2022年6月から7月にかけて上演される『パンドラの鐘』より、公演ビジュアルが公開された。本作は野田秀樹の戯曲で、蜷川幸雄と野田によって別々の劇場で同時期に上演するという、異色の実績を持つ作品。今回は、初舞台となる成田凌と、葵わかなのW主演、杉原邦生の演出で「NINAGAWA MEMORIAL」として上演される。
1999年に野田が書き下ろした『パンドラの鐘』は、蜷川幸雄と野田によって、Bunkamuraシアターコクーンと世田谷パブリックシアターの二館で同時期に上演された。蜷川は“岩”、野田は“紙”と、同じ作品ながら全く違ったモチーフとアプローチで作品を創り上げ、一大センセーションを巻き起こした。
2016年にこの世を去ったシアターコクーン前芸術監督・蜷川幸雄の七回忌を迎える今年、「NINAGAWA MEMORIAL」と題して、初演以来23年ぶりにシアターコクーンでの上演が実現。蜷川作品より多大な影響を受けたという杉原の手によって、現代に蘇る。
物語の舞台は、太平洋戦争開戦前夜の長崎。そこでは、ピンカートン財団による古代遺跡の発掘作業が行われていた。考古学者カナクギ教授の助手オズは、土深く埋もれていた数々の発掘物から、遠く忘れ去られていた古代王国の姿を、鮮やかによみがえらせていく。
王の葬儀が行われている古代王国。兄の狂王を幽閉し、妹ヒメ女が王位を継ごうとしているのだ。従者たちは、棺桶と一緒に葬式屋も埋葬してしまおうとするが、ヒメ女はその中の一人ミズヲに魅かれ、命を助ける。
ヒメ女の王国は栄え、各国からの略奪品が運び込まれている。あるとき、ミズヲは異国の都市で掘り出した巨大な鐘を、ヒメ女のもとへ持ち帰るが・・・。決して覗いてはならなかった「パンドラの鐘」に記された、王国滅亡の秘密とは?そして、古代の閃光の中に浮かび上がった<未来>の行方とは――。
勝村政信、堤真一が演じてきた「葬式屋のミズヲ」役には初舞台・初主演となる成田。そして、大竹しのぶ、天海祐希が演じた古代の女王「ヒメ女」役を葵が演じる。このほか、前田敦子、玉置玲央、大鶴佐助、柄本時生、片岡亀蔵、南果歩、白石加代子と、多彩な顔ぶれが集結した。
今回ビジュアルを撮り下ろしたのは、蜷川幸雄の長女で写真家・映画監督として世界的に活躍する蜷川実花。「祝祭」「祈り」「鎮魂」「希望」といった作品のテーマに、蜷川が持つ独特で豊かな色彩感覚が織り込まれ、日本の歴史のTABOOに真っ向から挑んだ本作の衝撃に負けない、インパクトのあるビジュアルが完成した。
蜷川実花は「父が亡くなって6年経っても、こうして『NINAGAWA MEMORIAL』と題して公演をしてくださること、ありがたく思っています。そして、その公演にビジュアル撮影という形で参加することができて、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。1999年の公演も両パターン観ているので、今回はどんなことになるのか楽しみです」とコメントを寄せている。
COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』は、6月6日(月)から6月28日(火)まで東京・Bunkamura シアターコクーン、7月2日(土)から7月5日(火)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。
チケットの一般発売は、東京公演が4月17日(日)10:00から、大阪公演が5月22日(日)10:00からスタート。
コメント紹介
◆野田秀樹(作)
蜷川幸雄は、20も年下の私を、人前では必ず「野田さん」と呼んでくれた。それは蜷川さんの律儀な「他の演劇人」へのリスペクトの表れだった。ただ、話し込んでいくといつの間にか「野田、お前さあ」に変わっていった。私は、律儀なリスペクトが親愛の情に変わるその瞬間が好きだった。
あの日もそうだった。
「野田さん」で始まった対談が終わる寸前、「野田さあ、お前、俺になんか書けよ」になっていた。私は「蜷川さん、有難い話だけれど、自分の芝居を書くのに精一杯ですよ」そう答えながら、ふと突拍子もなく図々しいことを思いついた。「でも蜷川さん、これから僕が自分で演出するために書く芝居を、蜷川さんも演出してくれるんだったら、書きますよ」当然、「バカ、ふざけんな!」という答えが返って来るとニヤついていたら
