2023年6月1日に舞台『DOLL』が東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて開幕した。初日当日に公開ゲネプロと囲み取材が行われ、林翔太、松本幸大、陰山泰、藤田玲、元吉庸泰(演出)が登壇。また、初日を迎えて、西葉瑞希、搗宮姫奈、岩田陽葵からコメントが寄せられたので、併せて紹介する。
本作は、現実世界で人形を作れなくなった「人形師」の少年が、VRMMOゲームの中で、再び人形制作に取り組み、仲間との冒険、ライバルとのバトルを通じて、人形と向き合いやがて自分の人生の意味を問い直していく物語。脚本を『ウルトラマン』『プリキュア』シリーズをはじめ特撮やアニメ、ノベライズで活躍する小林雄次、演出を劇団エムキチビート主宰の元吉庸泰が務めている。
原作は、玉梨ネコの「リタイヤした人形師のMMO機巧叙事詩」(TOブックス刊)で、初の舞台化となる。「小説家になろう」から始まった原作は現在までに小説版全2巻、コミカライズ(漫画/いづみやおとは、キャラクター原案/高瀬コウ、ストーリー協力/伊藤高史、構成/梶田まさよし)にてコミックス既刊3巻、4月には最終巻である第4巻が発売。ニコニコ漫画では現在100万回再生に達する人気コンテンツとなっている。
本作の主人公である佐倉いろは役には、数々の舞台で俳優としての実力を発揮し続けている林翔太、VR世界でいろはと対決するズィーク役には、幅広いジャンルでの活躍が目覚ましい松本幸大。
いろはが初めて作った戦闘妖精(ドール)ミコト役には、西葉瑞希。ズィークが使役する戦闘妖精(ドール)9号役には、搗宮姫奈。工房の主人・レトロ役には、陰山泰。いろはとともにVR世界を旅するサラ役には、岩田陽葵。そして、VR世界の最強プレイヤー・ディアベル役は藤田玲が演じる。
ジャニーズ以外での舞台では初めての共演となる林と松本。子どもの頃からお互いを知っている盟友同士の熱い共演も見どころの一つ。
囲み取材で、その点について、林が「いい意味で、本当に変わっていなくて安心しましたでも、場当たりの時なんですけど、9号のヴェールが取れるアクシデントを松本が見て、これは逆にお芝居に使えるんじゃないかと元吉さんと相談していたんです。そういうお芝居に対して最後の最後までしっかりと突き詰めていくっていう姿勢は、見ていて勉強にもなるし、刺激にもなりました」と褒めたたえると、松本が、気心の知れた間柄らしく「あざーす」と答えて、周りの笑いを誘った。
その松本も「いい意味で変らないというか、もちろんお互いがいろんな作品を経験させていただいてる中で絶対に成長していると思っているんです。だから不安は一つもありませんでした。だから、今回、林と本当に共演できて、今このタイミングで共演させていただくチャンスを頂けたということに感謝です。林は林だし、それを信じて今回も、皆さんも信じてやるのみだなと思っています」と気を引き締めた。
印象的なシーンについて、林はいろはの祖父も演じる陰山との共演シーンを挙げ、「最後のほうで、陰山さんと2人でしっかり向き合ってお芝居するシーンがあるんです。いろはとしてもすごく久しぶりにおじいちゃんに会えて、すごくほっとするシーンなんですけど、そのシーンがすごく好きで、。本当のおじいちゃんみたいな安心感があります」と語ると、陰山は「ゲネプロでのそのシーンで、ちょっと泣いちゃうんじゃないかと思った」と反応。その言葉に林も「ちょっと危なかったです(笑)」と同調した。
その話を受けて、松本は「林が『泣いちゃう』と言ってましたけど、僕は別のシーンで泣いちゃったんです(笑)。ズィークは悪にしか見えないかもしれないですけど、妹との関係や葛藤もあって、自分の正義もある中で、自分にとっての敵だと思い込んでいるいろはに対して、人形のミコトに対してのあるシーンと最後に現実世界でのいろはに対して取る行動のシーンで、感情が高ぶって泣いてしまいました」と裏話を披露した。
そんな2人に対して、陰山は「2人は味わいが全然違っているんです。ズィークは容赦なくガシガシくる感じがとっても気持ちいいです。それと、林くんが言った、おじいちゃんと孫のシーンは唯一、何というか、リアルに感じられるシーンで、しかも現実の時間が流れていく。いろはへの『お前は何を求めている』という台詞が僕のキーワードなんですけど、そのことをしっかりと2人で確認しあうシーンなんです。なので、あそこは大好きなシーンです」とコメント。
藤田も、いろはと祖父のシーンについて「あそこで好きな台詞があって、おじいさんが、『救われたんだね』というあそこにすべてが詰まっているなと思うシーンなので好きですね」と思いを明かし、好きなシーンとして「あと、僕はゲーマーとしてカッコイイなと思ったシーンが2人のデュエルの時にパネルが2人の間に出てきて申請しあう、あそこがすごい胸アツで、すごくカッコイイシーンだなと思いました」と挙げた。
