俳優の平野良が演出した舞台『BIRTHDAY』が、2019年11月27日(水)に東京・こくみん共済coopホール(全労済ホール)/スペース・ゼロにて開幕した。平野は原案も手掛けており、これが初演出作品となる(脚本は西垣匡基が担当)。初日前には、秋沢健太朗、オラキオ、栗原大河、碕理人、反橋宗一郎、谷佳樹、葉山昴、宮河慶信、山脇辰哉、鷲尾修斗(50音順)と平野が揃って登壇し、作品について語った。
主演を務める宮河は、これが初舞台となる新人。オーディションで平野自身が選んだという。「初オーディションで、初舞台で、初主演・・・、いろんなことが初めてで、分からないことばかりでしたが、皆さんにいろいろ教えいただいて、ここまで形にできました。たくさんの方に観てもらいたいです」と少々緊張しながらも、先輩たちに見守られ、役者を志す者が誰しも経験する最初の一歩を踏み出す。
そんな宮河について、平野は「ピュアの具現化、観ていただければ分かると思うんですが、心が救うような透明感があるんですよ。もちろん、初舞台なのでまだ粗削りではありますが、それを凌駕する存在感を持っているので楽しみにしていただきたいです」と太鼓判を押した。
次に、谷が「(平野)良くんの人望や今まで積み上げてきたものが集約された場所に自分もいられることが嬉しいです。僕は、このメンバーを“平野JAPAN”と呼んでいるんですけど・・・」と言うも、周囲からは「聞いたことないよ?!」との声が飛び、事務所の先輩でもある平野からは「見出し狙ってる(笑)?」というツッコミが・・・。
しかし、谷はそのまま座組をサッカーチームになぞらえて「11人それぞれにポジション、役割があるからゴールを目指せるんです。(演出として)良くんがゴールを守ってくれているので、僕たちはガンガン攻めて、点を取りに行きたいと思います!」とうまいこと例え切っていた。
なお、本作は四面舞台を採用しており、360度客席が取り囲んでいる。鷲尾はそれに触れ、「1回じゃ分からないこともあるかもしれません。四面舞台のいろいろな角度から観ると、違った表情が見えてくる作品になっているので、何度も観て少しでも何かを感じ取っていただければと思っています」と語った。
秋沢は、「『BIRTHDAY』というタイトルの通り、僕にとっても初めてのことばかりで、今日(本作初日)が役者の僕にとっても記念すべき日になると思っています。今後、この経験が糧になり、チャレンジすることを怖がらずに一歩踏み出せる、そんな作品になっているので、ぜひ会場で感じていただきたいです」とアピール。
葉山も「尊敬してやまない俳優・平野良さんの初演出という挑戦に携わることができて嬉しく思っています。あらすじやビジュアルだけでは、どんな舞台なのか分からないと思います。皆さんのそんなワクワクをいい意味で裏切れるよう、精一杯演じていきたいです」と続いた。
「誰かが欠けたら成立しない作品」という碕は「役者がこんなことしてるの?!あんなことしてるの!?という驚きの連続だと思いますので、ぜひ劇場でいろんな方面から見ていただきたいです」と含みをもたせた。この言葉の意味は、会見後のゲネプロで知ることとなる。
反橋は「終わった時、良くんに『もう一度演出をやりたいな』と思ってもらえるものにしたいです」とコメント。小劇場を中心に活動し、商業舞台はこれが初となる山脇は「はじめましての方ばかりですが、皆さんとても優しい人でいいなと思っています。初日がんばります」と、平野を介して生まれた縁について語った。
そして、劇中で他のキャストとは少し違う登場の仕方をする栗原は「僕は、出演者の中で唯一、舞台の途中から登場してくる役なので、舞台に出てからは皆さんの2倍、いやそれ以上に動きたいと思います」と宣言。
そして、平野と何度も共演経験があり、“友達”だと思っているというオラキオは、「平野さんの思い描いているものに近づけるよう、がんばったつもりです。本番でも気を抜かずやっていきたいと思います」と気を引き締める。そんなオラキオを、平野は自分が考えていることを汲み取ってちゃんと実行してくれる“裏主役”だと言っていた。
出演者たちから熱い信頼を寄せられる平野は、「(演出をやろうと思ったのは)自分以外の10人が輝ける場所を作りたいというのがきっかけでした。今回、それがちゃんとできたのではないかと思います。究極の大衆演劇のようなものを作れたら」と、理想を掲げた。
「初演出と言っても、役者としている時とやっていることはあまり変わりません」という平野。その演出手腕について、「こうしたらどう?とアドバイスをくれる時のマイムは、役者が落ち込むほどうますぎる」と反橋。谷も「良くんが今まで培ってきた技法を惜しみなく与えてくれるんですよ。だから(僕たちを見ていれば)『今までの平野良を丸裸にしちゃいました』みたいな感じに見えてくるはずです」と表現していた。
劇場の中央に置かれた、真四角で真っ白なステージに男たちが一斉に上がってくる。登場人物には、名前がない。お互いを誰も知らず、ここがどこかも分からず、右往左往する男たち。ただ一つはっきりしているのは、勝ち続けなければ「終わる」ということだけ。何のためにあるのか分からない椅子、どこにつながっているか分からない穴、水中を泳ぎ、何かに追われ走り出す。次々とやってくる試練に、少しずつ脱落していく。そんなシニカルな運命を、舞台の外では「黒子」たちが笑っている。協力し合うのか、自分だけが残るために動くのか。さまざまな想いと、勝利の先で待つものは・・・。
何色にも染められていない真っ白な空間に、真っ白な衣裳。光の中で、10人の男たちが肉体をフルに使って表現を突き詰めていく。平野の芝居をずっと観続けてきたファンには、随所に活かされた彼の経験を感じ取ることができるのではないだろうか。読書家としても知られ多くの言葉を持つ平野が、形にした物語。会見で役者たちの口から語られた言葉をヒントに、想像を巡らせながら劇場へ足を運んでほしいと思う。挑戦し続ける限り「初」は何度でも迎えることができるけれど、その「初」は一度きりだ。
舞台『BIRTHDAY』は、12月1日(日)まで東京・こくみん共済coopホール(全労済ホール)/スペース・ゼロにて上演。上演時間は約1時間30分(休憩なし)を予定。
【公式サイト】http://www.39amipro.com/birthday/
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)