2023年10月15日(日)より神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>にて、本格ミステリー歌劇『46番目の密室』が上演される。原作は、1992年3月に刊行された小説家・有栖川有栖の「火村英生シリーズ」の第1作目で、井澤勇貴と矢田悠祐のW主演で初舞台化される。本記事では、稽古中盤の稽古場の模様をレポートする。
犯罪心理学者の火村英生と、作家の有栖川有栖という学生時代からの親友コンビが、出くわした事件の謎を解き明かしていく「火村英生シリーズ」。“探偵と助手”のような関係性の中で繰り広げられる、火村とアリスの絶妙な掛け合いが見どころだ。
物語の舞台となるのは、クリスマスの北軽井沢。火村英生(井澤勇貴)と有栖川有栖(矢田悠祐)は、“密室の巨匠”と呼ばれる推理作家の真壁聖一(津田英佑)主催の集まりに参加していた。45に及ぶ密室ミステリを発表し、“日本のディクスン・カー”と称される真壁が夕食の席で「最後の密室ものを執筆中である」と事実上の密室トリック卒業宣言をする。
しかし、真壁は書庫の暖炉に頭を突っ込んだ状態で発見された。しかも、密室状態で。果たして真壁は自らの46番目のトリックで殺されたのか――。
この日の稽古では、物語の中盤シーン作りが行われていた。出版社の異なる、真壁の2人の担当編集者・・・大手・青洋社の杉井陽二(チャンへ)と、珀友社の船沢辰彦(岡本悠紀)が口論している。真壁の“遺作”を巡り、それぞれの真壁との関係や過去が露わになっていく。
チャンへと岡本の掛け合いは迫力満点。よく響く二人の歌声が重なって、ミステリを重厚に彩る。稽古では、心理に基づく動線や、楽曲の歌詞に沿った動きや発声のアタックのつけ方などが、細かく調整されていった。
休憩中も、感情と行動の研究に余念のないチャンへと岡本に、見ていた津田が声をかけ、「こうしてみたら?」と一緒にアイデア出しをするシーンも。演者の内面に渦巻く心理と、それをどう身体表現として見せるか。繰り返しの稽古の中で生まれる変化を、「それいいね!」と拾い上げながら少しずつ固めていっていた。
稽古の中で、台本にも少しずつ修正が加えられていく。変わった部分を、実際に動きをつけて確認していくと、アリス役の矢田があることに気づいた。登場人物たちの重要なやりとりについて、「台詞ではここで気づいたように言うけれど、(演出で)前の場面にも僕がいる状態になっているので、このやりとり見ちゃってますね・・・」と、台詞ともともとつけられていた演出に矛盾が生じてしまったのだ。演出チームからは、すぐさま「調整します!」との声が飛ぶ。こうして意見を出し合いながら、一つ一つの場面が丁寧に検証されていく。
プロフェッショナルながら、座組は和やかな雰囲気だ。火村役の井澤とアリス役の矢田は、休憩時間にも何やら二人で話し込み大笑い。二人の生み出す“バディ感”が楽しみだ。また、髙木俊の周りには何かと人が集まり、ムードメーカーとして慕われている様が伝わってきた。
また、舞台セットにも非常に力が入っていた。大きな舞台をフル活用して、「密室」トリックを視覚的にどう表現するのか、様々な工夫が施されていた。劇場という空間ならではの見せ方には、驚きがたくさん詰まっていた。目撃する時を、お楽しみに。
本格ミステリーであり、歌劇。推理物としての見応えは、原作をご存じの方は百も承知だろう。そして、歌劇としても出演者の顔ぶれを見れば期待せずにはいられない。秋の夜長に高まる芸術欲を満たしてくれる一作となりそうだ。
本格ミステリー歌劇『46番目の密室』は、10月15日(日)から10月22日(日)まで神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>にて上演される。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)
本格ミステリー歌劇『46番目の密室』公演情報
上演スケジュール
2023年10月15日(日)~10月22日(日) KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>
スタッフ・キャスト
【原作】有栖川有栖「46番目の密室」(講談社文庫)
【脚本】石井幸一(一徳会/鎌ヶ谷アルトギルド)
【演出】志賀亮史(百景社)
【作詞】三ツ矢雄二
【音楽】桑原まこ
【出演】
火村英生役:井澤勇貴
有栖川有栖役:矢田悠祐
真壁聖一役:津田英佑
真壁佐智子役:吉沢梨絵
真壁真帆役:飛香まい
檜垣光司役:阿久津仁愛
髙橋風子役:岡村さやか
石町慶太役:輝馬
杉井陽二役:チャンヘ
船沢辰彦役:岡本悠紀
安永彩子役:咲花莉帆
鵜飼役:本田礼生
大崎役:髙木俊
<アンサンブル>
井尻翼馬 弦間哲心
公式サイト
【公式サイト】https://www.nelke.co.jp/stage/46misshitsu-stage/
【公式X(Twitter)】@stage_46banme
(C) 有栖川有栖・講談社/歌劇「46 番目の密室」製作委員会