劇団Patch、8周年の今『マインド・リマインド~I am…~』井上拓哉×近藤頌利×納谷健インタビュー「意思を通した時、それは自分で決めた人生になる」


カンテレ×劇団Patchプロジェクトとして上演する舞台『マインド・リマインド~I am・・・~』が、2021年1月28日(木)から1月31日(日)まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて東京公演を行う。

描かれるのは、『ハゲタカ』『ウロボロス-この愛こそ、正義-』『37歳で医者になった僕』『LIAR GAME』『任侠ヘルパー』などを手掛けてきた脚本家・古家和尚が劇団Patchに書き下ろした、“音にまつわるプルースト現象”をきっかけに、恋人に疑惑を持った男が現実と空想が交錯する世界に迷い込み、そこで衝撃の“事実”に辿り着くラブ・サスペンス。これを、カンテレの木村淳が音楽朗読劇に仕立て上げた。

今回は、東京公演2日目、1月29日(金)18:00公演に出演する井上拓哉、近藤頌利、納谷健、大阪公演を踏まえて本作にどのように取り組んでいるか、話を聞いた。

ものすごく意思を問われた気がした

――カンテレさんと劇団Patchさんという関西発のタッグで、コメディかと思いきや、今回の作品は「ラブ・サスペンス」なんですよね。

近藤:僕がこれまでやらせていただいた、派手な圧倒的エンターテインメント作品とは毛色が違って、観てくださる方々に、感じ方を委ねる部分も多い作品だと思います。難しいという意味ではなく、余白があるというか・・・今までのPatchの作品とはまた違う、リアルな会話を求められていると感じています。

納谷:この作品の主人公「僕」は、突然、恋人や周囲の人間が「ロボットなのではないか?」という疑念に囚われてしまいます。今の時代、どんどん精密なロボットが作られているし、AI技術などもどんどん発達している。でも、人の心は作れるものではない。じゃあ「心」ってなんなんだろう?ということが考えさせられる物語だと思います。

僕は、今回の作品を演じる中で、心とは“意思”なんだと思いました。葛藤を抱え、恐怖も感じているけれど、理論や筋道をはみ出しても「こうしたい」という意思が、「僕」の台詞から感じられるんです。コロナによって「当たり前」が当たり前ではなくなってしまった時に、僕はものすごく意思を問われた気がしたんですよね。今まだコロナ禍ど真ん中で、演じる僕らもお客さんも同じ想いをしている。だからこそ、感じていただけるものが多い作品になっているんじゃないかな。

井上:もともとはストレートプレイとして上演する予定だったんですが、今回は「音楽朗読劇」という形になりまして。どうなるのかなと思ったんですけど、音楽と共演する楽しさをすごく感じました。作品の中では「プルースト現象」(ある特定の香りから、それにまつわる記憶が呼び起こされること)が一つキーワードとして出てきます。音楽朗読劇であることが、どういう意味を持つのか・・・大阪公演を観てくださったお客さんは、きっと音楽の力強さを感じておられたのではないかなと思います。僕ら自身も、新しい自分たちが発見できた気がしました。

納谷:台本を読んだ時は、難解な脚本だなと思ったんですよ。これは「朗読劇」としてお客さんに伝わるのかな・・・?と。理論的な説明も多いので、その意味も声でしっかり届けなければならないけれど、くどくなってもいけない。でも難しいからこそ、自分に没頭できる楽しさがありました。今回、日替わりで出演者も配役も変わるんですが、投じる熱量によって演じ方に個性が出るから、人物の色が全然違って見える面白さもあります。

近藤:特に大阪は劇場のキャパシティが大きいので、少人数の「朗読劇」としてこの作品をどう届けようかと考えました。どんなに距離があっても「今、何が起きているのか」を覗き見しているような、自然に引き込むお芝居にできれば、この作品の余白をより楽しんでもらえると思って。

