2021年7月22日(木・祝)より、東京・シアタートラムにてBaobab(バオバブ)第13回本公演となる『アンバランス』が開幕する。北尾亘が全作品の振付・構成・演出を手掛けるダンスカンパニーBaobabは、“SHINKA YEAR”と題し、大型公演を4本連続で行う。本記事では、その第1作目のクリエイション現場を取材した。
桜美林大学在学中に、Baobabを立ち上げた北尾。『アンバランス』は、2010年に発表された20分間の作品だった。その後、「トヨタコレオグラフィーアワード2012」で『vacuum』というタイトルで再構築し、オーディエンス賞を受賞した。
Baobabとして結成10年を過ぎ、北尾自身も30代に突入した今、「Re:born project」の第2弾として、同作を長編作品としてリクリエイションすることに踏み出した。上田市交流文化芸術センターサントミューゼでのレジデンス製作と神奈川県立青少年センタースタジオHIKARIでのショーイングを行った。
今回のシアタートラムでは出演者を増員。北尾のほか、富岡晃一郎、佃井皆美、福原冠、田中美希恵、河内優太郎、シュミッツ茂仁香、伊藤まこと、福島玖宇也、HEIDI、山田茉琳と、ダンサーだけでなく、ダンス公演初参加となる俳優陣も参加し、さらに作品を深め広げている。
北尾は、コンテンポラリーダンスと出会った原初の衝動と欲求を、カンパニー結成から10年を超え「一巡りした」と思えたこのタイミングで、もう一度確かめたかったと言う。人が人を思いやることが薄れ、世界がギスギスし始めた今を想い、「ダンサー・俳優という身体を持った人間はどのようなバランス感覚でこの情勢を乗りこなすのか」。
アンバランス・・・“不均衡”とは、今の世を表す言葉としてぴったりかもしれない。北尾のその想いは、奇しくも新型コロナウイルスの世界的流行によっていびつな変容を余儀なくされた今と重なった。それにより『アンバランス』というタイトルが持つテーマ性や意味に、運命めいたものを感じる。
今回の上演では、作品の中に「AI×ダンス」が一つのテーマとなっている。これについて、「改めて作品を見渡した時、僕自身が生活の中で感じることを直接作品へと落とし込むことに少し抵抗があったんです。そこで“AI”という要素を取り入れることで、振付・演出だけでなく僕自身もがダンサーとして舞台に立つことが、間接的に変化するのではと考えました」と北尾は語る。
初演時には取り入れられていなかった「AI」という要素が加わることで、ダンサーたちがAIにコントロールされたり、抗ったりする姿が、より人間らしく、アンバランスに浮かび上がってくる。
取材日に稽古場で行われていたのは、作品の終盤、まさにクライマックスのシーン。音楽に乗って、俳優たちが身体を解き放っていく。その躍動感に満ちた動きは、群舞でありながら個々に異なる。それでいて連動しすべてが螺旋状に連なっていく。一人ひとりの動きを丁寧に作っていくことを、北尾は「粒立ててデザインする」と表現した。
「ダンサーもそれぞれ経験してきているものが違い、ダンス公演に参加するのは初めてという俳優さんもいらっしゃいます。Baobabとして僕らはこの異種混合のコミュニケーションを大事にしています」ダンサーの身体感覚、俳優が内に秘めるドラマ性を、相乗効果として互いにシェアしていく。そこを重要視することで、コミュニケーションが弾む。
ちなみに、北尾と佃井は高校の同級生。北尾はダンス、佃井はアクションという道を突き進み、初めて一緒に作品作りに挑んでいる。「今、こうして出会い直せるのはすごくいいタイミングだなと思います。カンパニーメンバーよりも前から僕のことを知っている仲間と一緒に取り組めるのは、互いの道を歩み続けてきたからこそ増えるレイヤー。バックボーンとして豊かですよね」と笑う。
稽古では、スクリーンに身体の部位を移し、それを想像しながら身体を動かしていく・・・というクリエイションも行われていた。その動きは千差万別。クライマックスシーンで行われていた連動性とはまた違い、個々の個性が一層粒立っていた。
「観て頂く方に、技術主体ではなく、その人の佇まいに共感してもらえればと思っています。例えるならば、舞台上で踊る11人それぞれにフォロワーがつくイメージです。僕らとお客様に共感関係が生まれれば、作品がより幅の広いものとなると考えています」
10周年を超えたBaobabは、本作を皮切りに3つの“SHINKA”―真価」「深化」「進化」―を掲げた“SHINKA YEAR”21→22を始動。10月と来年1月には「Re:born project」の3〜5弾を、7月には2016年より隔年で開催するダンスフェスティバル「DANCExScrum!!!」第4弾を開催する。
北尾は、「どうすればお客様に届くのか、しゃにむに(遮二無二)創作を繰り返し考え続けてきました。観ていただく方の心の潤いや気づきになれることが、舞台芸術の良さだと思います。同じ空間と時間を共にする、その意味合いを深く意識しながら、多くの人と出会っていきたいと夢見ております」と先を見据える。
作品誕生から10年以上。北尾が生む身体表現は、 想像力の希薄さが浮き彫りになってきた現代の“アンバランスさ”にどう訴えかけるのか。積み重ねた経験と養った感性を乗せた一つの答えが、劇場で新たに生まれようとしている。
Baobab Re:born project vol.2『アンバランス』は、7月22日(木・祝)から7月25日(日)まで東京・シアタートラムにて上演される。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)
Baobab Re:born project vol.2『アンバランス』
2021年7月22日(木・祝)~25日(日)
東京都 シアタートラム
振付・構成・演出:北尾亘
出演:富岡晃一郎、佃井皆美 / 福原冠、田中美希恵 / 河内優太郎、シュミッツ茂仁香、伊藤まこと、福島玖宇也、HEIDI、山田茉琳 / 北尾亘