本作を“選択肢”の話だと語る演出の元吉は、「何を選んでも間違いではなく、何を選んでも正解であり、結局は何かをもらったり、何かを失ったりして、それを振り返るんじゃなくて、何を選んでいくかという話にしたいというのがありました。稽古の当初から、この人は何を選んだんだろうというのをこだわって作っています。それを観てくださったお客様が、自分の選んだものに自信を持てるみたいな作品になればと思っています」と期待を寄せた。
いろはだけでなく、数々の登場人物たちが行う選択。それは人間たちVR世界のプレイヤーだけでなく、西葉が演じるミコトや搗宮が演じる9号らのドールたちも選択していく。一人一人の小さな選択が重なり合い、やがて大きなうねりを巻き起こし、物語を大きく盛り上げてくれる。
本作の魅力でもあるVR世界を表現するにあたって、プロジェクションマッピングなどの映像技術を駆使せずに、アンサンブルたちが枠を使用して、人間の身体で表現する演劇的な演出となっている。
その演出の裏側を、元吉は「最初はVR世界のウィンドウや、境界線やエリアが変るのをどうやろうかなというのがありました。ディアベルが作品の中で言っているんですけど、『人の心は本物だ』というのがあって、人の心というものはネットの中でも現実でも変らないんじゃないかなと。ネットの中で何かがあっても、本当に現実で傷ついてしまったり、心が病むというのがリアルだと思っていて、だからこそ、境界線というものがカンタンに飛び越えられるようなもので、簡単に超えられないものであったりして、抜けられるんだけど、抜けられないものだということをどういう風に表現しようかなというのがありました」と苦労を明かした。
続けて、枠を使用する演出について「映像を使っちゃうと一面的になってくるのが気になって嫌だなと思っていました。そこで、ドールズたちが今回アンサンブルでいらっしゃっていて、彼ら彼女たちのある意味で人形劇にしようというところが最初にコンセプトとして見つかったんです。そこから、ウィンドウや境界線を枠で全部やっていくということで、人に超えられなかったりとか、でもある人には全然行けちゃうものだったりとか、そういうものを作るのにあの形が良いなと。いいものが見つかってラッキーでした(笑)」と解説した。
その元吉の言葉通りに、林や松本たちメインキャストだけでなく、アンサンブルたちも含めた全員が織りなすゴシックでファンタジーな芸術的“バーチャル”世界が、“リアル”な舞台上に築き上げられている。
囲み取材の最後に、それぞれ登壇したキャストたちからメッセージが寄せられた。
藤田は「『選択』の話ということで、2人がどういう選択をして、こうなっていったのかという、そこに正解はないと思います。ズィークにも正義はあるし、いろはにも正義はあります。そして、今、SNSやAIとかがすごくリアルにある時代で、僕らに近づいているので、この作品は今こそ観るべき演劇なんじゃないかなと心から思います」と訴えた。
陰山は「この作品の隠れたテーマは『想像力』だと思っています。バーチャルでいろんなものが選べるという世界観ですが、その裏で芸術論を交わすおじいちゃんと孫がいて、お客さんはこの中に自分はどこに入り込むか想像しながら観ていただけたらいいなと思います。そのための設定が随所にあって多分あちこち引っかかるように作られていますから、お客様もいろんなことを想像しながら、自分ならどうかなと観てください」とアピール。
松本は「僕にとって、ズィークという役は初めての境地です。本作のアート感や、選択をするという見せ方が、出来上がってみてなおさら僕にとっても初めてと感じられる作品で、新たなジャンルの作品なのかなとすごく感じています。だからこそ、ぜひたくさんの方に見ていただきたいです」と期待を抱きながら、「こういう作品やこういう見せ方が今後も増えてくるかもしれないし、続いていくかもしれない。そういう中で、この作品に携わられて、皆さんと林とお芝居ができて、元吉さんとお仕事させてもらって幸せです。とにかく舞台ならではの良さがすごく詰まっている作品なので、生で観て、生で感じて、生で選択していただきたいです」と呼びかけた。
林は「最初に台本を読ませてもらった時の印象と今の印象は全く違っていて、こんなにも生々しい演劇になるとは思っていませんでした」と振り返ると、「さすが“元吉さんパワー”だなと思いながら、稽古中もやらせてもらったんですけど、ここにいるメンバーだけじゃなくて、特にドールの役のアンサンブルの皆さんを含めたみんながメインキャストという気持ちでやっているので、そういうところも観ていただきたいです」と期待を込めた。