井上:楽しかったよね。やっぱり、目の前にお客さんがいるっていうのがね。途中で関西魂が顔を出して、アドリブのシーンが急遽追加になったりね(笑)。

納谷:そうそう。本番入ったら全然違ったよね。ただ、やればやるほど何が一番いい形なのか答えが分からなくなっていくという。大阪公演を終えたあと、SNSやアンケートで感想を見ていると、お客さんの反応も本当にいろいろで。答えがはっきり出る感じのお話ではないので、自分も模索したままでいいのかな・・・という思いで、東京公演に備えています(笑)。

――朗読劇は、本を持っているからこそ生まれる難しさがあるとよく聞きますが・・・。

近藤:そうそう。朗読劇って、演出家によって台本との向き合い方がまったく変わるんです。「絶対に読んで」と言われることもあるし、「読んではいけない」という場合もある。朗読だから、目をつぶっていても情景が浮かぶくらいに読まなければいけないと思うのですが、この作品は専門用語とかも多いからなかなか・・・。語りすぎてもいけないし。台本との付き合い方は、ほんと難しい。

納谷:最近、朗読劇増えているよね。自分も観るし、やるし。両方経験して思ったのが、演者とお客さんの間に本があることで、安心感が生まれるなと思ったんですよ。気負うことなく物語に入れるというか、(舞台上と客席の)境界線がいつもより曖昧というか。この感覚って、朗読劇をやる上ですごく大事にしなきゃいけないことなんじゃないかなって思いました。

井上:朗読劇をやることによって、より伝えようと思う力がつくと思いました。言葉をどう立たせるかとか意識もするし、相手の言葉に反応しなければいけないからすごく集中している気がする。

近藤:集中しているがゆえに、相手の長い台詞を受けての自分の台詞が台本のどこにあるか分からなくなること、あるよね。

納谷:分かる~(笑)!

組み合わせ、変わる「役」――模索する最大公約数

――(笑)。今回、日によって劇団Patchメンバーの組み合わせが変わります。「僕」「彼女の弟」「医師」の配役も日替わりになっていますが、その点はいかがですか?

近藤:僕は大阪公演で「医師」をやりまして、東京公演では同じく「医師」と「僕」をやります。自分が演じる役と相対する役、両方の話すことが分かっていると、やりやすいんだなって思いました。これは「僕」の稽古をしてみて気づいたことなのですが。

井上:僕は、大阪でも東京でも演じるのは「僕」だけなんですが、同じ役を演じるにも相手によって間とか台詞の聞こえ方が変わることで、自分の演じ方も変わっているのがリアルに分かるんです。この違いは、やっていてめちゃめちゃ楽しいですね。芝居、やってるな~って噛みしめる瞬間です。・・・健、すごいよね。全部やるんだもんね。

納谷:そう、全部やる。

近藤:「彼女」役の人さえおったら、一人でできるな?

納谷:そうだね。誰かに何かあったら、すぐ代われるよ(笑)。

――ちなみに、納谷さんが3役演じ分けるために考えていることは?

納谷:大阪で「医師」役をやった時は、3役の中で一番遊びどころがあるなと思ったので、少しちゃらんぽらんに見えるぐらいにやったら、楽しくできました。大千秋楽でやらせてもらう「僕」役は、僕自身が理屈っぽいタイプなので、すごく入り込みやすくて…自信があります。

井上:健、台本にめちゃめちゃ「僕」の分析を書いてたよね?

納谷:書いてた!だって、古家(和尚)さん難解な脚本書きはるから・・・。分からないことを書き出し始めたらパンクしました。古家さんに質問できる機会があって、腑に落とすことができました。

近藤:俺ら3人でやる時は「彼女の弟」役だけど、それはどうやろうとしてる?

納谷:なんやろ・・・。普通だから、ちょっと違う道を行きたくなっちゃうんですよ。絶対こうやった方が成立するんだけど、もうちょっと寄り道させてほしいっていうエゴが出ちゃう(笑)。本番まで、外れた道をあっちもこっちも行って、最大公約数にたどり着けるようにやってみようと思ってる。

――お三方の組み合わせは、東京公演2日目、29日(金)の18:00公演で見れますね。井上さんが「僕」、納谷さんが「彼女の弟」、近藤さんが「医師」ですが、この組み合わせどうですか?

