中村勘九郎らの五感を揺さぶる朗読劇『バイオーム』制作発表会見


2022年6月に東京・東京建物Brillia HALLでスペクタクルリーディング『バイオーム』が上演される。その制作発表会見が4月26日(火)に東京・帝国ホテルで行われ、上田久美子(作)、一色隆司(演出)、中村勘九郎、花總まり、古川雄大、野添義弘、安藤聖、成河、麻実れいが登壇した。

本企画は、確固たる脚本をもとに、朗読劇としてスタートし、VR/ARなどのテクノロジーを駆使し、俳優とバーチャルテクノロジーの間に作り出される関係性を重視しながら、五感で体感していくサイトスペシフィック演劇へと進化を目指す進化型エンターテイメント演劇。

その第一弾となる本作の脚本は宝塚歌劇団で心に残る数々の名作を手掛けてきた上田、演出は「麒麟がくる」「精霊の守り人」を手掛けた一色が務め、“スペクタクルリーディング”と銘打ち、五感を揺さぶる朗読劇を上演する。出演は、主演の中村を筆頭に演劇界を牽引する7名の俳優陣が集結し、それぞれが一人二役を演じる。

あらすじ

その家の男の子はいつも夜の庭に抜け出し、大きなクロマツの下で待っていた。フクロウの声を聴くために・・・。男の子ルイの父に家族を顧みるいとまはなく、心のバランスを欠いた母は怪しげなセラピーに逃避して、息子の問題行動の奥深くにある何かには気づかない。政治家一族の家長としてルイを抑圧する祖父、いわくありげな老家政婦、その息子の庭師。力を持つことに腐心する人間たちの様々な思惑がうずまく庭で、古いクロマツの樹下に、ルイは聴く。悩み続ける人間たちの恐ろしい声と、それを見下ろす木々や鳥の、もう一つの話し声を・・・。

製作発表会見レポート

会見では、宝塚以外で初の脚本となる上田が「今の社会や世界から自分が受け取ったものを即興的に形にしたいと思って書かせていただきました。それが植物たちの世界や人間たちの世界が二層に集まっているというような不思議な作品になりまして、自分としては本当にこれでやっていただけるのか不安でしたけど、やっていだけるということで良かったです(笑)。素敵な作品になることを期待しています」と挨拶。

スペクタクルリーディングと朗読劇との違いについて、一色は「本を読んでいて、気づいたらその本の世界にいるというようなそういう世界観を持った作品で、それがスペクタルなことではないかと思っています。観てくださった方は、自分がそれぞれのキャラクターや植物になったり、それを見下ろしているようなものになっていたり、劇場の空気がまったく最初のものとは違うものを感じていただけると思います」

「さらに自分が宇宙の中のたった一つの原子のようなそういう構成要素の一つなのかなと思えるようなものを感じていただけるような作品にしたいと思っています。それが実現した時には、今までの朗読劇では感じられなかったような思いを、普通の演劇では感じられない思いを心に宿しながら劇場をあとにしていただけるようなそういう作品にしたいと思います。それが“スペクタクルリーディング”と名付けたポイントです」と説明。

加えて、会場の後ろに飾られているストリングカーテンを指して「この会場にあるストリングカーテンも劇場でご覧いただけるものでして、重要な役割を果たしてくれる予定になっています」と演出の一端を明かした。

本作について、上田は「書いているうちに、今までのカテゴリーで人間ドラマにはまらないものにしたいとなっていました。観に来ていただいた方が、“スペクタクルリーディング”という新しい舞台の形式に合わせて、物語の含みとしてもなんだか知らなかったものだと思っていることを感じ取って持ち帰っていただけたらと思っています」と期待感を露わにした。

さらに人間と植物の二役という作品に関して「植物の世界を書きたいというのがありました。植物というのはあまり自分というものがはっきりとなくて、植物と植物との意識がある程度共有されているものであり、ひたすらそこで起きていることを受け取っている存在だと思っています。そうするとある種ト書きみたいなことを言ってくれる。あまりト書きを朗読劇だから読んだら無粋かなと思っていたので、植物たちにト書きを担ってもらえることもできるし、ちょうどいいなというところから書き始めたところでした」と執筆エピソードを披露。

自身が書いた脚本を、他の演出家が演出するのは初という上田。「すごくワクワクしています。自分が思っている以上に、他の人の考えている世界が加わって世界が広がっていく体験は今までさせていただいたことがなかったので、とても楽しみにしております」と語ると、一色も「がんばります!」と笑顔で答えた。

代々続く政治家一族の一人息子ルイとルイの家で働く家政婦ふきの孫娘ケイの二役を演じる主演の中村は「上田さん脚本、そして一色さん演出のもと、皆様とご一緒できるというだけで幸せですし、ワクワクしております」と挨拶すると、「人間と人間の二役ですけど、人間と植物をやりたかったな(笑)」と冗談交じりにコメント。「ルイとケイは8歳の男の子と女の子。40歳の私が演じるとどうなるだろうかという不安しかないんですけど(笑)、遠い昔に置き忘れてしまった純粋な心を本番までに取り戻したいです」と意気込んだ。

