長野博主演で上演されているブロードウェイ・ミュージカル『バイ・バイ・バーディー』。本作は、1960年代アメリカを舞台に、エルヴィス・プレスリーの徴兵エピソードにヒントを得て作られたコメディミュージカル。古き良き時代を感じさせる音楽や、ドタバタコメディのおもしろさ満載で、観客を沸かせている。
その中で、世界中の女性を虜にするロックスター「コンラッド・バーディー」役を演じているのが松下優也だ。アーティストとして長らく音楽活動を行っている松下が、どのようにスター像を作っていったのか、自身の音楽ルーツや、コメディのおもしろさなどを交えながら、語ってもらった。
なお、公演は10月30日(日)まで神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉で上演後、11月5日(土)から11月7日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、11月10日(木)に東京・パルテノン多摩 大ホールにて東京ファイナル公演が行われる。
――『バイ・バイ・バーディー』、底抜けに楽しいミュージカル作品ですね。
そうですね。本を読んでいる段階から、自分の役のことだけではなく、全体を想像していたんですが、とてもイメージしやすかったですね。アンサンブルの方がとてもフレッシュなので、座長の長野さんを中心に、どのシーンも楽しいものになっていると思います。
――長野さんとの共演は初かと思いますが、いかがですか?
長野さん、もともと持っている人間性がすごく優しいオーラとなって溢れ出ているんですよ。自分はV6世代ということもあり、ご一緒できて光栄です。長野さんが演じるアルバート・ピーターソンと、僕が演じるコンラッド・バーディーは、レコード会社の社長とミュージシャンという間柄なのですが、基本的にコンラッドがアルバートを振り回しています(笑)。長野さんは、頼りがいがあって、何があっても受け止めてくださる方だと思っているので、舞台の上ではわがままにコンラッドとしてぶつかっています。
――コンラッド・バーディーは“ロックスター”という役柄ですが、役作りはどのように?
もともとこのお話が、エルヴィス・プレスリーの徴兵エピソードにヒントを得て生まれたこともあり、エルヴィス・プレスリーの楽曲を改めて聞いてみたりしましたね。プレスリーの歌い方の中にある遊びとか、自分にはないポイントを取り入れてみたり。コンラッドはすごくフレッシュさがあるキャラクターですから、逆に自分の歌い方の感じの方が合うんじゃないかとか思ったら、それを試してみたり。
ミュージカルは、台詞を音楽に乗せて歌うことが多いと思うんですが、コンラッドが歌うシーンは「ライブ」として歌う部分が多くショーアップされているので、そこは自分がもともと持っているノリとかも活かしながら、楽しくパフォーマンスさせていただいていますね。
コンラッド自体には「こうでなきゃいけない」みたいな縛りはそんなになくて。むしろ、コンラッドが何かをやることによって、周りを惹きつけたり、振り回したりする存在だと思っているので、自分が思いついたアイデアをどんどん試すのが大事だなと。決めておかなければいけない部分以外は頭を柔らかくして、なんかいい方法はないかなと日々楽しみながら探っています。
――今回、演出と振付をTETSUHARUさんが手掛けられています。
TETSUHARUさんとご一緒するのは8年ぶりぐらいなのですが、自分が踊れるってことも知ってくれていてとてもやりやすかったです。TETSUHARUさんご自身もダンサーの方なので、ミザンス(立ち位置)をつけてから中身を作っていく演出なんですよ。なので、割と自由にさせてもらっていました。多分、自分の感覚的にはTETSUHARUさんに信頼していただけていると思うので。割と決めすぎずにやらせてもらっているなと感じています。
――本作、何と言っても音楽がとても素敵です。松下さんご自身は、この楽曲についてどのようにお感じになられていますか?
コンラッド・バーディーはミュージシャンですから、楽曲がミュージカル楽曲というよりも、普段の自分がやっている音楽活動の中で触れるものに近いんです。だから、歌う僕もライブモードというか、その場のグルーヴ感を大切にしていますね。
――お気に入りのナンバーは?
やっぱり、コンラッドが登場して最初に歌う「正直になれ」が一番好きですかね。あの曲が、やっていても一番楽しいです。これぞコンラッド・バーディー!というような楽曲だし、すごく自由度が高いんです。時代を映しているからか、繰り返すフレーズが多いということもあり、いろいろ遊べることがたくさんあってお気に入りです。
歌う前の登場シーンも、楽しいんですよ。ファンの子たちが歌っていて、バーディー自身には台詞が全くないんです。そこにいるだけで、バーディーのスター性が伝わらないといけないので、僕としてはどうやって見せていこうかと、演じがいがあるシーンですね。
――高橋亜子さんの訳詞については?
印象に残る言葉にしてくださいますよね。あとは、歌っていてすごく歌いやすい。母音とか、細かいところまでしっかり考えてくださっているのが分かります。英語の歌詞を日本語にした場合、意味をちゃんと伝えるのはもちろん大事なんですが、母音の響きなどが変わってしまうと本来の楽曲が持つグルーヴ感とは違うものになってしまったりするんですが、高橋亜子さんの訳詞は、自分としてはすごく歌いやすくやらせてもらっています。
――歌については、松下さんご自身もすごくこだわりがある部分なのでは?
相当こだわってやっている方だと思います。テクニカル的というよりは、まず感覚で歌って、その感覚をたしかめる時期を過ぎたら、どこの部分でコールさせるのか、どこまで伸ばすか、ここはビブラートかけるのかかけないのか、どういう声で歌うのかを、感情に合わせて作っていく感じです。ただ、コンラッドに関してはどちらかというと音楽面の強い人物なので、ミュージカルでやってきた歌い方よりは、普段のアーティストとしての歌の方が活かされているのかなと思っています。
――音楽にも造詣が深い松下さんですが、60年代の音楽についてはどんな印象をお持ちですか?