納谷:稽古ではまだ完成とは言えないので、本番、楽しみですね。・・・(井上さんを指差してボソッと)アドリブ苦手。

近藤:「僕」と「彼女の弟」のアドリブシーンがあるんですけど・・・、弟が何をしてくるのか分からん状態やってんもんな(笑)。

井上:俺、必死やってん!健の頭の中に追いつけなくて(笑)。

納谷:アドリブのシーンといえど、シームレスでないとあかんやん。

近藤:人によっては、「ここはアドリブのシーンなんやな」っていうのがすごくはっきり分かるからね(笑)。(藤戸)佑飛なんて、既存曲まるまる1曲歌ったりしたし。

納谷:俺はそこをいかにシームレスにできるかに結構こだわってる。でも、その落差があからさますぎるのもおもろいと思います(笑)。

自慢の仲間であり、ライバル――「オンリーワンの、2人の芝居が見たいんや」

――今、お名前が出ましたけど、この公演で4期生の尾形大吾さんと藤戸佑飛さんが劇団卒業されますね。

納谷:二人の意思を尊重しつつ、二人を応援しているファンの方々にも気持ちのいい形で送り出してあげたいなって思っているんですけど・・・個人的にはめちゃめちゃ寂しいです(納谷さん、尾形さん、藤戸さんは劇団Patch4期生の同期)。お恥ずかしい話なんですけど、二人が卒業を決めた時、僕は泣きじゃくってしまいまして。その後、顔を合わせづらくなるっていう(笑)。それぞれとご飯に行った時も、話をしているうちに溢れ出てきてしまうものがあって。

井上:東京公演がちゃんとできそうなので、これで送り出してあげられるのはよかったよね。劇団からは離れるけれど、たぶん、どこかで絶対会うんですよ。寂しい気持ちはなくならないけど、そういう安心感があるから。舞台の上でお互いにバシッと決めて、「じゃあ、また」って言えたらいいよね。

近藤:僕は、森山直太朗さんの「さくら」を彼らに捧げたいと思います。「さらば友よ、またこの場所で会おう」って歌詞がめっちゃ好きなんです。だから、佑飛に「舞台上で一言しゃべる時に、“さくら”歌ってや~」って頼んだんですよ。

納谷:なんで送り出される本人が歌うんや(笑)!

近藤:「そんなんしたら、俺泣いてまうやん!」って言ってました(笑)。

――劇団として大事にしていた8周年、その締めくくりを、劇団Patchをここまで引っ張ってきた現メンバーが全員関わって公演できるというのも、皆さんにとって大きいのではないでしょうか。

納谷:2人と僕、4期生が全員揃う回はないんですけど、一緒に稽古をした時に「朗読劇としての正解を目指すよりも、(劇団Patchのメンバーとして一緒にやるのは)最後なんだから、誰にでもできる表現を目指すんじゃなくて、オンリーワンの、2人の芝居が見たいんや」って伝えました。

2人がPatchにいたことで、自分の表現を一つ確立させて次の道へ進む姿を、僕も見たいし、ほかのメンバーにも知ってほしいし、お客さんにも見てほしい。だから、めちゃめちゃ惜しまれたらいいのになって思ってるんです。2人の個性もいいところもたくさん知っているから、「うわ、こんな新しい発見があるんや!」って思われ続けていてほしい。Patchを離れることで、花開く何かがあるんじゃないかと思って、今は期待しています。

近藤:僕たちは仲間でもあるし、ライバルでもあるので「俺は独り立ちして大きくなったぞ」っていう姿が見たい。自分も、卒業したメンバーに負けられないぞって思うし、恥じることなくいたい。この公演も、彼らが卒業するからって特別視するんじゃなくて、「またな」ぐらいのスタンスです。僕、普段からそんなに連絡を取る方じゃないんですよ。でも、SNSとかでどんなことやってるのかなって見てます。コソコソ、楽しみにしてます(笑)。

