ミュージカル『ビリー・エリオット』藤岡正明×中河内雅貴インタビュー!「もし自分が10歳だったらビリー役のオーディションを受けますか?」


ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』の上演が、いよいよ7月19日(水)から東京・TBS赤坂ACTシアターにて始まる。

イギリスの炭鉱町で父と兄、祖母と暮らす少年ビリーは、男らしくなるようにとボクシングを習わされているが、ある日偶然目撃した女の子たちのバレエ教室に魅了され、父親に内緒で教室に通うようになる。ほどなく父親にばれてしまい、「男がバレエをやるなんてみっともない」と言われ、道を絶たれそうになるが、それでもビリーは夢を諦めず、懸命に特訓する。そんなビリーにバレエの才能を見出したバレエ教室の先生は、彼をロンドンのロイヤル・バレエ学校に勧めるが――

本作で夢を追いかけるビリーの兄であり、父と共に炭鉱ストライキ活動をするトニーをWキャストで演じるのは藤岡正明、そして中河内雅貴。二人は奇しくもミュージカル『BONNIE & CLYDE』『ジャージー・ボーイズ』に続き3度目のWキャストとなる。同じ作品に同じ役で出演するが、本番は同じ板の上に乗ることがない・・・そんな不思議な縁で結ばれている二人に話を伺った。

藤岡正明&中河内雅貴

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――3度目のWキャストですが、配役が決まりキャスト一覧を見て「あっ!」って思うものですか?

中河内:思いますね(笑)藤岡さんは藤岡さんで「あ、またガウチ(中河内)とかよー」って言ってそうだし、僕は「また藤岡さんと!?」ってね。

藤岡:本当に多いよな。共演もあるけど、同じ役ってことが多いよね。

中河内:役者のタイプも違うし、性格も違う。でも何か通じるところが二人の根底にあるんでしょうね。演じる役も国や人種もその都度異なるのに選ばれるってことは。

――そんなお互いについて、どんな印象を持っているんですか?

中河内:藤岡さんは、とてもチャーミング。一見「おい、行くぞ!」的兄貴肌なところを見せるんですが、意外とチャーミングでおっちょこちょい(笑)

藤岡:ガウチは見た目、割とチャラい感じに見えるのは僕だけかな(笑)そういう風に見られがちなんですが、実はすごくマジメ。あとは、僕にはないものを持ってて、ダンスとかいろいろな事を教えてくれる。役者としても切り口が違うしね。僕は台本や演出家に対して斜に構えるスタイルなんですけど、「まず、信じよう」ってところから入るのがガウチ。

中河内:「一語一句変えずにやってみよう」ってね。

藤岡正明

――そんな全く異なる二人が同じ役を演じる訳ですが、役作りについて、演出家さんからは何かこうしてほしい、と言われていますか?

中河内:この『ビリー・エリオット』は、海外で大成功した作品であり、すごく完成された作品。だからこそ「ここはこういう感情である」と、レクチャーがあるんです。そういった意味では自由に「感情」を持ち込んで・・・というより、ゴールとなる「感情」に至るには、その前にどんな「感情」を作っていくか、そこを考えて演じることになりますね。

――演出家さんからそれぞれ違う指示を言われるような事はありますか?

藤岡:自分の役がどうこう、というより、キャストによって何通りかの組があるので、ある組で演じるときは「このときはこうしたほうがいい」って言われますね。で、違う組になると違う事を言われます。

中河内:そう、違うんだよね。サイモン(・ポラード/インターナショナルアソシエイトディレクター)の頭の中で、段階を踏んであげていこうとして、「今日はこの部分の段取りをおさえて、50%まで仕上がればいい」とか。

中河内雅貴

――お二人が演じるトニーは、お父さん世代と息子世代の間で揺れ動く難しい役ではないでしょうか。今段階ではどんなトニーになっていますか?

