演出家・西田シャトナーが自作戯曲を上演するプロジェクト「SHATNER of WONDER」の第5弾となる『破壊ランナー』が、主演に池田純矢を迎え、2017年4月21日(金)にいよいよ幕を開ける。惑星ピスタチオの代表作とも言えるこの作品の脚本を、今回、西田は全ページ改稿。新たな“音速”がどのように作り上げられたのか・・・想像の先を行く稽古場を取材した。
取材日は、各登場人物のレースシーンを中心に、ピックアップしながら繰り返し反芻し、役者たちの身体に染み込ませていく稽古が行われていた。舞台中央に設けられた八角形のステージに、方々から傾斜のついた道が伸びている。その中心で行われるレースに、役者たちは次々と走り飛び出していく。彼らが表現しようとしているのは、生身の人間が音速で走るレース「ソニックラン」。
今回、池田をはじめ、河原田巧也、米原幸佑、宮下雄也、平田裕一郎、白又敦、伊万里有、天羽尚吾、山川ありそ、竹内尚文、砂原健佑、加藤ひろたか、田中穂先、須藤誠、堀家一希、鐘ヶ江洸、鎌苅健太、兼崎健太郎、村田充という19名の音速アクター。さらに、西田と共に、惑星ピスタチオを走り抜けた保村大和も参加し、この過酷なレースが再び幕を開ける。
8年連続のワールド・チャンプ、前代未聞の99連勝中の豹二郎・ダイヤモンド(池田)。理論的限界速度に達し、走る意味を見つけられなくなった豹二郎だったが、そんな彼を上回る新人ランナー・ライデン(河原田巧也)が現れる。果たして、豹二郎は自分の限界を打ち破ることができるのか―?2012年版では、豹二郎の恋愛も交えたストーリーとなっていたが、今回は、男たちのぶつかり合う魂にさらに焦点を当て、プライドと絆をかけたレースが繰り広げられる。
場面稽古では、西田は一つ一つの動きに意味を持たせ、目の前で起こっている出来事を観客に明確にイメージさせられるよう、試行錯誤を重ねていく。「いい意味で真面目すぎる」と、若手メンバーが苦戦するシーンでは、主演の池田や、西田との作品創りを経験してきている河原田や平田、村田がアドバイスをする場面も。
西田が繰り返し伝えていたのは“イメージの引用”という技術。役者と観客、その双方の中にあるイメージを想起させることで、目の前に見えていること以上の出来事を見せる。イメージのスイッチを押すことで想像の領域を広げていく方法を、時間をかけて役者陣に伝えていた。
続いて行われた二つレースシーンでは、「万年リタイア男」の異名を持つサーキットの詩人・キャデラック(米原)、スプリット走法を得意とする「紅い閃光」カルリシオ(平田)、子どもに絶大な人気を誇るビブラート(伊万里)、アマゾンの原住民族の若者ピラニア(天羽)、イグレシアス皇国53代皇子ランドロン(竹内)ら個性的なランナーたちが、豹二郎に次々と挑みかかる。そのレースを実況するのは、田中演じるアナウンサーロボットC3‐9000と鎌苅演じる早熟の14歳DJ早井早三。二人の弁舌バトルも熱い。徐々に稽古場が、熱を帯びていく。走り続けるランナー、そしてアナウンサーたちの額に、汗が光る。
体力を消耗するシーンが続くので細かく休憩が挟まれるのだが、その間も、役者たちは代わる代わるステージに立ち、小声で台詞を呟きながら身体を動かす。稽古場の隅で台詞を合わせている者もいる。煮詰まっている様子の後輩に、何気なく声を掛けに行く先輩の姿も。1分1秒も惜しい、そんな俳優たちの熱意が伝わってきた。
そして稽古終盤では、全員で行う“ローリング”の稽古が行われた。“ローリング”とは、カメラが被写体の周りを回って撮影したような光景を見せるステップワークで、舞台『弱虫ペダル』シリーズでも使われている演出方法だ。見た目と演じ手のストレスなどを調整しながら、繰り返し行われる確認作業。役者陣からも、改善するための案が出され、ディスカッションが続けられる。最初の状態でもシーンは成り立っているように見えたのだが、調整が進むにつれ、よりリアルに、迫力が増していくのが分かった。
まもなく、レースの火ぶたが再び切って落とされる。想像のその先を行く‟音速”の世界を体感しに、ぜひ劇場へ。
SHATNER of WONDER #5『破壊ランナー』は、4月21日(金)から4月30日(日)まで東京・Zeppブルーシアター六本木にて上演される。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)