「いいよ、それでも」という真顔の返事だった。私は驚きと半信半疑で「え?でも、それは僕だけが得しますよ」私は、どう考えても蜷川さんに失礼この上ない事を言ってしまったと思い直した。けれども蜷川さんは「そのくらいのことをしなけりゃ、硬直した演劇界は面白くならねえんだよ」「いや、でも・・・」「大丈夫だよ、それで。俺の方がいい演出してやるから」「ほんとに?」「ほんとだよ、バカ!」・・・ほんとなんだ、本気なんだ。しまったこれはもしかしたら、大変な約束をしてしまったかもしれない。臆した時にはもう遅い。話は決まってしまった。
こうして私は蜷川幸雄を意識しながら懸命に芝居を書いた。そして「パンドラの鐘」という作品が世に生まれた。
あの日、私は蜷川幸雄に演劇人としての懐の深さと演出家としての芯の勁さを感じとった。
蜷川さんのその深さと勁さがなければ、この「パンドラの鐘」は生まれなかっただろう。
その深さと勁さを、この度は、若くして才ある演出家杉原邦生さんに委ねる。杉原さんもこれだけ言われるとプレッシャーを感じるだろうが、大丈夫、白石加代子を始めとした、海千山千の「深く」「勁い」役者ばかりだ、好き放題にやっていただきたい。
バトンは渡された。
◆杉原邦生(演出)
僕たちが生きるこの世界から争いが消えることはない―――そんなかなしい確信を抱かざるを得ない現実を目の当たりにする
日々の中で、野田秀樹さんがこの戯曲に託した〈希望〉の意味を改めて噛み締めています。そして、このシアターコクーンで生前数々の名作を生み出した蜷川幸雄さんの七回忌を迎える本年、「NINAGAWA MEMORIAL」と冠した公演で演出を託されることの重責を強く感じています。それと同時に、二人の偉大な演劇人のレガシーを僕たちが繋いでいけることの〈希望〉に、これまでにない大きな興奮をおぼえています。
成田凌さん、葵わかなさんというフレッシュなお二人をはじめとする魅力的すぎるキャスト陣に加え、異種混合で多彩なスタッフの皆さんとともに、パンドラの鐘の中に残された人類の〈希望〉を、その鐘の音に乗せ、古代から現代、そして遠く未来へと響かせたい。それが僕の願いです。
◆成田凌
20年前から様々な方々が演出され、演じられてきたこの『パンドラの鐘』、”ミズヲ”を演じさせていただきます。自分自身、初めて舞台に立たせていただきますが、気の知れた方や信頼できる方、大先輩方に支えられながらしっかりとミズヲを演じられたらと思います。葵わかなさんは前回お母さんだったのでまた違うお芝居ができるのをたのしみにしています。迫力のあるものをお見せ出来ますよう、頑張ります。
◆葵わかな
脚本を初めて読ませていただいた時の気持ちが、今も強く残っています。不思議で突拍子もなくて、巧妙で、切なくて・・・色々な気持ちが浮かびすぎて、なんて言葉で表したらいいのかわからないくらいなのですが、それを表現する立場に加われることがとても嬉しいです。成田凌さんとは親子という間柄を演じて以来の共演なので、不思議な気持ちもあるのですが、とても心強いです。この作品ではどんな関係性をお見せできるのかとても楽しみです。演出の杉原邦生さんをはじめとする座組の皆さんとご一緒させていただけることに、とてもワクワクしています!精一杯がんばりたいです。
COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL
『パンドラの鐘』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2022年6月6日(月)~6月28日(火) Bunkamuraシアターコクーン
【大阪公演】2022年7月2日(土)~5日(火) 森ノ宮ピロティホール
スタッフ・キャスト
【作】野田秀樹
【演出】杉原邦生
【出演】
成田凌 葵わかな
前田敦子 玉置玲央 大鶴佐助
森田真和 亀島一徳 山口航太 武居卓
内海正考 王下貴司 久保田舞 倉元奎哉 米田沙織 涌田悠
柄本時生 片岡亀蔵 南果歩 白石加代子