俳優・池田純矢が企画・脚本・演出を手掛ける舞台公演「エン*ゲキ」シリーズの最新作、が2021年8月5日(木)に東京・紀伊國屋ホールにて開幕した。シリーズ第5弾となる今回は“量子力学”をテーマに、四次元世界や超能力といった未解明のミステリーを“イリュージョンマジック”で魅せる、演出的インスピレーションにあふれた新感覚の体感型演劇となっている。
当初、2020年5月に上演予定だったものの、新型コロナウイルスの流行に伴う緊急事態宣言を受け全公演が中止に。ゲネプロの直前に行われたフォトセッションでは、約1年越しの上演にキャスト陣が笑顔で意気込みを語った。
まず最初に、今作の脚本・演出を担当し、世間から「オカルトマニアの変人」と噂されている超能力研究所の所長・渡来暦(わたらいこよみ)役を演じる主演の池田から初日に向けての熱い想いが語られた。
「昨年、中止が決まった時にはモチベーションも保てず気持ちもガタガタでしたが、この作品を届けたいという思いは途切れていなかったので、生駒ちゃんをはじめとするキャストに『延期公演をやりたいと思っています。スケジュールを合わせられないですか?』と聞いて動いていました。それがようやく今日・・・構想から11年半かけて想いが叶うという幸せに溢れています。嬉しい・楽しいより、ただただ『ありがとうございます!』という気持ちで、この巡り合わせに感謝しています」と言葉を紡ぐ。
W主演のもうひとり、記憶喪失の謎の少女・ノアを演じる生駒は「素直に、楽しみにこの時間を迎えられたというわけではなく、今の情勢を見ると『いいのかな?』という複雑な思いもあります。ただ私たちは誰かを楽しませるために存在しているので、それができる喜びと、観劇していただくお客様には絶対に幸せになって欲しいという気持ちで今はいっぱいです」と力強くコメント。
テロ組織のリーダー・斉木国成を演じる村田充も「この場に立てているのが奇跡的なこと。誰も欠けることなく初日を迎えられることを嬉しく思っています。千秋楽まで気を抜かずに、しっかりとエンターテインメントをお届けできるように精進していきたいです」と静かに意気込みを語った。
渡来とは幼馴染みの刑事・明智小次郎役の松島庄汰は「昨年中止になった時に、純矢から電話で作品にかける想いを聞いたりしていたので、やっと今日ここまでこられたなと・・・なんとか最後まで走り抜けたいと思います」と感慨深げな様子。
ちょっぴりシリアスな雰囲気の中、渡来の助手で研究所のマスコット的存在・山田一郎役を演じる田村心が「この一年、ノアはずっと動いていたんじゃないかなって僕は思っていて・・・。そういう風に前向きにこの物語を捉えられたら、この一年間は意味のある一年だったと思えるんじゃないかと思います。この言葉の意味は(舞台を)観た後に分かると思います」とコメントすると、池田から「いいコメント!」と声がかかり、場の空気が一気に和んだ。
また、今作のイリュージョン監修も務める、謎の男・No.α(アルファ)役の新子景視(あたらし けいし)は、「この一年間で時間をかけてマジックもバージョンアップさせられたので、ぜひ楽しみにしていただけたら」と自信をのぞかせ、渡来の元上司・真堂歳延役の阿南健治は「一年前に四次元についての長台詞をひたすらに覚えたんですけど中止になって・・・。もう一年間その台詞を覚える期間ができて、やっと覚えることができたかな(笑)」と、ユーモアを交えながら本作への準備を楽しみながら進めて来た時間について語った。
続いて、各自が演じるキャラクターと見どころに付いて質問があり、生駒は「ノアちゃんは、四次元人です。見どころはアクションでなんですけど、シンドイです。体育が一番嫌いな教科だったので、ダンスはできるんですが・・・。でもやってみたらむちゃくちゃ楽しくて、これからアクションをやっていきたいなって思うぐらい楽しいです。見どころはライダーキック。いつか『仮面ライダー』になりたいので(笑)」と目標を語ると、特撮経験者のキャストから「なれる、なれる!」と声が上がり、思わずニッコリ。
