作間龍斗×桜井日奈子『138億年未満』はビターなローカル青春グラフィティ【レポート】

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『138億年未満』舞台写真

2024年11月23日(土・祝)に東京・本多劇場にて舞台『138億年未満』が開幕した。初日前には公開ゲネプロと囲み取材が行われ、作間龍斗と桜井日奈子が登壇。その模様をレポートする。

目次

高校時代とその後がクロスする『138億年未満』

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福原充則の作・演出で『東京キャラバンin岡山』(2019年)にて上演された短編作品『小渕と韮沢』は、夢と現実の間で生々しくもがきながらも前へと踏み出そうとする人々の姿を描き、観る者に強烈な印象を残した。この作品を、若者の希望と挫折、そして“故郷”をキーワードに、長編のオリジナル青春群像劇として福原自らが書き直し、新たに誕生したのが本作だ。

描かれるのは、どん底から這い上がり、思い描いた夢が努力によって報われる・・・というような、勝者だけのサクセスストーリーではない。根拠なき自信、そして夢や努力が踏みにじられ打ち砕かれていく、大多数の人々が経験してきたであろう、“決して生やさしくはない、酸っぱくて苦くも続いていく人生”。『小渕と韮沢』が上演された場所・岡山を舞台に、若者でバカ者だった4人の青春を描いていく。

舞台『138億年未満』の出演キャストは?

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本作が初の外部舞台出演にして初単独主演となる作間が、主人公・小渕勲を演じ、小渕の通う高校の同級生であり、校内のアイドルだった韮沢カスミを桜井が演じる。

さらに、小渕が子供の頃から通った映画館の息子・福武長一を若林時英が、高校時代に小渕や福武と一緒に映画部を創設する矢田建生をお笑いコンビ「蛙亭」の中野周平が演じる。

加えて、倉沢杏菜、菊池銀河、井上向日葵、相原未来、永島敬三、山口航太と、実力のある俳優陣が集結している。

岡山弁指導の桜井日奈子も絶賛の作間龍斗、初の単独主演にも自然体【取材会】

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囲み取材では、初の単独主演ということについて作間が「単独主演もそうなんですけど、演劇自体にそこまで経験がなかったので、まずどう稽古を進めていったらいいのか、本番もどう進んでいくか分からない状況の中でした。主演というのは、すごく嬉しくもあったんですけど、プレッシャーのほうが大きかったです」と心境を告白。

稽古中のプレッシャーについても、「キャストの方もそうですし、福原さんもスタッフさんも、みんな優しくて丁寧に教えてくださったりしたので、その緊張感というのは程よく解けていて、本番はしっかりできるかなという状態です」と振り返りながら、問題ないことを強調した。

さらに、座長であることについては「座長らしくしているつもりはないですね。しなきゃというのもそこまでないから。といっても、正直に初めてなので、よろしくお願いしますというスタンスで行こうかなっていうので、ちょっと足を引っ張ってしまうこともあると思うんですけど、“座長”という名前だけ頂いているという感じです」と自然体であることを打ち明けた。

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本作の舞台が岡山ということで、出身が岡山の桜井は「岡山弁でお芝居させていただいてます。お芝居で岡山弁を喋るというの初めてです」と初の岡山弁演技をアピール。

続けて、「中野さんも岡山の方なので、2人でキャストの方にイントネーションの指導をしながら稽古はやっていました。岡山弁は語尾が大体なまるんですけど、イントネーションの上下があんまりないので、みんな岡山弁は喋りやすくて『楽勝だぜ』とて言ってました(笑)」と稽古エピソードを披露。

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その話に、作間は「いやいや、そんなことはないですよ(笑)。楽勝ってことはないですけど、確かに標準語プラスちょっと方言みたいな感じでした。でも、たまにそのイントネーションも違う難しい言葉が入ってきたりするので、そういうところは本当にお2人に助けられながら指導していただいておりました」と感謝を述べた。

作間の方言の演技に対して、桜井は「耳がすごくいいんですよね。稽古初日に、方言を直前まで聴いてきたという話を聞いて、それで本読みの時に結構完璧に近いぐらい喋れていました」と絶賛。

その言葉に作間は照れながらも、「今でも喋りながら、『あれ?合ってるかな?」と思いながらやってしまうこともあったりします。でも、やっぱり周りでネイティブの方がいいてくださると、自分のセリフじゃなくても盗めるものがありますし、かなり引っ張ってもらっています」と再び感謝した。

本作には数々の懐かしい映画のネタが登場することについて、作間は「演じる小渕は映画部で監督を基本的にやっているんですけど、僕も映画好きなので。そういうところで昔の映画を知るきっかけとかになりました。いっぱい作品名が出てくるので、どういうものなのかとか、映画監督の名前も出てくるので、他にどういう作品があるのかとか調べたりもしました」と影響を語ると、「昔の映画を見る機会もあんまりきっかけがないので、こうやって昔の作品を探る機会も与えてくださって、すごく今後の人生でも結構いい知識になったなと思いました」と笑顔を見せた。

