三宅裕司が座長を務める「熱海五郎一座」の新橋演舞場シリーズ第7弾、『Jazzy(じゃじぃ)なさくらは裏切りのハーモニー ~日米爆笑保障条約~』が、2021年5月30日(日)にいよいよ開幕する。約1年前、コロナ禍により中止となった公演だが、出演者が“笑いと生演奏の音楽”を届けるため、全員再集結した。
今回のゲストは、元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずると、AKB48グループ2代目総監督の横山由依。三宅を交え、3人に1年越しの公演に向けた思いを語ってもらった。
「絶対に出演する!」と決めていたので、できないと困る(笑)
――中止を乗り越えて、いよいよ1年越しの復活公演です。
三宅:昨年中止になった時は残念だったけど、「絶対にこれは同じメンバーでやらないとダメだ」と思っていました。台本も、ゲストが決まってから作家が書いたもので、当て書きしていますから。絶対中止にはしないという強い思いがあったので、そんなにものすごく落ち込んだりせずにここまでやってきましたね。
横山:1年前はショックだし、どうやって延期をするのか、よく分かっていなかったので残念に思っていましたけど、1年越しにできることが決まったと聞いた時は、飛び上がるほど嬉しかったです。共演させていただく方、皆さん大先輩なのでどういう風にお芝居を作って行かれるんだろうっていうのも、身近で自分も一緒にできるって言うのが本当に楽しみなので、嬉しいです。
――紅さんは、紆余曲折ありましたが、宝塚歌劇団退団後の初舞台になりますね。
紅:そうなんです。お話をいただいた時から、「絶対に出演する!」と決めていたので、できないと困るという気持ちでいました(笑)。今も、絶対にやる!やるぞ~という思いでおりますので、ものすごく嬉しい気持ちです。
――今回、このお二人をゲストに迎えたのは?
三宅:一昨年の6月に、作家と「戦後の焼け跡から這い上がっていく女性ジャズシンガーの話をやりたい」という話をしていたんです。それを受けてできたのが、このお話です。もともと「熱海五郎一座」は、笑いと音楽をメインに、歌、ダンス、アクションといろいろやってきたわけですけれども。
紅さんと横山さん、このお二人はジャンルは違えど音楽が地盤にあって、ダンスも歌もできる。そして、笑いもね。むしろ、笑いが結構な部分を占めていらっしゃるんじゃないかと(笑)。これはもう、最高だなと思って、オファーさせていただきました。
――紅さんは、海軍女性中佐という役どころですが。
紅:まさか、宝塚の男役を卒業してからも軍服を着ることになろうとは(笑)。もちろん、男役とはまったく違うものを求められているというのは分かっています。でも、男役をやっていたからこそできる何かが生まれるんじゃないかなと感じています。
お話をいただいた頃は、「男役というイメージを払拭せねば」という思いばかりだったんですよ。「辞めてもなお、男役っぽく見えちゃったら大変だ」って。でも今は「男役、やっていましたよ!」みたいな気持ちの方が大きくなりました。ここまでの時間が経ったことで、周囲から見ても「すごく印象が変わった」、自分自身の中でも「変わった部分」と「変わらない部分」が実感できる役作りができたらと考え方が変わりました。
――退団されてから1年半ほど経ちましたが、心境の変化は大きいですか?
紅:とても大きいです。在団中は、普段の格好とかもボーイッシュな感じでいましたし、退団して三宅さんに初めてお会いした時も「めちゃくちゃボーイッシュだな」って言われたんですよ。私の中では、「これが限界でございます」というぐらい、精一杯女性らしくしてお会いしに行ったつもりだったんですけど(笑)。
三宅:あはは(笑)。
紅:たぶん、今の私はその頃とも全然違うと思いますし、これからもどんどん変わっていくんじゃないかな。その変化を楽しみながら、役にも活かせたらと思っています。
――久しぶりに取材をさせていただいておりますが、私も「全然印象が違う」と感じております。シュッとした感じが、柔らかくなられたというか・・・。
紅:それ、宝塚現役の後輩たちにもめちゃくちゃ言われます。私、どれだけ現役の頃威圧的だったんだろう(笑)。
――横山さんがドラムをできると聞いた時はとても驚きました。
横山:ドラムは、子どもの頃に習っていたんです。でも、芸能界に入ってからは披露することもなく、ドラムができることもあまり公表していなかったんですね。だから、三宅さんをはじめ、そこを見つけてくださった皆さんにはとても感謝をしています。
――ちなみに何がきっかけでドラムを始められたんですか?
横山:楽器として最初に習っていたのはエレクトーンだったんですが、それが、練習しようと思えなくて・・・(笑)。何かの大会があった時に、たまたま先生が「ドラムをやってみたら?」と勧めてくれて、なんとなくチャレンジしてみたんですね。それがもう、すごく楽しくて!ハマってしまって、そこから音楽教室ではエレクトーンを辞めて、ドラムを習うようになりました。
――久しぶりに叩いている感触はいかがですか?
