2018年9月8日(土)に埼玉・彩の国さいたま芸術劇場で開幕したPARCOプロデュース2018『チルドレン』。その東京公演の初日前に公開フォトコールと囲み取材が行われ、高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美が登壇した。
本作の脚本家ルーシー・カークウッドは、イギリス演劇界期待の若手女流作家。彼女が執筆した、アメリカ人写真家が1989年に天安門広場で戦車の前に立ちはだかった男の軌跡をたどりながら、現代のアメリカやそこで暮らす外国人が抱える問題を紐解いた意欲作『チャイメリカ』は、2014年にローレンス・オリヴィエ賞最優秀作品賞を受賞している。
そんな注目作家であるカークウッドが英ロイヤル・コート・シアターの招きで書き下ろした本作は米ブロードウェイ、英ウエストエンドでの上演成功を受けて、2018年春シドニー・オペラハウスでも上演。第72回トニー賞では、BEST PLAY(演劇作品賞)と演劇助演女優賞(ヘイゼル役のデボラ・フィンドリー)の2部門にノミネートされた。そのカークウッド作品である本作を、高畑、鶴見、若村のトリプル主演、演出・栗山民也により日本初上演する。
【あらすじ】
巨大地震、大津波、そしてそれに伴う原発事故。そこから遠くもない海辺のコテージに移り住んだ夫婦ロビン(鶴見)とヘイゼル(高畑)。そこへ数十年ぶりに女友達ローズ(若村)が訪ねてきた。3人はかつて原子力発電所で一緒に働いていた原子力工学者同士。昔のように語らい、踊り、冗談を言い合う3人の背景が明らかになるにつれ、次第に色濃くなる世界の影。現代を生きる私たちは、母なる地球とどう関わるべきなのか・・・?
劇場に入ると大きく目を引いたのが、全体が傾いたコテージのセットだ。災害により傾いたというコテージが、発生した災害の大きさを物語っている。フォトコールでは、2シーンが公開された。1シーン目は、ヘイゼルとローズが数十年ぶりの再会に喜んでいる時に、ロビンが戻ってきて3人で再会を祝うシーン。ユーモアやウィットに富んだ日常の会話や行動の中にも、災害の爪痕を思わせる言葉が紡がれ、笑いの中にもこの先の展開の闇を感じさせる。
2シーン目は、ヘイゼルが昔に振り付けをした曲で3人がダンスを踊るシーン。ダンス前に、夕焼けの中でロビンとローズが会話するシーンは母なる地球の美しさを思わせる印象的な場面だった。
すでに埼玉公演を終えた3人は手応え十分の様子。高畑は「お客様がじっくり見入ってくださっていると感じました。大自然の警鐘、そのテーマなるものを表した照明がとても美しかったと感想をいただきました。それに若村さんが美しかったという感想も(笑)」と冗談を交える余裕を見せ、鶴見も「僕の友達も、若村さんのサインが欲しいって言ってましたよ」と高畑の言葉に合わせて会場の笑いを誘った。
続けて、鶴見は「私の友人も大きなことを考えさせられると言っていました。もちろん、おもしろいシーンもいっぱいあるので楽しめます。盛りだくさんの芝居です」と自信を覗かせる。若村は「3人の科学者が人生後半に入って、それぞれの人生を振り返ったときに何をすべきかというお話し。意味深く、演劇らしいお芝居になっています」とアピールした。
大地震、津波、原子炉の停止など、2011年に福島で起きた原発事故と酷似している本作。日本で原発の復旧作業をしている若い人たちに対して、原発を作ったOBの人たちが「自分たちが行ったほうがいいんじゃないか」と立ち上がった実話に、カークウッドが人間の未来を感じて書いたという。必ずしも反原発という作品ではない。
その点について、鶴見は「ルーシーさんはフィクションとして3.11の我々が被った災害のことを書いているんです。フィクションとして書いたことが、実際に経験した日本で上演されることに対して、これを日本で上演していいのだろうかと真剣に考えていたそうです。そういう人が考えた戯曲であることを踏まえて観ていただけると、おもしろいと思います」と解説。
その一方で、高畑は「ただ、原発や災害の話とか重い話というわけではなくて、必ず人間は生まれてから死ぬ。じゃあ“それでどうするのか”というお話なので、かしこまらないで観てください」と呼びかけた。
若村は「タイトルどおり、次世代の人たちのことを考えた時に、我々世代はどうすべきなのかという作品。日本で上演することを踏み切った製作陣の皆さんはすごく勇気があります。私たちも勇気を振り絞って、そして、今やるべき芝居だと思っています」と力強くコメント。さらに見どころとして、ローズのようなちょっと背伸びをした役柄が念願だったと「私がなぜ二人を訪ねてきたのかというミステリーのようなおもしろさもあります」と語った。
鶴見は「想像を絶するスリリングな展開が待っています」と大きな展開を匂わせながら、「現実感を描いている作品なので、高畑さんが長い台詞を言いながら本当にサラダを作っているんです。そこは圧巻ですよ」と、高畑の演技を見どころとしてあげた。その言葉に若村は「食べるのは私なんですけど、劇場のバーで出したらいいぐらいの美味しさです(笑)」と同調し、にっこり。
人類の「叡智」が問われる挑発的な問題作に、高畑、鶴見、若村という実力派俳優たちが挑む本作。今の日本だからこそ意義のある上演であり、珠玉の人間ドラマがここにある。
PARCOプロデュース2018『チルドレン』は、9月26日(水)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演。その後、豊橋・大阪・高知・北九州・富山・宮城を巡演する。日程の詳細は以下のとおり。
【埼玉公演】9月8日(土)・9月9日(日) 彩の国さいたま芸術劇場(終了)
【東京公演】9月12日(水)~9月26日(水) 世田谷パブリックシアター
【豊橋公演】9月29日(土)・9月30日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【大阪公演】10月2日(火)・10月3日(水) サンケイホールブリーゼ
【高知公演】10月10日(水) 高知市文化プラザかるぽーと 大ホール
【北九州公演】10月13日(土)・10月14日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
【富山公演】10月20日(土) 富山県民会館
【宮城公演】10月30日(火) えずこホール(仙南芸術文化センター)
(取材・文・撮影/桜井宏充)