エルヴィス・プレスリーって、やはりすごい存在だと思うんです。自分はどちらかというと、黒人の方たちのカルチャーや音楽に触れてきましたが、白人のエルヴィス・プレスリーからもアフリカンアメリカンのテイストをすごく感じます。時代背景的にはカルチャーバルチャーの面もありますが、ただのロックではない音楽が確立したのもこの時代なのかなと。実際のことは、その時代に生きていたわけではないから分からないですが。
――松下さんはマイケル・ジャクソンなどもお好きですよね。ブラックミュージックの影響は色濃い?
そうですね。歌声って「聞いたら、その人が何を聞いてきたか分かる」って言うじゃないですか。僕が好きでやってきたのは、R&Bやソウル、ゴスペルなんですが、きっと人が聞いたらそれが一発で分かる歌い方になっているんじゃないかな。聞いてきた音楽に影響を受けて培ってきたグルーヴ感は、大事にしていきたいと思っていますし、今回も活かせているのではと思います。
――ちなみに、最近好きなミュージシャンを挙げるとしたら?
もうめちゃくちゃいるので、挙げ出したらきりがないんですけど(笑)。アッシャーが最近1997年に出したアルバム「My Way」の25周年を記念したデラックス版を出したので聴いたんですが、それもめっちゃ良かったです。YouTubeで見た「Tiny Desk Concert」(米NPRの人気番組)の映像も、めっちゃかっこよかった。アッシャーはもう40歳を過ぎても現役バリバリで、憧れますね。
――『バイ・バイ・バーディ―』は、松下さんの音楽面も存分に味わえる一方で、コメディならではの楽しみも詰まっていますね。
僕、関西人ということもあって、もともとすごく「笑い」が好きなんです。お笑いを見るのも好きだし、演じるのも好き。コメディをやる時の「セオリー」みたいなのは、なんとなく分かるんです。それをいつも真剣に考えるようにしています。ふざけて見えそうなものほど、緻密に。
自分はコメディのプロでも、お笑い芸人でもないのですが、だからこそ、より真剣にやることを意識しないと、コメディにならないと思うんです。僕らの仕事は、お客さんに見せる仕事。例えば、感動的なシーンは「自分たちが感動する」のではなく「観てくださる方々が感動できて泣ける」ようにしなければならない。コメディも同じで。僕らがコメディですよと提示するのではなく、その状況を見て、お客さんに笑ってもらわなければいけない。だから「コメディをやる」というよりは、「真剣勝負」です。すごく楽しいミュージカル作品なので、真剣な僕らに、客席の「楽しい」が伝わるぐらい、笑ってもらえていたらいいですね。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号、舞台写真:源賀津己)
ブロードウェイ・ミュージカル『バイ・バイ・バーディー』公演情報
上演スケジュール
【神奈川公演】2022年10月18日(火)~10月30日(日) KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉
【大阪公演】2022年11月5日(土)~11月7日(月) 森ノ宮ピロティホール
【東京ファイナル公演】2022年11月10日(木) パルテノン多摩 大ホール
スタッフ・キャスト
【原作戯曲】マイケル・スチュワート
【音楽】チャールズ・ストラウス
【作詞】リー・アダムス
【翻訳・訳詞】高橋亜子
【演出・振付】TETSUHARU
【音楽監督】岩崎廉
【出演】
アルバート・ピーターソン(アルメイルー・ミュージック社社長):長野博
ローズ・アルバレス(アルバートの恋人兼秘書):霧矢大夢
コンラッド・バーディー(ロックスター):松下優也
ヒューゴ・ピーボディ(キムの「ステディ」):寺西拓人
キム・マカフィー(10代の少女):日髙麻鈴
ランドルフ・マカフィ―(キムの弟):内海啓貴
アーシュラ・マークル(キムの近所の友だち):敷村珠夕
メイ・ピーターソン(アルバートの母親):田中利花
ドリス・マカフィ―(キムとランドルフの母親):樹里咲穂
ハリー・マカフィ―(キムとランドルフの父親):今井清隆
大澤信児 加藤翔多郎 東島京 星川光 本田大河 溝口悟光
青山瑠里 石井千賀 七理ひなの 中村ひより 水野貴以 山木愛海 山本咲希(50音順)
あらすじ
若くして音楽会社を立ち上げたアルバート・ピーターソンは窮地に立たされていた。アメリカ中、いや世界中の女性の心を鷲掴みにして虜にしているスーパーロックスターでクライアントのコンラッド・バーディーが召集令状を受けたというのだ!スーパースターの徴兵とあっては、会社が立ち行かなくなってしまう・・・。
アルバートの恋人であり秘書でもあるローズ・アルバレスは、入隊前最後の曲<ワンラストキス>を作り、発売企画としてラッキーな女の子一人に“コンラッドの「ラストキス」をプレゼントする”という破天荒なアイデアを思いつき、さっそくオハイオののどかな町に暮らす少女、キムがラッキーな少女として選ばれた。
キスの企画に反対するキムのボーイフレンド・ヒューゴをはじめ、父ハリー、母ドリス、弟ランドルフ、友人アーシュラ・・・と、小さな町に大スターがやってくることで上を下への大騒ぎ!
一方、アルバートとローズは、そろそろ結婚を・・・という考えはあるものの、母メイをなかなか説得できないアルバートに、ローズはやきもきしている。果たして、<ワンラストキス>企画は成功するのか?そして、アルバートとローズの恋の行方はいかに――。
【公演サイト】https://byebyebirdie.jp/
【公式Twitter】@byebyebirdiejp