横山:やっぱりすごく楽しいです。今回はジャズなので、以前やっていたドラムとは叩き方が少し違っていて、リズムが身体に馴染むまで難しいなと思うところはあったんですけど、「やっぱり音楽って楽しいな」と、バンド練習を通して改めて感じました。バンド練習は、稽古に入るずっと前から時間をみつけては皆さんと励んできました。
練習でも、私が適当に叩き始めたリズムに音を足していってくださるようなセッションがたくさん起こったので、おもしろかったです。生音ですし、さらに紅さんが歌ってくださるので、きっと本番も一公演一公演、全然違う演奏になるんじゃないかなと、すごく楽しみです。
「宝塚とAKBの化学反応が楽しみ」
――三宅さんは、1年前の会見時に「宝塚とAKBの化学反応が楽しみ」とおっしゃられていましたね。
三宅:二人のシーンがあるんですよ。そこは結構大事なシーンなので、期待しています。音楽の生演奏はもちろん、笑わせながらストーリーを運ぶということを、このお二人がどうやってくれるのか、僕も楽しみですし、期待していてください。
――紅さんと横山さんは、ご一緒されてみていかがですか?
紅:私は当然ですが女優になってから女性としてのお芝居をしたことが無いんですよ。宝塚時代は、演じていない時も男役として娘役さんに接する時もありますし、やはり日頃から「かっこいい」と思ってもらわないと、本番で自然なお芝居ができないという思いがありまして。
今回横山さんとご一緒して、女性としてのしぐさやポージングを学びました(笑)。同じ関西出身ということもあって、関西弁で話しかけてくださるので、これからもっと仲良くなりたいなと思っていますがどうでしょうか(笑)?
横山:ふふふ、ありがとうございます(笑)。紅さんは、すごくフランクに接してくださるんですよ。お話していても、おもしろい方だなあと思っています。稽古を通して、もっといろんなお話ができたらいいです。
――今、いろいろと制限されている状態ですが、その中でも「笑う」ってすごく大事なことだなと思います。三宅さんにとって、「コメディ」とはどういうものですか?
三宅:SET(スーパー・エキセントリック・シアター)を作った時から、「ミュージカル・アクション・コメディ」を旗印にしておりまして、笑いと音楽の要素が大きかったんですね。ルーツがどこにあるのかなと振り返ってみると、子どもの頃、日本舞踊を教える母親、タンゴが好きな父親、ラテンや落語が好きな伯父がいて、いつもどこかから音が聞こえていたんです。
ちょうどステレオが出始めた頃だったのか、誰が先に買うか、そんな話をしていたりね。東京に住んでいたので、情報も早めに入ってくる。そういう中で育ちながら、学生時代に落研とジャズバンドをやっていたので、劇団を作った時に目指した「ミュージカルアクションコメディ」は必然的なものだったのかなと思います。
うちね、大家族でみんな笑いが好きですから。普通に写っている写真がなかなかないんですよ。
紅:どういうことですか?
三宅:「あの辺りを指差して驚こうか?」みたいな劇画みたいな構図にして撮ったり、カメラを全員で覗き込んで撮ったり。そういう日常のちょっとしたことを含めて、「コメディ」というか、笑いが周りにずっとあったのかなと思います。当時は、将来こういうことをやろういうような思いはなかったんですけれども、今振り返ると、いろんなことが今につながっているということですよね。
――紅さんも「コメディ」を大切にされていらっしゃいますよね。
紅:新人公演の時、研究科7年目に主演に抜擢していただいたんですけれども、シリアスなフランス革命の物語でありながら、ちょっとコメディ要素のあるブロードウェイミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』をやらせていただいたんですね。
その時、宝塚大劇場で大爆笑の笑いが起こったんですよ。その声で、お客様がそこにいらっしゃると間近に体感することができたんです。会場一杯のお客様がわ~っと笑ってくださる声の力は本当にすごいです。快感でした。そのことが忘れられなくて。
それから、お客様の反応が欲しくてコメディに走ってしまう自分がいたんですよ(笑)。本当にシリアスな場面でそれをやってしまったらまずいですけど、「ここはいいです」って言ってもらえたところは「いいんですか?」と水を得た魚のように(笑)。コメディが好きなのは、お客様をリアルに感じられる瞬間がたまらなく好きだからなんですよね。
――横山さんも、AKB48の活動の中でコメディ力を発揮されていますよね。
横山:AKB48の「びみょ~」というコント番組がありまして、それで初めてコントをやらせていただいたんです。確か、3人くらいでやる「一休さん」のコントだったと思うんですけど。それが、やっていてツボに入ってしまって・・・。20回くらいNGを出しちゃったんです。
三宅:自分が笑ってしまって?