そして、本作が青春の残酷なリアルや挫折を描いていることに対して、桜井は「高校とその4年後の時間軸を行ったり来たりするお話です。高校生から大学なり、就職するなり、大人にならないといけないタイミングって、強制的に来るじゃないですか。そこで自分の思い描いてた未来と、そうじゃない現実に折り合いをつけないといけなかったりとか、そういうモヤモヤしたり、どこにもぶつけようのない怒りを抱えてたりっていうのに折り合いをつけてきた、その大変だったことって忘れちゃうと思うんです」と語ると、「でも、私はこの作品をきっかけに、そういう自分のこういう時代ってどれぐらい大変だったかなって思い出すきっかけになってきたんです。だから、観てくださる方にも、自分の大変だった時間、今思えば愛おしかったりとか、いい思い出になってるものを思い出してもらえるきっかけになったらなと思います」と思いを明かした。

同じく作間も「いろんな職種の人がいて、これから職業を探す人がいて、いろんな夢を抱えている人がいると思うんですけど、どんな人にも共通していろんな弊害があったりとか、生きづらさみたいのがあって、なかなかその夢にたどり着けないとか、たどり着いてもそれが果たして幸せなのか分からないみたいなことってあると思っていて、それが自分だけじゃなくて大なり小なり他の人にもあるということが、この舞台を通して知れて安心できたので、ちょっと辛い現実を見るような気もしますけど、それがかえって今後の人生においてその安心感になるかなと思いますね」とコメントした。

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最後に、2人からメッセージが送られた。桜井は「間違いなく観て良かったと思ってもらえるような作品になると思っています。本当に直前までブラッシュアップし続けておりました。キャストも気合十分で挑んでいきますので、どうぞよろしくお願いします」と呼びかけ、作間は「劇場に来てくださる方にはもちろんその楽しかったっという思いを伝えられたらいいなと思っていますし、何より僕らは精一杯楽しみながら、いいものをお届けする気持ちでいっぱいです。最後まで怪我のないように走り切りますので、どうぞよろしくお願いします」と会見を締めた。

若者たちの二つの時間軸をクロスさせて描くビターな青春グラフィティ【レポート】

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物語は、2001年の岡山から始まる。高校卒業後に東京で働いていた小渕はあることから岡山に戻ってきたが、そこで韮沢と再会する。そこから、物語は1996年の岡山へと移る。高校生の小渕は、友人の福武や矢田と共に映画同好会に所属し、バカ騒ぎをしながら映画を撮っていた。一方、同じ学校の韮沢はダンス部に所属し、校内のスターとして大人気だった。

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文化祭の準備期間、当日と充実した日々を過ごす2人。友人たちはもちろん、当の本人らも、卒業後に輝かしい未来が待っていることを確信していた。そして4年後、小渕と韮沢はそれぞれ東京と大阪で生活しながら、静かにすり減っていた・・・。

小渕と韮沢のそれぞれの物語を、未来に希望を抱く高校生たちのアオハルな物語と、高校を卒業して就職や大学に進み、都会で暮らす若者の残酷なまでのリアルな物語という二つの時間軸をクロスさせていくことで描いていくオリジナル青春群像劇である本作。

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中央に大きな廻り舞台が配されたステージで、転換時に回転する舞台はあたかも若者たちの心の移ろいやすさを反映するかのように感じさせる。そんな舞台上で、若者特有の未来への高揚感と、成長していくにつれて直面する現実の厳しさという誰しもが感じるであろう人生への共感を、演者のパフォーマンスとストーリーが重なり合うことで訴えてくる。さらに、劇中に差し込まれるフィルム撮影された自主映画のような映像がノスタルジックでアオハルな感情に拍車を掛けていく。

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小渕を演じる作間は初の単独主演という大役ではあるが、肩の力が抜けたナチュラルな演技で、若者らしいバカさ加減と爽やかさが入り混じった男子高校生と、現実に直面して鬱屈したサラリーマンを見事に演じ分ける。そして、桜井も高校のアイドルとしての煌めく女子高生としての姿と、その夢を求めて大学に進学した先に待つリアルと壁に苛まれていく姿を熱演。

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その2人を中心に、若林や中野ら共演者たちがもがき苦しむ等身大の若者たちを好演して群像劇として盛り立てる。そして、全編を通して物語の中心となる岡山では、演者たちによる岡山弁がノスタルジアとしての“故郷”と、憧れた都会とは何もかもが違う田舎へ戻ってきたがそこに埋もれたくないというネガティブなようなものを感じさせ、その混ざり合った思いの中で“故郷”としての臨場感を打ち出している。

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コメディータッチな空気感の中で、映画や漫画などのサブカルなエッセンスをちりばめ、“故郷”をキーワードに甘酸っぱさでだけでは終わらない、人生のワン・モア・テイクを求める若者たちのビターなローカル青春グラフィティとなっている。

ニッポン放送開局70周年記念公演『138億年未満』は、11月23日(土・祝)から12月8日(日)まで東京・本多劇場、12月12日(木)から12月16日(月)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

 
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この記事を書いた人

演劇、海外ドラマ、映画、音楽などをマルチに扱うエンタメライター。エンタステージ立ち上げからライターとして参加し、小劇場から大劇場のストレートプレイにミュージカル、2.5次元、海外戯曲など幅広いジャンルにおいて演劇作品の魅力を日々お伝えしています!

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