そして最後に、林が「元吉さんの言葉で、『お客様が最後の共演者だ』というのをすごく思っていて、本当にお客様から教えていただくことがたくさんあるので、初日を迎えてお客様の反応を感じるのが楽しみです。千秋楽までお客様も一緒にこの作品を育てていけたらいいなと思っていますので、劇場に足を運んでいただいて、この生の演劇を楽しんでいただけたらなと思います」とメッセージを送り、会見を締めた。
VR世界で人形師としての存在意義を見つめ直すいろはを繊細に演じる林と、憎しみに囚われてVR世界でいろはへ執拗に迫る人形師・ズィークの抱える闇、感情をむき出しに熱演する松本。失ったもの同士の2人の正義がぶつかる迫真の演技合戦は本作の大きな見どころ。
さらに、藤田や陰山らが演じる数々のキャラクターが物語に“リアル”な深みを加え、西葉や搗宮らが演じるドールたちゲーム世界のキャラクターが、一見すると無機質とも思える役柄でありながら、物語が進むにつれて人間的な魅力がふんだんに描かれている。そして、林が“メインキャスト”と呼ぶアンサンブルたちによるアートなVR世界の表現が作品を不可思議で神秘的に彩る。
バーチャル世界とリアル世界が交互に行き交うストーリー展開と、バトルシーンなどのゲーム的な数々の設定と演出がもたらすワクワク感に、林と松本の盟友が演じるいろはとズィークを中心とした人間ドラマが魅力の舞台となっている。
舞台『DOLL』は6月5日(月)まで東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて、6月16日(金)から6月18日(日)まで京都・京都劇場にて上演される。上演時間は1時間40分(途中休憩なし)を予定。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)
初日に向けた出演者コメント
◆西葉瑞希(ミコト役)
舞台『DOLL』毎日キャスト、スタッフの皆様全員で考え、動かし、試行錯誤を繰り返した作品です。舞台上のどこを観ても、何かが起きています!毎公演新鮮な気持ちで届けられるように、まずは私が楽しみたいと思っています。最後まで誰1人欠けることなく、この世界を生きられますように。沢山体を動かして、頑張ります!!劇場でお待ちしております!
◆搗宮姫奈(9号役)
舞台『DOLL』、とうとう開幕します。この作品は、ご来場していただくお客様がどこを切り取るかによって感じ方、見え方が変わる作品です。どこを切り取ってもそれが正解です。そしてご来場いただくお客さまもまた、作品の1部です。是非人形の世界を体験しに来てみてください。皆様のご来場、こころよりお待ちしています。
◆岩田陽葵(サラ役)
舞台「DOLL」ついに本日開幕です!
元吉さんが描く世界に私たちもワクワクしながら挑んできました。ゲームの世界にそれぞれ何かを求めて、もがいて選択し続ける人々と、舞台を美しく彩ってくれているDOLLたちが作り出す不思議で危うげで繊細な世界観をぜひ劇場で体感して頂きたいです。もんざえもんと共に「DOLL’S ORDER」の世界でお待ちしてます!
あらすじ
人形師の家系として将来を期待されていた佐倉いろは。
最高傑作の人形をついに完成させ、人形師の日本一を競う品評会で優勝、高く評価された。
ところが、いろはのアトリエは何者かの放火を受け全焼。
一命を取り留めたいろはだったが腕に大火傷を負い二度と人形が作れない腕になってしまう。
ある日、謎の差出人からDギアというVRマシンが送られてくる。
それは『DOLL’S ORDER』という仮想世界で人形を戦わせ、最強の「DOLL」を目指すというものだった。
初めは人形を戦わせることに躊躇う いろはだったが、なぜか執拗にいろはを狙うズィークという男が現れ次第に戦いにのめり込んでいく。
そんな中、現実世界では放火犯の捜索が続いていた。
ゲーム世界と現実世界、リンクする2つの世界でズィークの目論見が明らかになった時、いろは自身も気づいていなかったズィークとの因縁の戦いが始まる。
その先に待つのは闇か、希望か-。
公演情報
上演スケジュール
【東京公演】
2023年6月1日(木)~6月5日(月)
渋谷区文化総合センター大和田さくらホール
【京都公演】
2023年6月16日(金)~6月18日(日)
京都劇場
出演
佐倉いろは:林翔太
ズィーク:松本幸大
ミコト:西葉瑞希
9号:搗宮姫奈
ナビドール:山下朱梨
レトロ:陰山泰
サラ:岩田陽葵
ディアベル:藤田玲
<アンサンブルキャスト>
大澤信児 小熊樹 郡司敦史/川村理沙 渡邊彩乃 明部桃子 神目聖奈 野田冴音
<スウィング>
風間涼香
スタッフ
【原作】玉梨ネコ『リタイヤした人形師のMMO機巧叙事詩』(TOブックス刊)
【脚本】小林雄次
【演出】元吉庸泰
ほか
主催
『DOLL』製作委員会
公式リンク
公式サイト: https://doll-stage.com/
公式Twitter:@doll_stage
(C)玉梨ネコ・TOブックス
(C)『DOLL』製作委員会