横山:そうなんです。だから、自分にはこういうの向いていないんだな・・・って落ち込んでいたんですけど、それとは別の「ほんまやん」というコントが放送された時、ファンの方々が「すごくおもしろいね」と言ってくださって、すごく救われたんですよ。紅さんとはちょっと毛色が違いますが、ファンの方々に良い反応をもらえたことで、これは続けていいんだって思えました。
最初の頃は、何も分かっていない中で台本を読んでやったものを「おもしろい」と言っていただいていたんですけど、続けていくうちに、皆さんの笑いにかける思いや作り方を近くで観ていると、自分でも「こうしたい」「こうやったらもっと良くなるかな」とか考えたり、アドバイスをいただいて変えていったりするのが楽しいなと感じるようになり、コントがすごく好きになりました。
喜劇に挑戦するのは初めてですが、笑うことが好きだし、人を笑わせることも好きだし、お芝居も音楽も大好きなので、ここには自分の“好き”が全部詰まっているなと思っています。参加させていただいて、幸せです。
「日米爆笑保障条約」目で読んでるだけでおもしろい台本
――タイトルに「日米爆笑保障条約」とあるので、どんな台本になっているのか楽しみです。
三宅:すごいですよ~。だって、アメリカが戦争に負けるところから始まるんですから。日本が戦争に勝つんですよ。そして、日本文化とアメリカ文化の戦いが全部ギャグになっています。笑いと音楽、しかも生演奏が最終的なテーマを握っています。お芝居だから作れる話で、たくさん笑っていただきたいですね。
紅:台本だけで作品として出来上がってるんですよ。だから、目で読んでるだけでおもしろいです。台本を読んだだけではどうなるのかよく分からないんだけど、実際に舞台に立ってみたら「めちゃめちゃおもしろい!」となる台本もよくあるんですけど、こんなにも台本だけでおもしろいというのも珍しいなと思うくらい、完成度が高いです。あまりいい言い方ではないかもしれませんけど、「よくこんなこと考えつくなあ!」と思いました。
三宅:これがね、出来上がった時から1年空いたことでギャグが増えちゃったんですよ。稽古中にも増えるし。でも、本番でウケないものは削られていきますから(笑)。
横山:紅さんがふふって笑っちゃうというのが、めっちゃ分かります。
紅:でしょう~!笑っちゃうよね。
横山:笑っちゃいます(笑)。一人で普通に読んでるだけで、ふふってなっちゃうから、三宅さんからギャグが増えてると教えてもらった時は、「どうなっちゃうんだろう~?」って思いました。でも、たくさん笑える中に、泣けたり感動したりするシーンがあるんです。お話を通して笑いが散りばめられていますけど、きっとぐっとくると思います。
三宅:1年間、熟成させた笑いをね(笑)。日米爆笑保障条約ですから。
――思いのこもった、1年越しの公演を楽しみにしております。
横山:昨年できなかった分、私たちもすごく熱い気持ちを持っています。たくさん笑えて、心が動く。そんな作品になると思います。最近ちょっと落ち込むことが多いなとか、大変だなと思うことが多い方も、観ていただけたら幸せな気持ちになってもらえると思います。ぜひご覧ください。
紅:「絶対おもしろい」と座長が言い切るということは、ものすごくプレッシャーのかかることだと思うんです。そんな、自分を守らずに言葉にして高めていく精神が素晴らしいです。そんな座長のお姿を見て、私も「絶対おもしろい!」と確信しています。そのプレッシャーの中から生まれるものって、大きいものだと思うので、私もしっかりついていきたいと思います。
三宅:私は「絶対おもしろい」と思ってます!けど、お客様はどう思うでしょうかねえ。
紅:やっぱりそうきましたか(笑)!
横山:あはは(笑)。
三宅:(笑)。おもしろいから「また次も観に行こう」と思ってもらえているから、ここまでやって来れているんだと思いますから。今回も大丈夫です。一つの手だけじゃありません。あの手この手で、笑わせますから。必ず、エンターテインメントが、生の舞台が必要なんだと思って帰っていただきます。
熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第7弾
東京喜劇『Jazzy(じゃじぃ)なさくらは裏切りのハーモニー ~日米爆笑保障条約~』
公演情報
上演スケジュール
2021年5月30日(日)~6月27日(日) 新橋演舞場
スタッフ・キャスト
【作】吉高寿男
【出演・構成・演出】三宅裕司
【出演】渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東 貴博(交互出演)、深沢邦之(交互出演)
ゲスト出演:紅ゆずる、横山由依(AKB48)
【公式サイト】https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/2021_atamigoro/
<取材協力>
三宅裕司
スタイリング:加藤あさみ(Yolken)
紅ゆずる
ヘアメイク:hanjee(SINGO)
スタイリング:森本美砂子
衣装:ZADIG&VOLTAIRE
横山由依
ヘアメイク:大場聡美
スタイリング:林峻之