中河内:今はまだオムニバス状態というか・・・場面から場面に飛んだり、また戻ったりと一貫して繋がってないので、まだ「これだ!」というトニーを見つけられてないんです。でも1980年頃のイギリスという時代、母親がいない家庭であるということ、それが大きなキーワードかなと。トニーとしてはお父さんにまだ頼りたいが、お父さんも徐々に力をなくしていく・・・ならば自分が発起して何かしないといけない、ビリーのように夢を追っていきたいけどそれもできない環境があって、ある意味一家の主として仕事をどうにかしないと・・・なのにビリーは女っぽいことをしやがって!・・・という葛藤を抱えてて。

最後はいい流れになっていくストーリーですが、そこに行くまでの流れは、筋が通っていてもいいし、揺れ動いていてもいい。いろいろな作り方があると思っているので、今やっている場面を一生懸命やってますね。またキャストの組み合わせによっても変わってきますしね。

藤岡正明

藤岡:子どもがたくさん出る芝居であり、もちろん子どもがたくさん観に来てもいいミュージカル。でも実は子ども向けのミュージカルではなく、めちゃめちゃ大人に向けたミュージカル。その根っこにあるのはイギリスの階級制度。でも、階級制度の話を日本に持ち込んで「こうなんです」って言っても伝わらないですよね。

「69 sixty nine」という村上龍さんの小説があるんです。時はベトナム戦争真っ只中、全国で学生運動が起きていて、その時代に生きた高校生の目を通して描いた作品。『ビリー・エリオット』という作品に入った瞬間、この小説が頭の中に浮かんだんです。当時の社会主義的な感覚も入っている作品なので、日本でもあった出来事に近づけることもできるんじゃないかな、って。ただ、そこで歴史がどうこうという話をするつもりではなく、そこに鬱積しているのが「弱者」である事。これを忘れてはいけないんだろうなと思いますね。

中河内雅貴

――5人のビリーたちについて。彼らの仕上がりはいかがですか?

中河内:よく5人も日本にビリーがいたなってことがまず驚きでした。この超ハードで超テクニカルな作品の中、いちばんハードな事をやっているのがビリー役の5人。その次に大変なのがアンサンブルの子どもたち。こんなに才能豊かな子どもたちがこの日本にこれだけいるって!10年、20年経ったら、日本の子役、男の子のレベルがこの『ビリー・エリオット』が基準になると思うんです。

藤岡:いやーびびったよね。えー!っていうくらい。

中河内:うん、バレエもタップダンスもね。「一年間でそんなにうまくなるの!?」って。もともとやったことがない子たちが1年間レッスンを受けて、それができるようになっているんだから。

藤岡:タップダンスだけじゃなく、体操とかもね。

――もし、お二人が10歳くらいの頃だったらこの・・・

藤岡・中河内:あ、無理無理無理無理無理~!

藤岡正明&中河内雅貴

――オーディションを受けてみたいと思いますか?って聞こうと思っていたのに、そんな二人とも食い気味で(笑)

中河内:いかんで!いかんで!(笑)

藤岡:絶対無理!受けません!愚問です!(笑)特に俺は無理。ガウチは若い時からダンスやっているから違うかもしれないけど。だって、ミュージカルの世界に入って10数年たちますが、今でこうなんですからね。ピルエットもまだ回れないから!

中河内:いや、2回、いや3回は回れますよ!大丈夫ですから!

藤岡:・・・おまえ、ぶっとばすぞ(笑)

――中河内さんが全力で否定されるのは意外でした!ご自身の経歴(※15歳の時、地元広島からダンスを学びに長野へ単身転居)が少しビリーに似ているなあと思っていたので。

中河内:ダンスの基礎を覚えたくてバレエを習っていたので、別にバレエダンサーになりたかった訳じゃないんです。そして15歳でしたし、ビリーより大人の考えと感じ方だったと思います。ビリーなんて10歳くらいでしょ?その年齢のときはバレエやろうなんて考えもしなかった。もしタイムスリップしてその年代に戻れるならやってみようと思うかもしれませんけどね。

藤岡:俺はタイムスリップしたとしても絶対やりたくないね。ハードだし、努力も必要。その努力の末にこの5人が残っている訳ですから。言い方は悪いですが、「夢は願えば絶対叶うよ」って言いますけどあれ、嘘だと思う。「願うのは自由、でも叶うかどうかはわからないよ」だと思う。だって彼ら5人は努力だけじゃなく実力があり、才能があるからここにいるんです。・・・その才能が俺にはないから、俺はオーディションを受けませんって話(笑)

中河内雅貴

――さて、ビリーは10歳くらいで自分の夢を目指して走り出そうとしていますが、30代になられたお二人にとって、これから目指したい夢ってありますか?