井上:(笑)。僕は彼らが入ってから卒業までを見送ることになるんですが、今回卒業する2人は、Patchの中でもキャラが立っているというか、“個”がすごく輝いているんですよね。そういう2人だからこそ、個人になった時により個性が爆発すると思うんです。劇団の先輩としては「素晴らしい役者でしょ」って胸を張って言える、自慢の仲間。だからまたどこかで共演できる機会を楽しみにしています。劇団として、8周年を一区切りとして、新しい劇団Patchとして前に進む。そんな公演にして、彼らを送り出してあげられたらいいですね。

――今回は千秋楽公演で配信も行われますね。

納谷:舞台の中止も経験しましたし、板の上に立ちづらい状況になってしまったのはなんでやろうと、もどかしい想いもしました。だから、昨年末の大阪公演で客席にお客さんがいてくださるのを見た時は、ちょっと泣けました。東京公演も、きっといろんな事情で足を運べない方もいると思うんですけど、今できる範囲で僕たちもがんばるから、また直接会える日を楽しみに配信を観てもらえたらいいなと思います。その上で、僕らは劇場に居続けるから、お客さんにも劇場に足を運ぶ楽しさを忘れないでいてほしいです。

近藤:大阪公演も客席開放50%だったんですけど、満席だったんです。生で観てほしいから舞台をやっているので、半分でも、こんなにたくさんの方が観てくださっているんだと感じられるのは本当に嬉しかったです。でも、配信にも配信のおもしろさがあると思います。木村さんの演出は、朗読劇としては、やっている僕らが「これは伝わるのか?!」と思ったくらい、細かいんです。配信では、劇場ではズームできない部分を楽しんでもらえたらいいですね。でも配信される千秋楽では、俺、配役に入ってないからきっとカメラに抜かれない(笑)。

井上:大千秋楽は、健と、竹下健人、吉本考志、谷村美月さんの回だからね(笑)。配信って、今まで劇場に足を運んだことがない方にも届くツールでもあるよね。これをいい機会と捉えて、劇団Patchがもっともっと広がるといいなと思っています。

最後に残るのは“希望”

――ぜひ“今”の劇団Patchの姿を多くの方に観ていただきたいですね。

近藤:このコロナ禍で、きっと人生について考えた人は多いと思います。悩んだ人も多いと思います。そういう人たちに観てもらえたら、きっと「人間ってちっぽけなもんなんだな」って感じてもらえる作品です。人間なんて、完璧な存在じゃないし、ロボットじゃないから失敗もする。そういうのをひっくるめて人間。だから、何か悩みを抱えている人の心に、この作品が届けばいいなって思ってます。

納谷:一歩先へ進むために意思を通した時、それは自分で決めた人生になるから、すごく幸福度が増すんですよね。便利な世の中だから、見方を変えればそんなにがんばらなくても生きてはいける。だったら、自らの意志をがんばって通して、少しでも楽しくなってみませんか?ということを、お伝えできたらと思います!

井上:脚本を書いてくださった古家さんは、この物語の「最後に残るのは“希望”だ」とおっしゃっていました。悲しさや辛さって、人の心にいつまでもこびりついてしまうもので。でも人って、生きていく中で何か一つでも、嬉しかったことや楽しかったことが思い出せれば、なんとかなると思うんです。「ラブ・サスペンス」と謳っていますが、観ていただいたらきっと未来に明るい希望が持てる作品になっていると思います。ぜひ、楽しんでください。

公演情報

カンテレ×劇団Patchプロジェクト第1弾
『マインド・リマインド~I am…~』

【大阪公演】2020年12月26日(土)・12月27日(日) サンケイホールブリーゼ(終了)
【東京公演】2021年1月28日(木)~1月31日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

【生配信】2021年1月31日(日)17:00~
配信URL:イープラス「Streaming+」
https://eplus.jp/8patch-st/

※舞台本編のみ配信、劇団Patchイベントの配信はなし
※2021年2月2日(火)23:59までアーカイブ配信あり

【劇団Patch公式サイト】https://www.west-patch.com/about/
【カンテレイベント公式サイト】https://www.ktv.jp/event/8patch/

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