くさか里樹の漫画「ヘルプマン!」を舞台化した『ヘルプマン!~監査編~』が、2017年11月8日(水)に東京・俳優座劇場にて幕を開けた。本作は、日本の老人介護を題材に、高齢社会の問題点を描いた話題作。原作漫画は第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞している。初日前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、中村優一、神永圭佑、伊万里有、緒月遠麻、上田堪大、立川らく朝、そして脚本と演出のなるせゆうせいが登壇し、公演への思いを語った。
ひょんなことから県庁高齢者支援課に配属されることになった主人公・小池一郎役の中村は「なるせさん指揮のもと、キャスト全員が介護について向き合って稽古してきました。ここまで舞台上でアンテナを張って演技をしたのは初めてです。なので、この舞台が観てくださった方の、介護に向き合うきっかけになればと思います。介護関係で働いている皆さんにも見ていただければ嬉しいです」と、作品を通して伝えたい大きなテーマを語った。
情熱を持って介護の場で働く恩田百太郎役の神永は「今回、これまでやったことがないような役をやるにあたり、最初はすごく戸惑いがありました。ですが、なるせさんの演出のもと、一言一言熱をもって発することで、だんだん恩田百太郎という役の像が見えてきて・・・。役のために、普段から色々なことに対して正直に、そして人と正面から向き合ってきたので、それが舞台上で出ればいいなと思っています」と役作りについて明かした。
「この舞台、とても社会貢献をしてると思うんです」と語気を強めて述べたのは、恩田の幼馴染で親友でもある神崎仁役の伊万里。「やっぱりこういう舞台って普段はないので、観てくださった方に少しでも介護について知ってもらえたらいいなと思います。僕の役は介護についての専門用語なども使うので、それをきちんと伝えられるように、説明できればいいなと思っています」。
過去の悲しい経験をきっかけに有料老人ホームで働く、優しさに満ちた八神奈美役の緒月は「嘘のない芝居を心掛けたいと思っています。よろしくお願いします」とコメント。舞台上でも、ホームの入居者を第一に考える切実な思いを表情、そして声で表現していた。
上田演じる新村薫は、原作にないオリジナルキャラクターで、小池と同じ課で働く同僚だ。上田は作品について「重たく感じる部分もある」と述べた上で「そこをうまく(自分の役で)緩和できたらなあ、と。明るい未来のために僕は生きていきます」と語った。
服部九作役を演じるのは、座組の中で唯一の落語家である立川(11月10日のみ伊東千啓が同役を演じる)。「周りが役者の方ばかりですので、芝居をするというよりは、落語家の了見で芝居ができたら、私を誘っていただいた甲斐もあるんじゃないかと、そんな風に思っております。まあ、その了見がどこまで出せるか分かりませんが、一生懸命やらせていただきます」と笑顔を見せた。
脚本と演出のなるせは、自分にも介護をしている親がいることについて語り、「演劇って今の世の中を反映するものだと思うので、作品を上演することで、介護や社会について考えるきっかけになって、皆さんの心の中に残れば」と作品への思いを語った。
キャストのほとんどがゼロから介護の知識を学び、作品を作り上げていったようで、本番の公演は8回であるにもかかわらず、稽古場では10回以上も通しをしたのだという。会見では、その通し回数の多さから、“僕らの中では、もはやロングラン”という名言が飛び出すなど、稽古場での和気あいあいとした雰囲気がこちらにも伝わってきた。
介護や高齢社会をテーマにしているというと、どこか暗いイメージを持ってしまいがちだが、本作はその問題点にきちんと向き合いつつ、明るい未来を切り開くための勇気を与えてくれる作品であった。特に、座長である中村を中心とした、神永、伊万里の演じる3人が一つの目標に向かって東奔西走する姿には、エールを送らずにはいられない。
また、緒月の芯のしっかりしたブレない演技、上田の場を和ませる純情なキャラクター、塩崎の男気溢れるどっしりとした存在感も、物語のスパイスとなって作品クオリティを高めている。さらに立川の、演技とは思えないほどの真実味溢れる台詞の読み方には、彼の人生のこれまでがきちんと練りこまれており、観たものの涙を誘うシーンが何度もあった。
介護業界に風穴を開ける舞台版『ヘルプマン!~監査編~』は11月8日(水)から11月12日(日)まで、東京・俳優座劇場にて上演。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)