精神的に不安定な部分がある一族の一人娘でありルイの母親の怜子、そしてクロマツの芽の二役を演じるのは花總は「人間と植物という二役は初めてのことですし、怜子がやるからクロマツの芽の意味があったりという2つの役の関係性というのも絶対大切なものがあると思います。そこはこれからお話を伺いながら、素晴らしいキャストの方々とコミュニケーションを取りながら、自分の果たすべき役割というものを把握して作っていきたいです」と役作りについて語った。

ルイの一家に古くから仕える家政婦ふきと、樹齢二百年近い大きな黒松の二役を演じる麻実は「淡々と堂々と根を張って生きるクロマツ、そしてそのクロマツとは対照的な家政婦。どちらかと言えば植物のほうは穏やかな感じで、ふきのほうは緊張感を感じながら演じたいと思っています。両方とも素敵な役で、特に植物の世界は輝いてコミカルな箇所がたくさんあります」と役柄を説明。

家政婦ふきの一人息子で、父を継いで一家の庭師をしている野口とイングリッシュローズの二役を演じる古川は「野口は謎めいた人物で、葛藤を抱えていて、物語に大きく関わってくる重要な役だと思っております。そしてイングリッシュローズは、マダム風な口調と聞いております。いろんな参考資料を見て、マダム風な口調を習得して披露したいと思います(笑)」と“マダム”な点をアピールして周りを笑わせた。

一族の婿養子で、元官僚の学と若い大木セコイアの二役を演じる成河は「学は勘九郎さんと親子、花總さんとは夫婦というなかなかハードルの高い役柄です(笑)。婿養子なので本人には血筋はないんですけど、努力して婿養子になったということで、いろいろなストレスや葛藤を抱えているという役どころです。花總さんとの夫婦関係についてかなり生々しい部分を担当させていただいて、そこをどこまで攻めていけるかというところです」と説明しながら役作りについて語った。

続けて「セコイアという木は西洋種の木で、政治家一族の庭園があるんですけど、その庭園にまず大きなクロマツがあって、政治家の趣味でもあり、威厳の象徴としていろんな木を植林していくわけですが、そこに日本古来の植物と西洋の植物が混ざってよく分からない庭園になってしまっているというのがまた一つこれが大事なテーマとなっています。そういうところで植物として何を見守ってきてどういう心持ちで何を見てきたのかというのを考えるのが楽しみです」と期待を寄せた。

一族の家長で、現在は引退して老獪に学をサポートしている元大臣克人とクロマツの盆栽の二役を演じる野添は、「克人は一見厳しくてすごく冷酷な感じの人に見えるんですけど、そうじゃないというところを表現できたらと思います。クロマツの盆栽は愉快な庶民派のおっさんという感じで、人間と植物が対照的で、一つは感覚的、もう一つは論理的という感じでその違いを見せていけたらと思います」と意気込み披露。

ルイの母、怜子の傾倒する花療法士ともえと竜胆の二役を演じる安藤は「ともえさんは怪しげな花療法士と紹介されているんですけど、作品の中で一番庶民的で地に足が着いている人間で、なにより幸せについて知っている人だなと感じました」と役のイメージを解説。また、双子の母でもある安藤は「彼女はシングルマザーなんですが、彼女のような感情をを抱くことが日々あるので、そのあたりを表現できたらいいなと思います。竜胆については、花言葉に“正義”というのがあり、その“正義”というのはともえさんにも竜胆にも共通する部分だと思いましたので、そこを二役の共通項として楽しんで演じたいです」と役作りへの思いを明かした。

脚本の第一印象について問われた中村は「分かりやすい、見やすいものが良しとされている世の中にパンチを与えるような作品だなと思いました。植物とか大地とか地球とか難しい感じですが、お説教臭くならずに、観に来てくださったお客様が何か持ち帰っていただけるような本です」とアピール。

古川は「目の前にメリーゴーランドがあって、乗ってみると、気づいたらジェットコースターだなと。いろんなところにいって、乗り込んだあとに心をわしづかみにされて、もう一回乗りたいという本でした……伝わりますか?(笑)」と独特の例えで会場を笑いに包んだ。

初顔合わせとなる出演者たちの印象について、中村は「私は人見知りが激しいタイプですけど(笑)、先ほどお会いして、少しおしゃべりをさせていただいて、何かスッと入れるようなところがありました。あとは『もう(台詞は)覚えたでしょう』とか、足の引っ張りあいが始まっていて(笑)、楽しく稽古ができると思います」と披露。記者からプレッシャーをかけているのは誰なのかと質問されると「成河さんです(笑)」と答えて記者たちの笑いを誘った。

スペクタクルリーディング『バイオーム』は6月8日(水)から6月12日(日)まで東京・東京建物Brillia HALLにて上演される。チケットは、5月21日(土)より一般発売開始。

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

スペクタクルリーディング『バイオーム』 公演情報

上演スケジュール・チケット

2022年6月8日(水)~6月12日(日) 東京・東京建物Brillia HALL

<チケット一般発売>
5月21日(土)10:00~

スタッフ・キャスト

【作】上田久美子
【演出】一色隆司

【出演】
中村勘九郎
花總まり
古川雄大
野添義弘
安藤聖
成河
麻実れい

【公式サイト】https://www.umegei.com/biome/
【公式Twitter】@BIOME_UMEGEI




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