同じく「アクションが見どころ」と語る松島は「明智は柔道技を得意としていて、どんどん敵を投げ飛ばしております!」とドヤ顔でアピール。一方、田村は「山田一郎は物語の“真髄”には一切関わらない、箸休め的なキャラクターだと思っています。でも愛されるキャラクターを目指してがんばります!」と人懐っこい笑顔を見せた。
村田は「斉木は都市伝説級のテロリストで悪いヤツですが、彼は彼なりに大切なものを取り戻そうとしています。そういうものが前半と後半で“変化”するのが見どころです」と語り、No.α役の新子は「四次元人としてサイコキネシス(=念力で物を動かす能力)など超能力をいっぱい使います。僕はもともとマジシャンなので、本当の超能力者みたいに見てもらえるよう、作品の説得力を持たせられたらと思っています」とワクワクするコメント。
「真堂は頭が良く、自分は正しいと思い込んで突き進んでいく教授なので、ややこしいセリフをいただきまして(苦笑)。劇中ではペラペラと喋っていますが難しいですね。でも頑張って皆さんにも四次元についてお伝えできるように頑張ります」と難解な台詞に苦戦しつつも楽しんでいる様子が伝わってきた。
また本作のヒロインに生駒を起用した経緯について質問が及ぶと、池田は「ノア役は求心力と儚さを兼ね備えた人にしたいと思っていたのですが、ずっと『この人だ!』と思える人が見つからず、キャスティングには難航していて・・・。そんな時、前作『絶唱サロメ』を観劇後に楽屋に挨拶に来てくれた生駒ちゃんを見た瞬間に「あぁ~!いた!」となり、その場で「来年5月のスケジュール空いてる?」と訳の分からないナンパのような誘い方をしました(笑)」と裏話を明かすと、生駒も「私も「やります!」ってその場で返事をして・・・マジです、これ(笑)」と笑顔を見せた。
最後に池田から「キャスト&スタッフの魂の結晶を楽しんでいただきたいです!」と挨拶があり、取材会は幕を閉じた。
ゲネプロの前には新子による前説+イリュージョンが披露され、目の前で繰り広げられる重力を無視したマジックに取材陣から思わず声が漏れる。妙な高揚感に包まれた会場内、暗くなったステージに謎の少女・ノア(生駒)が佇んでいる。
「ここはどこなのか、自分が何なのかもわからない。それでも証明したい。私がここに生きていることを!」
場面は一転し、私設研究機関「渡来超能力研究所」の所長・渡来暦(池田)が語る“シュレーディンガーの猫”の解説など、難解な話題から物語は始まる。頭のメモリがショートしそうになる人もいるかもしれないが、そんな不安も、渡来の助手で天然癒し系男子・山田一郎(田村)が観客と同じ目線で次々と疑問をぶつけ、渡来の親切丁寧な解説により次元の概念を紐解いてくれる。
そんなコントのような二人のやり取りの最中に、研究所の“壁”の中から突如現れたノア。記憶をなくしている彼女は、その手に握っていた血まみれのメモを唯一の手掛かりに自分のルーツを求め、次元を超えて目の前に現れた彼女に好奇心を刺激された渡来は彼女に協力を申し出るのだった。
同じ頃、首相官邸ではかつて死刑執行された伝説のテロリスト・国木(村田)をリーダーとする、総理を人質にした立て籠り事件が勃発。なぜ死んだはずの彼がここに?そして厳重な警備をかいくぐって行われた超能力でも無ければ不可能な手口に、警察は「国立研究所」の教授で世界的な数学博士・真堂(阿南)に協力を求めるが――。
“記憶喪失の少女”“血まみれのメモ”“テロ組織の目的”“国立研究所の闇”。パズルのピースのように散りばめられたいくつもの謎が次々と解明される中で、やがてひとつの大きな事件が浮かび上がってくるのだった。
