佐藤隆太が出演する、トークライブかのような特殊でユニークな上演形態で注目されている日本初演の舞台『エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるステキなこと~』が2020年1月25日(土)から開幕した。初日前日には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、佐藤が本作への思いを語った。
本作は、2013年にイギリスで幕を開け、その翌年には演劇祭の最高峰の一つであるエディンバラ国際演劇祭に参加した後、2014年以降ニューヨークをはじめ世界各国で上演されている話題作。翻訳・演出は谷賢一が手掛けている。
登場人物は主人公の男性だけ。キャスト(佐藤)は開演前から観客に話しかけ、番号のついた小さなカードを渡してコミュニケーションをとる。その後、キャストは自分の子ども時代の話を語り始め、物語がスタート。観客は、配られたカードを読み上げたり、登場人物になったりしながら、物語に参加していくことになる。
この日の公開ゲネプロは、一般の観客も観劇する中で行われた。観客が入場する前から、まるで出迎えるかのようにセンターステージに立っていた佐藤。観客に声をかけ、なにやら談笑する姿が見受けられる。そして、手に持ったカードを渡していく。センターステージを取り囲むように置かれた、種類の違う椅子たちにも観客が着席しだすと、緊張をほぐすように佐藤が常に笑顔を向けていた。一般的な演劇公演の開幕前に漂う緊張感や興奮とは違う、アットホームな穏やかな空気が漂っていた。
幕が上がると、観客が参加するシーンが予想以上に多いことに驚いた。昨今、“観客参加型”や“観客も一緒に舞台を作る”といった言葉をキーワードとした作品が増えているとはいえ、実際に観客が参加するのは作品のほんの一部に過ぎない。しかし、本作では終始観客の誰かが物語に参加しており、まさに佐藤と観客全員で物語を紡いでいることを実感できるのだ。
しかも、その参加方法はいたって簡単。筆者自身もカードをもらったが、カードに書かれた番号を佐藤が呼んだら、番号の下に書いてある文字を読むだけ。もちろん読むだけではない作業を求められる観客もいるが、開演前に佐藤が作り上げたアットホームな雰囲気によって、観客が気負う空気はまったくない。
興味深いのは、そのようにしてほとんどの場面で観客が参加し、時には観客がステージに上がって佐藤と言葉を交わしながらも、物語が粛々と進んでいくことだ。これはもちろん佐藤の進行がうまいこともあるが、何よりも計算され尽くした脚本があってこその話。本作は世界各国で絶賛されてからの日本初演であるが、それもうなずける。
幕が下りた時、これまでに感じたことのなかった不思議な達成感を覚えた。同じ会場にいた他の観客に仲間意識を持ち、優しい気持ちになったことも初めての経験だった。演劇の素晴らしさ、そしてその力を改めて感じさせてくれる作品だった。
囲み取材で佐藤は、終えたばかりのゲネプロを「今日はすごく楽しかったです」と笑顔で振り返った。本作は佐藤にとって初の一人芝居でもあるが「まさか自分が(一人芝居を)経験できるとは思っていなかったですし、それが今回のようなお客さんとコミュニケーションをとってとっさの判断が必要となるような作品になるとも思ってもいなかったので、最初は(オファーがあったことに)驚きました」と本音を明かす。
しかし、「実際にアメリカでやっていたこの公演を観にいって、本当に素晴らしい作品だと思ったので、ぜひ挑戦してみようと思いました」と語り、「お客様にも僕がアメリカで感じたような観劇体験を持ち帰ってもらえたらいいなという思いでここまで稽古を重ねてきたつもりです」と胸を張った。
そして、「カードを配る時は、やりたい気持ちが少しでも見える方に渡していて、参加したくないという方に無理やり参加してもらうことはしたくないと思っています。とはいえ、興味はあるけど手を上げられないという方がいたら、僕が声をかけることで勇気を出して、参加してもらえたらと思っています。勇気を出したことは他の観客にも伝わって、感動を呼びますし、それがバトンになって繋がって大きな渦になっていくと思います」と参加を呼びかけた。
最後に佐藤は「一人芝居とは言え、今回の作品は劇場に来てもらった皆さんと一緒に物語を紡いでいく作品です。僕自身(アメリカで観劇して)今までの感じたことがない素晴らしい観劇体験をするかことができました。参加型だからといってひるむことなく劇場に来ていただければ」とアピールした。
『エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるステキなこと~』は以下の日程で上演。上演時間は約70分(休憩なし)を予定。
【東京公演】1月25日(土)~2月5日(水) 東京芸術劇場 シアターイースト
※1月25日・1月26日はプレビュー公演
【新潟公演】2月8日(土)・2月9日(日)・2月11日(火・祝) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
【松本公演】2月15日(土)・2月16日(日) まつもと市民芸術館 特設会場
【名古屋公演】2月18日(火)・2月19日(水) 名古屋市千種文化小劇場
【大阪公演】2月22日(土)・2月23日(日) 茨木市市民総合センター(クリエイトセンター)センターホール 舞台上特設劇場
【高知公演】2月29日(土)・3月1日(日) 高知市文化プラザかるぽーと 大ホール
【公式サイト】https://www.ebt-stage.com/
(取材・文・撮影/嶋田真己)