年が明けたと思ったらはや2月。今月も、新作、再演、シリーズ最新作など、注目したいステージがたくさんあります。皆さん、早いものでは去年の秋から予約して取ったチケットもあるでしょう。年をまたいだ公演で待ち望んだ観劇や、チケットは逃したけれど当日券で滑り込めた!なんて観劇も。なかには「知らなかった!こんな舞台もやってるの?」ということに、直前になって気づくこともあるかもしれません。
ここでは、<ストレートプレイ><ミュージカル><2.5次元><ダンス><劇団/小劇場><古典><その他>のそれぞれから1作品ずつピックアップしました。観劇の参考にご覧くださいませ。もちろん、ジャンルにはまりきらない作品もあります。さまざまな“舞台の可能性”を楽しんでいただければ幸いです。
(ライター/河野桃子)
ストレートプレイ
世田谷パブリックシアター×パソナグループ 『CHIMERICA チャイメリカ』
【上演期間】
2月6日(水)~2月24日(日) 世田谷パブリックシアター
※兵庫公演、多賀城公演、福岡公演あり
【公式HP】https://setagaya-pt.jp/performances/201902chimerica.html
田中圭さん、満島真之介さん、倉科カナさん、眞島秀和さんらの出演する翻訳劇です。昨年、脚本のルーシー・カークウッドさんと演出の栗山民也さんのタッグで上演された『チルドレン』が安定した良作(栗山さんは第26回読売演劇大賞・最優秀演出家賞を受賞されました!)だったこともあり、今回も期待が高まります。
『チルドレン』では原発事故を題材にし、3.11をも彷彿とさせる現実社会に切り込みました。今度の『チャイメリカ』は、1989年の天安門事件と原題を行き交う物語です。天安門事件とは、民主化を求める学生と一般人のデモ隊を、中国人民解放軍が武力で鎮圧し、多数の死傷者を出した事件のこと。当時世界中を賑わせた一枚の写真を撮影した19歳のアメリカ人が、23年後にその写真に写った人物の軌跡を辿ることに・・・という物語です。
タイトルになっている「チャイメリカ(Chimerica)」とは、2009年に米紙ニューヨーク・タイムズの“世界の流行語”にも選ばれた造語。「チャイナ(China)」と「アメリカ(America)」を合わせ、その共生関係をあらわしています。当時のアメリカは、中国と個人的な親交もあるバラク・オバマ氏が大統領に就任し、現職アメリカ合衆国大統領としてノーベル平和賞を受賞するなど、米中関係への期待も高まっていたでしょう。「チャイメリカ」という言葉には、世界最大消費国の米国と、世界最大の外貨準備を誇る中国が共同体を作れば、世界経済に大きな影響を与えることになる・・・という意図が込められています。しかし、この脚本の舞台であり初演の年でもある2013年当時は、第二期オバマ政権がスタートし不安定ながらも中国との距離を大事にしていましたものの、今や2019年、米大統領はドナルド・トランプ氏に代わり、米中の関係も大きく変化しています。
二国の関係は、日本にも大きく影響しています。イギリスでの初演時と、今回の日本初演時では、「チャイメリカ」という言葉の響きが持つ意味も、違っていることでしょう。現代日本にどのように届けられるのか、楽しみです。
ほか、松坂桃李さんが名君を演じるシェイクスピアの『ヘンリー五世』、藤原達也さんがチェーホフの処女戯曲で愛と破滅に誘われる教師を演じる『プラトーノフ』、三島由紀夫作『熱帯樹』、岩井秀人さんの新作音楽劇に松尾スズキさん、松たか子さん、瑛太さんらが出演する『世界は一人』、ラジオ放送とコラボレーションした『みみばしる』なども注目。
ミュージカル
『イヴ・サンローラン』
【上演期間】
2月15日(金)~3月3日(日) よみうり大手町ホール
3月26日(火) 兵庫県立芸術文化センター
【公演HP】https://www.yume-monsho.com/
【チケット】ぴあ
荻田浩一さんの作・演出により、「モードの帝王」と呼ばれたイヴ・サンローラン氏へのオマージュとして制作されるオリジナルミュージカル。若くしてディオールの後継者として注目を浴び、独自のデザインで40年もの間トップデザイナーとしてフランスから世界のファッション業界を牽引し続けたサンローラン。優雅さとシックさの中にも挑戦的な意欲も感じられ、日本にもファンの多いブランドです。
彼の人生は、ファッションにおける華々しさとプレッシャーと挑戦、プライベートと徴兵における苦悩で、ドラマティックとも言えるでしょう。そして本人のまとう美しさもまた魅力です。2014年に立て続けに公開された映画、ピエール・ニネ主演『イヴ・サンローラン』とギャスパー・ウリエル主演『SAINT LAURENT/サンローラン』では、どちらもサンローランの美を体現していて、驚きました!「ああ、この人の目、指、イマジネーションから美が生まれるんだな」と納得する美しさ。今回のミュージカルでWキャストをつとめる東山義久さん、海宝直人さん共に、洗練された雰囲気のビジュアルを見るにつけ、期待してしまいますね。
また、『ロミオ&ジュリエット』は古川雄大さん、大野拓朗さん、葵わかなさん、木下晴香さん、生田絵梨花さん・・・どの組み合わせで観ようか迷いが尽きません。菊田一夫演劇賞を受賞した神田沙也加さんの再演『キューティー・ブロンド』、進化が気になるジャニーズの堂本光一さんによる『Endless SHOCK』も気になります。
2.5次元舞台
『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌』
【上演期間】
2月21日(木)~2月28日(木) シアター1010
3月9日(土)・3月10日(日) 京都劇場
【公演HP】https://bunal-butai.com/
人気ゲーム「文豪とアルケミスト」初舞台化!さらに平野良さん、陳内将さん、小坂涼太郎さんらの出演者が集まるとなると、熱い舞台になるんだろうと楽しみが募ります!
