2023年11月30日(木)に、「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~」「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2022~」の戯曲本が2冊同時発売され、これを記念して12月1日(金)にインストアイベントとしてトーク&サイン会が行われた。イベントには、エーステの脚本を手掛ける亀田真二郎と、演出と劇中劇の脚本を担当する松崎史也が登壇。イベント前に行った取材を交えながら、当日の模様をレポートする。
亀田と松崎と言えば、昨今の2.5次元作品に欠かせないクリエイターだ。昨今、脚本・演出でこのタッグを目にすることも多いが、初めてタッグを組んだのは5年前に始まった「エーステ」シリーズだった。共に1980年生まれ。歩んできた演劇人生が似ているところもあったり。何でも話す仲の良い間柄である二人は、口を揃えて「演劇に救われた」と言う。そんな二人にとってのエーステとは?
2.5次元作品の戯曲本が出版されることについて、亀田は「僕らがお芝居を始めた頃は、戯曲本が出ている作家さんって本当に有名な方ばかりだったので、お話をいただいた時は夢のようでした。それだけ原作である『A3!』が愛されていて、2.5次元と呼ばれる舞台がそれだけメジャーになってきたという証でもあると思うので、そういうことに非常に喜びを感じます」と語った。
松崎も「戯曲を読んで、実際の舞台を見ると、演出のことや、演技のことが分解しやすかったりするので、エーステを応援してくださる皆さんにも、ぜひこの戯曲本を使って稽古をしたりしてみてほしいです。もちろん、原作のあるものなので上演には許可が必要ですが、演劇を“見る”だけじゃない楽しみを生む役割として、皆さんのもとにこの本が届いているといいなと思います」と期待を込めた。
今回のイベントは、クリエイターとして観客と対面する貴重な機会。「基本的に脚本家は“作品で届ける”というのが基本の関わり方なので、お客様にとっては一番遠い存在だと思うんです。でも、SNSを通じてメッセージをいただいたりすることもあったので、直接顔を見て、感謝をお伝えできる機会をいただけたことは本当に嬉しいことです」という亀田は、サインを持っていなかったそうで、急遽「サインを考える」ことから準備を始めたそう。
戯曲に収められているACT2!の公演では、春組、夏組共に新しい劇団員が加わり、物語も外へと広がりを見せた。それゆえに、戯曲化する上でも頭を悩ませたこともあったという。「最初は寮の中で完結していたものが、ACT2!では外部との関わりが多くなっていきます。話としてはめちゃくちゃおもしろいんですけど、舞台として具現化することを考えると、どうすればいいだろう?とめちゃくちゃ悩んだこともありました」と亀田。
一方松崎は、劇中劇の脚本を書く際は「読むもの(シナリオ)と上演されるもの(脚本)はどうしても違いますが、原作をご存じの方にも、初めて観る方にも伝わるもの、彼ら(役者)が演じるべきものになるよう、複合的な視点で作るために、オリジナルのテキストでつないでいたり、心の声を使うことで情報を補完したりするようにしています」と創作の裏側を明かした。
また、演出を考える過程については「あんまり大変な記憶として認識できていないかも・・・。前と同じセットで、前と同じような演技を求めたり演出をすること自体に、根本的に興味がないんです。だから、脚本に書いてあることを、お客様をワクワクドキドキさせたいという気持ちで、今、自分が見たい方向に作っていくと自然とそうなった・・・という感じなんですよね」と振り返る。
普段から、何気ないことでも密にコミュニケーションを取っているという二人は、脚本の執筆前の段階からアイデアの共有などをすることもあるという。例に挙げてくれたのは、「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~」の卯木千景がカントクをアジトに監禁するシーン。あの場面は、松崎の「あの場面は、すごく長い暗転でやりたいんだよね」というアイデアを聞いた亀田が、“目隠しをしている”という設定を加えて実現したそうだ。
「同じようなタイミングで、規模の大きな作品に関わらせていただいた上に、単純に馬が合うんです」という二人は、定期的にプライベートでも交流があり、最近では一緒に焚火を見に行ったりもしたそう。「僕は泊まりで行こうよって言ったんですけど、ベッドで寝たいからって日帰りになりました(亀田)」「ボコボコの地面で寝るのは自分にはできない。でも、焚火は見たい・・・(松崎)」と、本当に仲良し。
また、松崎は「かめちゃんの脚本は本当に優秀なので、受け取ってから書いてある通りにやれば面白くなるんです」、亀田は「まっちゃんは脚本の意図をちゃんと分かってくれる読解力がすごい」と、互いにリスペクトも忘れない。
エーステと出会ったことは「一生の財産」であり、「人生を変えてくれた作品」という二人。松崎は「演劇に出会ったことが、自分の人生を決定づけ、豊かにしてくれました、『A3!』という物語自体が、演劇と出会っていくものであり、きっと、お客様の中にもエーステを通じて演劇と出会った方もいらっしゃると思います。演劇をやるって、本当に最高なんです。もちろん苦しいこともたくさんあるけれど、すごく素敵な世界です。いつもだったら演劇を“観てほしい”って言うんですけど、ぜひ、演劇を“声に出して読んでみてほしい”です。役者の気持ちでもいいし、演出家の気持ちでもいい。ゲームとの違いを楽しむでもいい。いろんな形で、演劇の楽しみ方を広げてもらえたら嬉しいです」と語っていた。
19:00に始まったイベント会場はパンパン。集まった多くのファンを前に、創作秘話などが語られた。おもしろかったのが、「原作にないシーンや台詞を加えたりする時はどのようなことを考えている?」という質問に対する「妄想しています」という亀田の答え。演劇の場合、どうしても出演者の制約などが発生するが、亀田の「妄想」が、それをよりよい物語として昇華し、補完しているそうだ。
また、『A3!』のキャラクターに本質的に似ている役者は?という質問に、「本田礼生と斑鳩三角はさすがに違うけれど、すごく近しいところもある」「瑠璃川幸と宮崎湧は似ているか?う~ん、幸の方がしっかりしている気も・・・」「立石さん(立石俊樹)は、至(茅ヶ崎至)の方がだいぶしっかりしている」「みんなもう、その人にしか見えなくなってきちゃってるから・・・わからない!」と頭を悩ませる場面も。
最後に、亀田は「2.5次元舞台が世界に認められる演劇になって、海外でも上演できたら嬉しいなと思っています」、松崎は「今、2.5次元舞台がどういう価値観のもと市場にあるかも認識しているつもりです。漫画やゲーム、2.5次元舞台を愛する者として、海外はもちろん、原作を好きな方、俳優を好きな方に、このおもしろい演劇を届け続けながら広げていきたいです」とそれぞれに夢を語っていた。
亀田と松崎も、クリエイターとしてエーステを通して「咲いた」一面を持ち合わせているのかもしれない。『A3!』というゲーム作品が、エーステという舞台として歩み始めて5年。劇場は、いつだって「演劇って楽しい!」と思わせてくれる初期衝動に満ちている。それはきっと、キャリアを重ね、緻密に作品を組み立てながらも、演劇を楽しみ続けるクリエイターたちが支えているからなのだろう。今後も、エーステが見せてくれる新しい景色を楽しみに、劇場に足を運びたいと思う。
なお、本日12月5日(火)よりMANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~AUTUMN 2023~の東京凱旋公演がスタート。上演は12月23日(土)まで、日本青年館ホールにて。12月22日(金)12:30公演/18:00公演、12月23日(土)12:30公演(大千秋楽)ではDMM TVにてライブ配信もあり。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)
\[PR!]DMM TVでライブ・アーカイブ配信あり/