藤岡:この仕事が楽しくて、その楽しい想いが自分の中にあるからこそ、湧き上がってくるエネルギーをみんなに届けていけるんじゃないかなと思うんです。以前、自分が納得できない作品に関わると、「俺、なんで役者をやっているんだろう」って思う事がありました。「こんな気持ちが今後も続くならもう役者を辞めてもいいかな」と思ったこともあります。その後、いろいろな仕事をやってきて、今、すごくやる気に満ちていて・・・いろんな気持ちになったりしながらもやっぱりここしかない、って思っている今こそが夢の途中だと思います。まだこれからも夢を追い続けたいし、いろいろなことをやっていきたいです。貪欲にね。

中河内:「中河内さんみたいになりたい」と思ってもらえるような、後輩を増やしていきたいですね。あの人のように頑張れば自分もそうなれるかもと思える、そういう存在になりたいし、ならなきゃなと。それと、僕の夢はジャズダンスをもっと若い世代に広めていくこと。今、ジャズダンスを踊る子がいないんですよ。オールドジャズとかシアタージャズとか、燕尾服を着て、ステッキとハットを持って踊れるダンサーが少なくなっている。さらにそれで役者となるとほとんどいない。僕もダンスからこの世界に入って、歌もお芝居も頑張って今のポジションにいる。それでもやはりダンスを広めたいんです。もちろんヒップホップは今後も踊り続けたいけど、ベーシックなジャズダンスがどれだけスタイリッシュでカッコよくて、どれほどミュージカルなどで重要とされているか・・・もっと若い子らに広めていかなアカンなあと思って、今ちょっとずつ活動しています。

藤岡正明

――最後にこれから『ビリー・エリオット』をご覧になる方、本作に興味をお持ちの全ての方にメッセージを。

藤岡:夢を見たい人、夢を見ている人、夢を見ていたのになぁ・・・という人に観ていただきたいです。ビリーは夢を叶えようとしていく人だし、そのほかの人もビリーにどんどん巻き込まれて応援していく人ですけど、同時に、夢に破れた人もたくさん出ている作品なんです。そういうところも描かれているからこそ、「夢」というものに飢えている人に観ていただきたいですね。

中河内:子どもたちはもちろん、芸能界に憧れている子、その子たちを送り出そうとする親御さんはきっとこの作品を観て同じような気持ちになり、感動すると思うんです。あとは普通に映画好き、TV好き、でも舞台はちょっと・・・という人に観てもらえたら、舞台の認識がちょっと変わるかも?と思う要素がいっぱい入っていると思います。ミュージカルですが、「歌わないでくれ!」って外国人スタッフたちも言っているくらいです(笑)“お芝居で”こうしてほしい、と力を込めて言ってますし、そこを楽しんでほしいです。人間って本当にこんなことができるんだ!って思いますよ。

藤岡:実はこの舞台、3月くらいからレッスン場を何部屋もおさえて連日レッスンしているんです。しかも11時から20時まで、3日間かけてやった芝居が出来上がると2分にもならないこともある!そのくらいとんでもないスケールでやっているんです。ガウチも言ってますが、これ、ミュージカルの概念を超えてますし、ホリプロさんは会社かけてやってます。日本でのミュージカルの革命を起こそうとしてますよ(笑)

藤岡正明&中河内雅貴

◆ミュージカル『ビリー・エリオット~リトルダンサー~』公演情報
【プレビュー公演】7月19日(水)~7月23日(日) TBS赤坂ACTシアター
【東京公演】7月25日(火)~10月1日(日) TBS赤坂ACTシアター
【大阪公演】10月15日(日)~11月4日(土) 梅田芸術劇場 メインホール

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