2016年7月9日(土)、東京・俳優座劇場にて『End of the RAINBOW』が開幕した。本作は、アメリカが生んだ20世紀最高のエンターテイナーの一人であるジュディ・ガーランドの最晩年を描く音楽劇。日本では2015年夏に初上演され好評を博し、今回はその再演となる。
2005年にオーストラリアで初演され、2010年にはウエストエンドで上演され、英国演劇界の権威あるローレンス・オリヴィエ賞で主演女優賞を含む4部門で候補に挙がった。2012年にはブロードウェイに進出。トニー賞の主演女優賞や助演男優賞など、3部門でノミネートされ高い評価を得た。
ジュディ・ガーランドは、映画『オズの魔法使』(1939年)のドロシー役でスターの座を掴むと、以降『若草の頃』(1944年)、『イースター・パレード』(1948年)、『スタア誕生』(1954年)など数々の映画に主演。歌、踊り、演技のすべてに秀でた実力派ミュージカル・スターとして一世を風靡する。しかし、その華やかで快活なイメージとは裏腹に、実は酒と薬物に頼る生活を送っていた。後年はコンサートを中心に活躍。酒と薬物に体を蝕まれながらも、ひとたび舞台に立つと、ダイナミックな絶唱で観客を圧倒して人気を博した。そして、1969年に睡眠薬の過剰摂取が原因で急逝した。
今回の再演にあたって、宝塚退団後も様々な作風の舞台で活躍し続け、初演でもジュディの生き様を歌と全身で力の限り表現した彩吹真央、同じく初演でもフィアンセとしてのジュディへの想いとマネージャーとしての苦悩を好演した小西遼生、本作のアンソニー役で第23回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞した鈴木壮麻らが再び集結。
物語の舞台は1968年、クリスマスのロンドン。リッツホテルのスイートルームにチェックインしたジュディとフィアンセのミッキー。そこにピアニストのアンソニーが駆けつけるところから始まる。本作のコンサートシーンでは照明による演出と、ホテルのセットをそのまま使用することで大きな舞台転換もなく、テンポ良くストーリーが進む。
ロンドンでのコンサートにすべてを賭けていたジュディだが、若い頃から酒と薬に頼っていたことで精神も体もボロボロになっていた。ミッキーとアンソニーはその生活から彼女を救い出そうと試みるのだが、ジュディはステージへの執着と恐れから、さらに酒と薬を求めるようになってしまう。そんなジュディを軸に、彼女を救い出そうとするフィアンセとピアニストの愛と葛藤が全編に渡って繰り広げられる。特にジュディとアンソニーとの関係が友情から愛に変わっていく様は、普段のアンソニーの軽妙な感じからのギャップも相まって、はかなく悲しい。鈴木の繊細な演技に注目だ。
そして、本作の注目の一つでもあるコンサートシーンでは、「虹の彼方に」や「ゲット・ハッピー」など、ジュディが歌った数多くの名曲を彩吹が現代に甦らせる。しかも、単に歌い上げるだけでなく、ロンドンでの滞在が続き、コンサートが行われるごとに精神が不安定になっていくジュディを、時には激しく、時には切なく演じている。
そんなストーリーと密接に絡むコンサートシーンだが、カーテンコールではジュディが歌っていた「雨に唄えば」や「トロリー・ソング」などの名曲をメドレーで、出演者全員が楽しく歌い上げる。ここでは、ただ純粋に往年の名曲を楽しむことができる。
往年の映画ファンやジュディ・ガーランドのファンだけでなく、この舞台を観ることで、一時代を築いた名女優を知らない人にも過去の名作を知るキッカケになって欲しいと思える作品だ。ぜひこの夏に、劇場で体感してもらいたい。
『End of the RAINBOW』は7月9日(土)から7月24日(日)まで東京・俳優座劇場にて上演。その後、大阪、茨城にて公演される。日程は下記のとおり。
【東京公演】7月9日(土)~7月24日(日) 東京・俳優座劇場
【大阪公演】7月27日(水) サンケイホールブリーゼ
【茨城公演】7月30日(土) 水戸芸術館 ACM劇場
(取材・撮影/櫻井宏充)