。染めた割には最初のほうは分からなくて『染めたの?』って感じでしたけど(笑)」と冗談を交えながら鈴木の意気込みに触れつつ、「国民の息子が大学生になり、20歳の設定で山ほど台詞をしゃべりますので、一つ“俳優・鈴木福”を楽しんでいただければと思います」とアピールした。
そして、松村について鴻上は「松村さんは初演から安心して任せていたのですが、今回、安心して任せすぎて、台詞を自分なりに変えすぎていたことが判明し、初日直前にあまりにも台本と違うというツッコミをしまして、ちゃんと戻していただいています(笑)」と裏話を披露しながらも「でも、大ベテランで、TBSの『半沢直樹』チームが早く松村さんを見つけてくれないかなとすごく思っています」と褒め称えた。
加えて、本作の魅力に関して「3世代、おばあちゃんと息子と孫ですから、どのお客さんが見ても必ず感情移入できる視点があると思います。あと1970年初頭、現代の2020年代が交錯するというのも、たぶん感情移入できて、笑って泣ける芝居になっていると思います」と解説した。
松村も「3人芝居で3世代という設定は非常に珍しいんじゃないかなと思います」と魅力を挙げつつ、「初日は東京でやりますけども、特に東京というテーマではなくて、全国どこを回っても3世代ということで、いろいろとあると思いますので、心に響く作品になると思います」とアピールした。
本作の見どころについて、鈴木は「現代を生きる陸の目線であったり、お父さんとの目線、おばあちゃんの目線、それぞれの目線で、観ることによってみんな感じ方が違う作品だと思います」と魅力を語ると、「若い世代の自分から見ても、様々なことを勉強できながらも、家族のこと、現代の社会について、自分が20歳ということについてだったり、これからどう生きていくかという悩み、不安を抱えている方もたくさんいらっしゃると思いますし、僕も本当に悩みがないかというとそうではない人間なので、そういったところでこの作品に出会えたことをすごく嬉しく思っています」と明かした。
そして、竹下は「とても家族がいとおしくなる、そして鴻上さん自身のエピソードも盛り込まれていて心に染みる芝居です。ぜひ皆様、楽しみにしてください」と呼びかけた。
物語は、桜庭香寿美が倒れたところから始まる。孫の陸、息子の俊也が見守る中、目覚めた香寿美は陸を自分の夫・つまり陸の祖父の名前で呼び、自分は20歳の大学生で、陸は自分の恋人で、俊也を恋人の父親だと思いこみ挨拶した。
俊也と陸は医者のアドバイスに従い香寿美の思い込みを否定しないよう、演技を続けることを決意する。こうして3人の香寿美の青春時代(70年代)を共にすごす旅が始まる・・・。
会社の派閥争いに巻き込まれる俊也、大学生活に悩む陸、そこに20歳の大学生と思い込んでしまった香寿美が飛び込み、そこで浮き彫りとなるベトナム戦争当時の日本の時代背景や若者たちの思い。それを青年と中年の世代がリアルな現代の悩みを抱えながら体験することで、「家族」という普遍のテーマを軸に、徐々に変化し、違いを理解し合おうとする姿を描く本作。
安保闘争とも関連づけられて語られ、タイトルのモチーフとなっている「アカシアの雨がやむとき」を筆頭とした当時の流行歌の数々に心躍り、懐かしのギャグを連発する香寿美に困惑する陸というジェネレーションギャップが生み出す笑いをトッピングしながら、その果てに待つ涙がいとおしく切ない。鴻上ならではの、不思議なテイストのハートウォーミングで切ないファミリードラマとなっている。
香寿美を演じる竹下は等身大の70代から、チャーミングでコミカルな20代への心の変貌を演じわけることによって、香寿美を魅力的なキャラクターとしてステージ上に輝かせる。陸を演じる鈴木は今どきの若者らしさを見せつつも、20歳の気持ちとなった香寿美に感化されていくことで成長していく姿を好演。さらに、鈴木の感情を爆発させるシーンや、歌唱シーンは印象的で本作の見どころでもある。そして、サラリーマンとしての悲哀、父親であり息子でもあることで抱える感情の数々に悩む俊也を、松村が落ち着きのある演技と笑いによって、本作に安定感をもたらす。
『アカシアの雨が降る時』は10月14日(土)から10月22日(日)まで東京・新国立劇場 小劇場にて上演。その後、兵庫・石川・岩手・愛媛・大阪を巡演。上演時間は約2時間。また、10月19日(木)19:00公演の配信が決定。チケットなどの詳細は公式サイトを参照のこと。
(取材・文/櫻井宏充 舞台写真撮影:田中亜紀)
『アカシアの雨が降る時』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年10月14日(土)~10月22日(日) 新国立劇場 小劇場
【兵庫公演】2023年11月3日(金・祝) 神戸朝日ホール
【石川公演】2023年11月11日(土) 北國新聞赤羽ホール
【盛岡公演】2023年11月17日(金) 盛岡劇場メインホール
【久慈公演】2023年11月19日(日) アンバーホール 小ホール
【愛媛公演】2023年 11月28日(火)~11月29日(水) あかがねミュージアム
【大阪公演】2023年12月3日(日) 大阪・富田林市すばるホール 2Fホール
スタッフ・キャスト
【出演】
竹下景子 鈴木福 松村武
【作・演出】鴻上尚史
あらすじ
母が倒れた。
病院に駆けつけると、母は20歳の大学生だと思い込んでいた。
そして、私の息子を、つまり、母の孫を自分の恋人だと信じて呼びかけた。
母の恋人、つまり私の父と息子は、顔がよく似ていた。
母と父は大学生の時に出会ったのだ。
医者は、母は病気であり、母の妄想を否定してはいけないと告げた。
息子は母の恋人として話し、私は恋人の父、つまりは私の祖父として振る舞った。
こんがらがった関係の中、母は大学へ戻ると言い出した。
70年代初頭、恋と革命が途方に暮れ始めるキャンパスへと――。
公式サイト
【公式サイト】https://www.thirdstage.com/acacia/
【公式X(Twitter)】@AcaciaRain2023