さとうほなみ「個性ぶっ放しております」寺十吾演出『ドアを開ければいつも』ゲネプロレポート

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ゲスの極み乙女。のほな・いこかとして知られ、昨年女優としてデビューしたさとうほなみ。彼女の初舞台となる『ドアを開ければいつも』が、東京・テアトルBONBONにて幕を開けた。本作は、劇作家であり詩人の阿藤智恵による脚本を、俳優としても演出家としても知られる寺十吾の演出で手掛けた会話劇。出演には、さとうほなみに加え、秋月三佳、田崎那奈、遊井亮子という顔ぶれがそろった。本記事では、初日前に行われた公開ゲネプロより舞台写真とレポートをお届けする。

『ドアを開ければいつも』02

舞台となるのは、四姉妹の実家の居間。母の七回忌のために久々に集まった彼女たちは、すでに二十歳を超え、それぞれの人生を歩み始めている。長女・敬子は二児の母に、次女・真紀子は実家に残り父との二人暮らし、芸術家の三女・裕美は相変わらずの自由奔放で、四女・千恵は念願の一人暮らしを始めている。数年ぶりに揃った4人の話は尽きず、昔の姿がそこにあった。ただ少しだけ、当時は言い出せなかった、知らなかったそれぞれの抱える”何か”が明らかになっていく・・・。

『ドアを開ければいつも』03

久々の舞台出演となった長女・敬子役の遊井は、思わず“いるいる、こんなお姉ちゃん”と共感できるような自然な演技で妹たちを包み込む。面倒見が良く、敬子自身の経験した出産や結婚、年齢とともに感じる肌や体質の変化などを妹たちに言って聞かせる姿は、まるでどこかの家の一角を覗いているようだ。

『ドアを開ければいつも』04

次女の真紀子は、姉と妹に挟まれて育った彼女の背景が台詞のトーンや表情、所作に細かく現れており、演じた田崎の芝居に対する繊細さがうかがえる。平和主義であるがゆえに、自分の本音を隠していることも多い真紀子だが、彼女は決して流されやすいわけではない。そういった性格を肯定的なものと捉えて、自分の生きる道を決めていく強さは、四姉妹の中でも誰よりもしっかりした者だ。

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女優としての初舞台を踏んださとうは「初舞台で本当に何にも分からないところから始まって、何が分からないかも分からない状態で、一から教えてくれるキャストとスタッフに支えられているなと心から思います。とりあえず楽しんでます」とコメントを寄せた。

芸術家である裕美だが、自身との共通点も多いようで「年齢も性格も状況も気持ちも被っているところが多くて、最初台本をいただいた時には驚きました。四姉妹の中では変わってる役どころなので個性ぶっ放しております」と意気込みを語っている。

『ドアを開ければいつも』06

秋月演じる末っ子の千恵は、姉に対して甘えっ子な部分を出しながらも、それでいて一番下だからこそ感じる空気を素早く察して対応する、四姉妹のバランスを保つのに欠かせない役柄。おどけた表情や発言で場を和ませながらも、ここぞという時に内包されたエネルギーを解き放つ秋月の切り替えの上手さは、見ているこっちがどきっとしてしまうほど。

『ドアを開ければいつも』07

個々の発言もさることながら、姉妹らしさを感じるのは、誰かが席を立った瞬間の場面。「あのね、○○がいないから言えるんだけど・・・」決してその人を悪く言うわけではないものの、気を使って言わなかったことが語られた時に、観客は四姉妹の全体の関係をさらに密に知ることになる。

『ドアを開ければいつも』08

『ドアを開ければいつも』09

また、年が近いからこそ分かり合える上二人、下二人のやりとりも見逃せない。不安に思っていることを相談したり、ともにふざけあったり。内容は大人の女性のものであるが、小さい頃からこうやってコミュニケーションを取っていたんだろうな、と思わせる説得力があった。

その場のリアルさを演出しているのは、彼女たちの演技だけではない。居間には炬燵や湯沸かしポッド、茶筒やこけしなど、細部にまでこだわった小道具が取り揃えられ、実家らしさをより際立たせている。「寒い!」と叫びながら炬燵に潜り込んで暖まる姉妹の姿を見ていると、もしかして本当にスイッチが入っているのでは?と感じるほど。

『ドアを開ければいつも』10

また、本作では何かを食べたり、飲んだりするシーンがいくつか出てくるが、その“食べる”という行為も重要な要素を占めているように思う。缶ビールはプシュッという小気味いい音をたてて開き、真紀子がリンゴを実際にその場で剥けば、姉妹が話をしながらそれを口に放り込む。なにより、大きな一枚の皿に盛りつけられたスパゲッティをそれぞれフォークですくって食べるシーンでは、“同じ釜の飯を食う”ということわざがあるように、彼女たちにとっていかにそれが日常であるかを示しているようであった。

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後半で明かされていく、彼女たちが背負ってきた過去。大人になって、実家を出たり、仕事や結婚を経た今だからこそ言えることが、他愛もない会話から徐々に溢れ出てくる。同じ事柄に対しても知っていること、感じていたことの相違が生じ、それによってさらに発せられる、伝えたい言葉。

最初から最後までブレることなく紡がれる会話に、観客は安心して身を任せることができるだろう。最後に、さとうは「四姉妹の家でのやりとりを、うわ~覗き見しちゃってるな~とソワソワしていただければ嬉しいです」とメッセージをくれた。

『ドアを開ければいつも』12

幼い日を同じ家で過ごし、同じ父と母に育てられ、それぞれの人生を歩んでいる四人。しかし、実家のドアを開ければ「ただいま」と言える場所が待っている。

『ドアを開ければいつも』は、2月4日(日)まで東京・テアトルBONBONにて上演。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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