眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート


2023年10月7日(土)に東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて舞台『My Boy Jack』が開幕した。その初日前日に行われた公開ゲネプロの模様をレポートする。

眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート

「My Boy Jack」は、「ジャングル・ブック」などで知られるノーベル文学賞受賞作家、ラドヤード・キプリングが、第一次世界大戦中に書いた詩。声高に戦争が悪いとも、戦争に行かなければよかったとも、息子を返せとも言わず、荒れ狂う風と潮に翻弄され、なすすべもなくいる者のやり場のない憤りや嘆きが語られている。その後、名優デイヴィッド・ヘイグが戯曲化し、1997年にウェストエンドで上演。イギリスで2007年にテレビ映画化された際には、息子役をダニエル・ラドクリフが演じたことも話題となった。

眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート

演出を手掛けるのは、『エンジェルス・イン・アメリカ』『4000マイルズ~旅立ちの時~』などの演出も務めた上村聡史。出演はラドヤード・キプリング役に眞島秀和、妻キャリーを倉科カナ、息子ジョン(愛称:ジャック)を前田旺志郎、ジャックの姉・エルシーを夏子が演じる。

劇場に入ると、舞台の背景一面に「My Boy Jack」の詩が記されたセットが目を引く本作。物語はキプリング家の邸宅で、酷い近視ゆえに軍の規則で入隊出来ないジャックを、なんとか入隊させようとするラドヤードが入隊試験の面接の予行演習をさせるところから始まる。

眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート

息子を入隊させようとするラドヤードに対して、妻キャリーはジャックのためではなく、ラドヤード自身のために息子を入隊させようとしていると非難する。ジャックは、ラドヤードに連れられて陸軍の入隊試験に臨むが、ラドヤードに会えることを名誉に思う軍人たちでもラドヤードの名声は通じず、ジャックは入隊できなかった。

だが、ラドヤードはあらゆる人脈を使って息子を軍にねじ込む。そのことを知った姉エルシーはラドヤードを嫌悪し、キャリーも心労で憔悴してしまい、家族の心はバラバラとなってしまう。そして、努力により将校となったジャックは、西部戦線へと出征するのだが、そこで戦争の現実を知ることになってしまう・・・。

眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート

世界大戦の忍び寄る影が重苦しくのしかかり、戦場に息子を送り出すということが、愛国心から名誉や当たり前と考えら得ていた時代。本作で描かれているラドヤードは、すでに「ジャングル・ブック」を執筆し、ノーベル文学賞も受賞しており、大人気の名高い作家となっている。

ラドヤードはインテリ層のノブレス・オブリージュ的な考えだろうか、軍隊に寄付するなど愛国心の堅物として、息子を戦地に送り出すことに、ためらいも何もない。しかし、理想の通用しない戦争の前線に立つことで、凄惨な現実に直面するジャックが行方不明となり、すべてが一変してしまう。

息子を失った罪の意識に苛まれるラドヤード、息子の安否を願うあまりに夫につらくあたるキャリー、父と母の心情を思いながらも気丈に振る舞うエルシー。平和なこの時代の日本において、本作はシリアスで重い物語と捉えてしまいがちだが、その根底に描かれるのは現代においても普遍となる家族の愛情の物語だ。

眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート

厳格であるが、家族への愛情も深く、決して非難できる存在ではないことが逆に物悲しく胸を締め付けられる存在であるラドヤード。演じる眞島は厳格で骨太なキャラクターを静かな熱を込めて演じる。そして、当時のつつましい妻として夫を立てながらも、愛する子どもを守ろうと必死になるキャリーを晩年まで演じきる倉科。

ジャックの本当の自分になりたいとの思いから家を離れる無邪気さと、戦場で直面する現実に上げる悲痛の叫びの対比が、観る者の心へ深く刻み込む演技を見せてくれる前田。純粋さからコネでジャックを入隊させた父を嫌悪しながらも、家族を人一倍思う無垢な存在でもあるエルシーを、ピュアに演じる夏子。

眞島秀和、倉科カナらが戦時下のノーベル賞作家の一家に待ち受ける悲哀と愛情を描く 舞台『My Boy Jack』レポート

舞台セットの背景に刻み込まれた「My Boy Jack」の詩が嘆き訴える。これは一つの家族の物語。ジャックの行く末と、ラドヤードたち一家の思いの果てに待つものは・・・。

少数精鋭のキャストによって、一家の心情と揺れ動く機微を丁寧に、そして繊細にステージ上へと描き出し、濃密な演劇空間に満ちる迫真の演劇体験を味わうことができる作品となっている。

は10月22日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演後、福岡・兵庫・愛知を巡演する。

(取材・文/櫻井宏充、撮影/岡千里)

舞台『My Boy Jack』公演情報

上演スケジュール

【東京公演】2023年10月7日(土)~10月22日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【福岡公演】2023年10月28日(土)~10月29日(日) キャナルシティ劇場
【兵庫公演】2023年11月3日(金)~11月5日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【愛知公演】2023年11月11日(土)・11月12日(日) 東海市芸術劇場 大ホール

スタッフ・キャスト

【作】デイヴィッド・ヘイグ
【翻訳】小田島則子
【演出】上村聡史

【出演】
ラドヤード・キプリング:眞島秀和
キャリー・キプリング:倉科カナ
ジョン・キプリング:前田旺志郎
エルシー・キプリング:夏子

佐川和正
土屋佑壱
小林大介

公式サイト

【公式サイト】https://mbj.srptokyo.com/
【公式Twitter】@mbJack_2023

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