文豪モノといえば、2013年に漫画連載を開始した『文豪ストレイドッグス』も舞台シリーズ化されていて人気です。そちらは探偵vsマフィアの異能力バトルとして描かれていますが、『文豪とアルケミスト』は文豪vs本の世界を破壊する“侵蝕者”。太宰治を主人公に、文学作品を守るために転生した文豪たちが、文学を守るための戦いが繰り広げます。
できれば事前に、主要人物の人間関係と代表作をチェックしていくとより深く楽しめそうです。たとえば、同じ「無頼派」の太宰治、坂口安吾、織田作之助が3人で受けた雑誌の取材では酔っぱらってさんざん他の作家を批判して盛り上がり大好評だったとか、太宰治はノートにフルネームを書きなぐりまくったりファッションを真似したりと狂信的に芥川龍之介に憧れていたとか、佐藤春夫は太宰をモデルに小説を書くほど太宰を愛していた・・・などなど、実際のエピソードも楽しいです。
余談ですが、文豪集合系なら漫画「月に吠えらんねえ」(作:清家雪子、「月刊アフタヌーン」で連載中)も舞台化されたらいいですねぇ・・・また違った、妖しい文豪たちの関係性が観られそうです。
そして、『私のホストちゃん THE PREMIUM』『メサイア トワイライト-黄昏の荒野-』(この2作は2.5次元作品とは言えないかもしれませんが、あえてここでご紹介)『真・三國無双 赤壁の戦い』など人気シリーズの最新作も目白押しです。
劇団/小劇場作品
『イーハトーボの劇列車』
【上演期間】
2月5日(火)~2月24日(日) 紀伊國屋ホール
※川西町公演、大垣公演、兵庫公演、富山公演、仙台公演、熊本公演、大分公演、広島公演、大阪公演あり
【公式HP】https://www.komatsuza.co.jp/program/
井上ひさしさんの書いた作品のみを専門に上演する制作集団「こまつ座」による上演。井上さんが46歳の1980年に初演された作品です。「イーハトーボ」とは、作家・宮沢賢治が夢見た、想像のなかの理想郷のこと。イーハトーヴ、イーハトーヴォなどとも言われます。宮沢賢治は、岩手県花巻市出身の童話作家、詩人、農業技師、教師、社会活動家・・・と様々な面を持っています。
演じるのは松田龍平さんですが、演出の長塚圭史さん曰く「脳内劇場での宮沢賢治はまさに松田龍平くんでした。彼はこの世の淵に立つことの出来る極めて稀有な俳優です」とのこと。宮沢賢治といえばその幻想的な童話世界のイメージも強いですが、本人は頑固だったり、偏屈だったり、おぼっちゃまだったりと描かれることも多く、実際どんな人物だったのか・・・今回、どんな松田版賢治になるか楽しみです。ほかの出演者たちもひとりひとりが魅力的な俳優。こまつ座はいつも、すべての登場人物に丁寧に思いが込められているような配役で、井上ひさし作品への愛と尊重を感じます。
賢治22歳から35歳までのうち、東京に向かった4回のタイミングを描く作品です。亡霊や童話の登場人物たちと共に、夜汽車にゆられる賢治。作中には、賢治の作品に関するさまざまな要素が散りばめられ、劇列車に乗り合わせた私たちに、賢治が夢見た理想のイーハトーボを見せてくれる・・・かもしれないですね。
宮沢賢治といえば、窪田正孝さん、柚月礼音さんW主演の『唐版 風の又三郎』も上演されますね。“唐版”なので、宮沢賢治の世界観とは違うでしょうけれど。ほかにも、9作品を上演する『平田オリザ演劇展』、女たちの姿を突き詰めていく「ブス会」が鈴木砂羽さんを主演に迎える『エーデルワイス』も楽しみなところ。
ダンス/舞踏
『ヤン・リーピンの「覇王別姫」十面埋伏』
【上演期間】
2月21日(木)~2月24日(日) Bunkamuraオーチャードホール
【公式HP】https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/19_liping/
ひとめ見た時から心奪われる・・・ご存知ない方にはまず公式トレーラー(予告動画)をご覧いただき、自分の琴線に触れそうかを確認していただきたいです。中国との至宝とも言われる国宝級ダンサー、ヤン・リーピン氏が演出・振付する舞台。1年をかけて洗練された本作が、世界各国でのツアーで絶賛され、今月、ついに日本にやってきます。
