2017年3月に東京・シアタートラムにて『炎 アンサンディ』が再演される。本作は、レバノンで内戦を経験し亡命を果たした作家ワジティ・ムワワドが、その内戦を背景にリアルで衝撃的な家族の崩壊と再生を描いた渾身の一作。演出は文学座の上村聡史が初演に続き手掛ける。2014年の初演時には、文化庁芸術祭賞 演劇部門 関東参加公演の部大賞を受賞、さらに演出の上村が読売演劇大賞 最優秀演出家賞、毎日芸術賞 千田是也賞を受賞するなど、各方面で高い評価を得た。
出演は、麻実れい、栗田桃子、小柳友、中村彰男、那須佐代子、中嶋しゅう、岡本健一。激動の人生を送った女性の10代から60代までを一人で演じきった麻実、複数の役で演技の振れ幅の広さを見せた岡本など、熱演を繰り広げた初演時の顔ぶれが再び再集結する。
再演に向け、演出の上村からコメントが届いている。
◆上村聡史(演出)
「そして“血”を超えて」
38のシーンから構成される『炎 アンサンディ』の物語は、亡くなった母の過去を軸に展開 し、その衝撃の内容は初演の際、大きな話題となりました。それぞれのシーンが、母を中心とした家族の姿を印象深く描き、母から子供へと託す熱い想いは手紙という手段で語られます。そのような物語の中、意外にも作家ムワワドが多くの台詞を費やしたシーンが25番目の「友情」にあたります。母が子ども時代に出会った親友と、報復の果てに起きた大虐殺によって現出した多くの死体を目の前に、復讐の是非を極限状況の中でお互いにぶつけるシーンです。それぞれの正義を、人としての尊厳をかけて議論を重ねますが、聞きようによっては際限のない恨み辛み、苦しみ悲しみ、悔い嘆きを長々と生産性もなく吐き続けているようでもあります。
再演を前にこの作品を初演より、更に大きく豊饒な作品にしなくてはと思っています。何百年後、何千年後の未来に向けて私たちはどのような顔をして現在を生きていけばいいのか、時代・世界・社会に向けて表現者がどのような顔をして物語を伝えていかなくてはいけないのか。“血”の理由をじっくりと見据えた初演から、「友情」をヒントに、未来へと繋ぐ手掛かりは、“血”を 超えたところにある、生産性がないように思える他者へと向けた迸る感情の沸点こそが、生きていく上での財産であり、かつ表現の上では心震える魅力であるような、そのような醍醐味を感じる再演に仕立てたいと思います。
『炎 アンサンディ』は、2017年3月4日(土)から3月19日(日)まで東京・シアタートラムにて上演される。チケットは、12月18日(日)より一般発売開始。
なお、本公演では高校生以下、U24、世田谷パブリックシアター友の会会員特典、世田谷区在住者対象のせたがやアーツカード会員特典などの割引価格が設けられている。詳細は、公式ホームページにてご確認を。
(『炎 アンサンディ』2014年舞台写真 撮影/細野晋司)