田中哲司と大森南朋、そして赤堀雅秋による演劇ユニットが4年ぶりに復活する。元々は、田中が光石研と一緒に舞台をやりたいという思いからスタートしており、そこに“真摯に物作り”ができる場所を求めていた大森、赤堀が賛同し、一致団結したことから本格始動した。2016年2月には、光石主演、麻生久美子ら豪華俳優陣が出演した舞台『同じ夢』を上演。そして、今回作り上げるのは『神の子』と題した新作舞台。田中、大森、赤堀による取材会で、3人に本公演に向けた思いを聞いた。
本作は、赤堀による完全新作の舞台。全貌はまだまだベールに包まれているものの、赤堀からは以下のようなテキストが到着している。
「世田谷の狭い道をフェラーリが走る。自転車の老人が「うるせぇな」と呟きアスファルトに唾を吐く。駅前のロータリーで無職の中年男がすれ違った会社員を傘で刺す。すれ違った際に会社員のカバンがぶつかったと言う。2千万円の腕時計をチラつかせながら芸能人が田舎の老婆に涙を流す。政治家がツイッターで独り言を呟き、女子高生は爪を見る。冷房の効き過ぎる喫茶店でヤクザが少年ジャンプを熟読し、5歳の子供が汗だくで歩道を走る。「冗談じゃねぇよ」と何度も呟きながら子供が走る。風俗嬢が引退を決意し、高校教師が下着を盗む。警察官は証拠の下着をブルーシートに丁寧に並べ、冷房の効き過ぎる喫茶店でヤクザがカフェラテを飲む。小惑星が地球に接近。皆、等しく神の子。」
赤堀は、今回のプロットについて「何が自分に引っかかるかを、いろいろ資料を漁りながら無差別に食べている状況。それを咀嚼した上で何を吐き出せるかということではあるが、漠然と、底辺の人たちがうごめいている雰囲気にしたいなと思っている」と明かしていた。そんな赤堀のイメージを言語化したのが先の文章であるが、「今のこの世の中に漂っている空気感、(底辺の)人たちが蠢かざるを得ない悲しみや世の中の無常感が出るものに」という構想が十分に伝わってくるものであろう。
さらに、タイトルの「神の子」については、「バカみたいなタイトルをつけたいと思って」と笑いながら教えてくれた赤堀。「『UFO襲来』とか『なんとか大作戦』みたいなものをつけたいと考えていて、『神の子』が出てきた」と言うが、これに大森は「なかなか大きく出たなと思いました。おもしろみもバカバカしさも感じる。でも、名作っぽさがある」と納得の表情を見せる。
一方で、田中は「僕は格闘技が大好きなので、山本KID(徳郁)が浮かんできて『おお~、格闘技でくるの?』なんて思ったけど、違うなって(笑)」と冗談めかしてながらも、「(赤堀の)話を聞いたら、誰もがみな、生れてきた時は赤ちゃんで、祝福されて生まれてきたという意味合いがあるということなので、どうとでも繋がっていく」とその真意を代弁した。
ところで、そもそも今回のユニット復活は、どんな経緯からスタートしたものだったのだろうか?赤堀は「ユニットをやっているという意識は前回(『同じ夢』の公演時)からなかったんだけれど、その時に、このお二方とまたやりたいっていう話は出ていて。それができたのがたまたま今だった。満を持してみたいなことではないんです」と苦笑い。
田中も「前の舞台の本番中から、またやろうという話は出ていましたね。飲みに行くと、この3人が最後まで残っていて、そこで出た」と言うが、その際にも大森曰く「盛り上がってというよりは、苦めの会話でしたけど(笑)」と3人ならではのノリでのことだったそう。
赤堀は「普通の仕事では、しがらみや政治的なこともありますが、このユニット・企画はそれがない。まだ台本もプロットもない状況の中、お二方はやってくださると言ってくれたし、(今回ヒロイン役を務める)長澤(まさみ)さんを始めとした皆さんも、ゼロの状態でもおもしろそうだと集まってくれた。何でもいいよ、好きなものを書きなよと言ってくれるというのは、作り手としてはすごく嬉しいこと」と、淡々とした中に熱い思いものぞかせた。
これに呼応するかのように、大森も「(前回公演では)ただただ毎日楽しかった。大先輩の晢さん(田中)と一緒にやれて、そこに毎日通うことに懐かしさも、楽しさも自由もあった」と目を輝かせ、田中も「楽しみしかない。大切にしなきゃいけないのは、赤堀くんの世界観だけで、それだけを持っていれば役から外れてもいいし、何でもさせてくれる」と、まさに“楽しい”がにじみ出ているかのような笑顔を浮かべていた。
赤堀作品の魅力について、大森は「(自分と)同世代ということもあって、生きてきた時代背景や感じてきた絶望感みたいなものをえぐってくれている気がする。僕たちは、なんとなく生き続けてきましたが、赤堀くんの世界では、それを(はっきりと)感じられるんです。そのやばい表現が大好きです」と言葉にした。田中も「赤堀くんにしか書けない台詞が満載なんです。赤堀くんの台詞をしゃべりたいっていう欲求がすごくあるんですよ。だから、台本を覚えるのもスッと入ってくる。だから、前回はすごく楽しかったというのもあると思う。世界観が大好きです」と続けた。
二人の熱い言葉に照れ笑いを浮かべた赤堀だが、役者としての田中、大森について「人間の生々しさを晒してくれる役者」と評し、「一番ダサい顔や本当に人に見られたくない表情、恥ずかしい顔って、カメラの前やお客さんの前ではなかなかできないんですよ。コーティングしてコミカルに演じたりして本当のダサい顔をしてくれる人はなかなかいないのですが、この二人はそれをちゃんとやろうとしてくれる。もちろん、俳優には色々な芝居の仕方があって、いろいろな作品があってしかるべきなので、それがすべてではないですが、僕はダサい顔を見せてくれるのが好きなんです」と絶賛し、互いの信頼感が浮かび上がる形になった。
赤堀の独特の世界観にどっぷりと浸り、田中、大森を始めとした、実力派キャストたちの濃密な芝居が期待できる本作。その全容が明かされる日は、もうすぐだ。
コムレイドプロデュース『神の子』は、以下の日程で上演される。
【東京公演】2019年12月15日(日)~12月30日(月) 本多劇場
【名古屋公演】2020年1月7日(火)~1月9日(木) ウインクあいち
【福岡公演】2020年1月13日(月・祝) 福岡国際会議場 メインホール
【広島公演】2020年1月16日(木) JMSアステールプラザ 大ホール
【大阪公演】2020年1月18日(土)・1月19日(日) サンケイホールブリーゼ
【長野公演】2020年1月23日(木) サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール
【静岡公演】2020年1月25日(土)・1月26日(日) 浜松市浜北文化センター 大ホール
【公式サイト】https://www.comrade.jpn.com/kaminoko/
【公式Twitter】@comrade5
(取材・文・撮影/嶋田真己)