現代舞踊と、中国の伝統舞踊や武術を掛け合わせ、秦の始皇帝死後の項羽と劉邦の対立を巡るドラマ(『覇王別姫(はおうべっき)』)を演出。きっと、鮮烈なビジュアルで大胆なダンスを見せてくれることでしょう。また『十面埋伏(じゅうめんまいふく)』とは、項羽と劉邦の戦いにちなんで作られた中国十大古曲の一つ。中国琵琶の高度な演奏によるドラマティックな楽曲を生演奏するそうです。
ちなみに歴史上、項羽軍と劉邦軍の争い「楚漢戦争(そかんせんそう)」は、紀元前206年から紀元前202年とのこと。2200年前の中国大陸での争いをダイナミックな舞踏と音楽で体感することで、壮大な歴史の大地に足を踏み入れられるのではと胸が躍ります。
古典
『HANAGO-花子-』
【上演期間】
2月22日(金)~2月26日(火) セリルアンタワー能楽堂
【公式HP】https://www.ceruleantower-noh.com/lineup/2019/20190222.html
完全なる古典作品ではありません。伝統的な能と、現代的なコンテンポラリーダンスが出会う「伝統と創造シリーズ」の第10弾として、渋谷のセルリアンタワー東急ホテル地下2階にある能楽堂で行われます。
まず、作品ビジュアルがインパクト大!お面をかぶって表情の読めない”能”のイメージとは違い、大きな扇形の髪型をした女性の視線が、とても雄弁です。扇子を持つ右手薬指のネイルだけ色が違うのもセクシーかつ挑戦的。
この「伝統と想像シリーズ」は、これまでにさまざまなダンサーや振付家が能楽堂とコラボレーションしてきました。今回はダンサーの森山開次さんが、能の名作「班女(はんじょ)」「隅田川」の登場人物・花子(はなご)に焦点をあてた作品に仕上げます。「班女」で遊女でありながら激しい恋に身を焦がし、「隅田川」で失った我が子を思い絶望にむせび泣く、花子。この二つの演目を元に、一人の女性の一生を描いたダンス作品です。花子を演じるダンサーは、酒井はなさん。そして、能楽師の津村禮次郎さんと、森山開次さんの3人が出演します。
その他
DRUM TAO『RHYTHM of TRIBE~時空旅行記~ FINAL』
【上演期間】
2月6日(水)~2月8日(金) Bunkamuraオーチャードホール
【公式HP】https://www.drum-tao.com/main/
【チケット】ぴあ
1年近くツアーをしてきたDRUM TAO(ドラムタオ)の『RHYTHM of TRIBE ~時空旅行記~』。和太鼓を中心とし、篠笛、三味線、琴、さらに一糸乱れぬパフォーマンス、コシノジュンコ氏の衣装、最新の映像テクノロジーと、日本の伝統と最新技術と肉体を融合したエンターテイメントを世界26ヶ国、500都市で繰り広げてきました。世界観客動員は800万人とも数えられています。その集大成となる本公演は“FINAL”と銘打たれ、パワーアップしていることが期待されます。
“FINAL”は、実は12月に岐阜と九州ではすでに上演されています。それから1ヶ月以上間を置き、あらためて2月6日から”FINAL”がスタート(“FINAL”終演後も3月末まで、”FINAL”とつかない『時間旅行記』が日本各地で公演予定です)。
『時間旅行記』をご覧になっていても、そうでなくても、”FINAL”の熱狂を目撃したくなるのではないでしょうか。和太鼓の足裏から痺れるような振動を、体感しに行きたくなります。
また、2月9日(土)から2月17日(日)まで、世界から様々な公演などが横浜を中心に関東に集まる『TPAM(ティーパム/国際舞台芸術ミーティング in 横浜)』も開催されています。海外の、特にアジア圏の作品に興味がある方はぜひ。
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1月もあっという間に終わり、世間は春休み前にもかかわらず、新しい舞台の幕が上がり続けます。冬の2月は寒い。けれど、冷たい風にコートの前をかき合わせながらも観劇に向かうと、劇場を出た頃には熱気で暑くなっている感覚を何度も味わいます。紅潮した肌に冷たい風が当たるのが、心地よいのか、誇らしいのか、はたまた悲しいのか・・・それは観た舞台次第。さまざまな出会いと興奮に期待して、劇場に足を運ぶ喜びが、多くの方に訪れますように。風邪には気をつけて・・・良い観劇月となりますことを願っています(インフルエンザには十分ご注意を!)。