2018年9月1日(土)に関西テレビ放送開局60周年記念舞台公演『サメと泳ぐ』が東京・世田谷パブリックシアターにて開幕した。本作は、1994年にケヴィン・スペイシー主演で製作された映画『Swimming with Sharks』(邦題『ザ・プロデューサー』)をもとに、2007年にクリスチャン・スレイター主演でロンドン・ウエストエンドにて舞台化され、大きな話題を呼んだ作品の日本初上演。
ハリウッドを舞台に、理不尽で横暴な大物映画プロデューサー・バディと、夢を持って映画業界に足を踏み入れた新人アシスタント・ガイの関係性を中心に描かれる、欲望うごめく世界。フリーの映画プロデューサー・ドーンが持ち込んで来た新作の企画が引き金となり、それぞれの思惑が入り乱れる中、彼らの歯車が狂い始める・・・。
映画版の脚本・監督を手掛けたジョージ・ホアンは、自身が見聞きしたハリウッドの実体験に着想を得て皮肉とユーモアを交えて書き下ろしたという。権力闘争、夢と現実、創作表現と経済行為のせめぎ合いといった華やかな映画界の裏側を描いた本作は、現代の「#MeToo」運動や様々なハラスメント問題を予感していたかのように思えるほどリンクしている。
セクハラ問題でハリウッドから非難を受けたケヴィン・スペイシーが映画版の主演をしていたということもあって、上演時期としても運命的なものを感じさせる公演でもある。また、台詞に登場する数々の映画タイトルが本作をリアルに感じさせ、舞台版戯曲で背景に織り込まれたという9・11テロによる娯楽産業に与えた影響が物語に奥行きをもたらしている。
演出は読売演劇大賞優秀演出家賞を2度受賞している千葉哲也。深い洞察力に裏打ちされた類い稀な手腕が高く評価されている千葉が、それぞれの思惑が入り乱れるスリリングで緊張感のある言葉の応酬と展開によって、観る者を飽きさせることなくグイグイと物語に引き込む。さらに、舞台中央から上手に映画製作会社のオフィス、下手にドーンの自室というセットにより、ほぼ舞台転換の無い演出がノンストップで観る者に緊張感を維持させる。
翻訳は『管理人』『アンナ・クリスティ』などの数々の海外戯曲の翻訳を手がける徐賀世子。海外ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』などのコメディ作品の吹替翻訳を数多く手がけてきた徐らしく、バディの理不尽で圧倒的な言葉の暴力の中にも、ユーモアとキレを感じさせるワードが散りばめられ、そのチョイスに笑いが起きる。ブラックユーモア満載でテンポのよい言葉の応酬が繰り広げられる本作は、似たようなテーマで重たくなりがちな作品とは一線を画している。
権力を振りかざす大物映画プロデューサーのバディ役は田中哲司、脚本家を志す新人アシスタントのガイ役は田中圭。情熱と野心を秘めたフリーの映画プロデューサーのドーン役に野波麻帆。このほかにも石田佳央、伊藤公一、小山あずさ、そして千葉自身も映画会社会長サイラス役で出演者に名を連ねている。
観客の胃までも痛くなる程に理不尽で横暴なバディを、まるで本心から楽しんでいるかと思わせるように演じる田中哲司。ときおり見せる笑顔が隠す本心と真実、終盤のあるシーンで妻について語る鬼気迫る演技。田中哲司の一挙手一投足がバディという男の生き様を舞台上にさらけ出している。
映画を心から愛する純朴な青年のガイを演じる田中圭は、頼りないアシスタントから、ショー・ビジネスの世界で野心を実現していくガイの変貌と苦悩を好演。そして、映画に娯楽性だけでなく理想を追い求めるドーンを演じる野波は、ハラスメントが横行する映画界で女として生き抜いていく姿と、情熱のある映画人としてガイに引かれていく女性らしい姿を、強さと柔らかさを持って演じている。
最悪の出会いから、情熱を持った映画人として引かれ合っていくガイとドーン。しかし、ガイの選択が自分とドーン、そしてバディとの3人の間に息つく暇も無い展開を巻き起こす。綺麗事は一切なし。欲望うごめく映画界を舞台に、究極の騙し合いと壮絶な人間ドラマがステージ上に繰り広げられる。
舞台『サメと泳ぐ』は、9月1日(土)から9月9日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演。その後、仙台・兵庫・福岡・愛媛・広島を巡演する。日程の詳細は以下のとおり。
【東京公演】9月1日(土)~9月9日(日) 世田谷パブリックシアター
【仙台公演】9月11日(火) 電力ホール
【兵庫公演】9月14日(金)~9月17日(月) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【福岡公演】9月20日(木)・21日(金) ももちパレス
【愛媛公演】9月28日(金) 松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
【広島公演】10月4日(木) JMSアステールプラザ大ホール
(取材・文・撮影/櫻井宏充)