可憐な外見とは裏腹に、乱暴な言葉遣いとお行儀の悪さが強烈な印象を残すノア。初対面の渡来やに臆することなくズケズケとものを言い、山田に対しても悪口を連発したりと、やりたい放題の彼女だが、それも記憶をなくした不安や焦りからなのか・・・。生駒が本来持っているエキセントリックな雰囲気や、ふとした時に見せる哀しげな表情から、物語が進むにつれてノアという人物に対する興味がどんどんと膨らんでいく。
エン*ゲキ#03『ザ・池田屋!』以来、3年ぶり二度目のシリーズ登場となる松島は、熱血漢のカッコイイ刑事を演じつつ、隙あらば笑いを挟んで来たりと目が離せない。生駒とのテンポの良い台詞の掛け合いや、アクションを付けた池田に「舞台でやるレベルを超えている」と言わしめた柔道技も見ものだ。
そして山田役の田村は、彼が本来持っている親しみやすいキャラクターと、ツッコミがいのある助手という役が見事にシンクロ。随所に飛び出す無茶ぶりにも果敢にチャレンジしている。
テロ組織のリーダー・斉木を演じる村田は、圧倒的な存在感でノアの前に立ちはだかるが、彼自身もまた自己の存在意義に苦しんでいる。ノアや渡来との出会いで徐々に心境が変化していく様子を村田がクールに繊細に演じているのが印象に残った。
最初のうちは飄々とした雰囲気で周囲を煙に巻きながらも、一筋縄ではいかないキャラクター・真堂を演じる阿南は、後半に向けて徐々に表情だけでなくまとう空気すら変えていく様にゾクゾクする。
そしてNo.α役の新子が何かアクションを起こす度に「次はどんなイリュージョンが?」と手元に注目してしまうが、それを逆手にとって思わずクスっと笑える演出もあり、いろんな意味で気が抜けない。
今までのエン*ゲキシリーズとは、明らかに一線を画す本作。テレポーテーション、サイコキネシス、四次元を行き来する新人類・・・SF映画やアニメなどで大掛かりな仕掛けや映像技術を駆使して表現されてきたそれらの物語をリアルに舞台上で再現しようなんて、池田純矢、恐るべしである。
常々、「この人の頭の中はどうなっているのだろう?」と思っていたが、普段から様々なものに興味があり、とにかく調べるのが好きと公言している彼の頭の中はブラックホール並みにすべての好奇心を吸収しようとしているのではなかろうか。
そして、この壮大なストーリーをわずか1時間45分の尺に収めてしまう物語の構成力にも驚かされた。もともとは上演時間が2時間10分あったというが、再度脚本を精査。演出も当初はキャストが客席に行き観客と触れ合いながらマジックを体感してもらう案があったものの、コロナの感染対策で演出を変更。舞台上と客席に分かれつつも、全員が体感できる不思議体験やイリュージョンマジックという要素を新しく入れて再構築したのだそう。
また“量子力学”という難しい理論も、プロジェクターや小道具を使った解説で分かりやすく観客に伝える工夫がなされていて、物語の中に入り込むにつれて「好奇心の扉」が少しずつ開いていく感覚が味わえた気がした。
エン*ゲキ#05『-4D-imetor』は、8月15日(日)まで東京・紀伊国屋ホールにて、8月28日(土)・8月29日(日)には大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演。
(取材・文・撮影/近藤明子)
エン*ゲキ#05『-4D-imetor(フォーディメーター)』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2021年8月5日(木)~8月15日(日) 紀伊國屋ホール
【大阪公演】2021年8月28日(土)・8月29日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
スタッフ・キャスト
【作・演出】池田純矢
【音楽】和田俊輔
【イリュージョン監修】新子景視
【出演】
生駒里奈 池田純矢
村田充 松島庄汰 田村心 新子景視
藤澤アニキ 北村海 町田尚規 松本城太郎 前田りょうが 春本ヒロ
阿南健治
【公式サイト】https://enxgeki.com/
【公式Twitter】@enxgeki