Kバレエ カンパニー『蝶々夫人』公演レポート!日本らしい趣をたたえたグランドバレエ

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Kバレエ カンパニー『蝶々夫人』アイキャッチ

2023年5月24日(水)~5月28日(日)の5日間、上野・東京文化会館大ホールにてKバレエ カンパニー『蝶々夫人』が上演されていた。2019年に、熊川哲也が日本人芸術監督として初めてバレエ化に挑戦し大成功をおさめてから3年半。プッチーニの名作オペラに着想を得た切なくも美しいグランドバレエが、待望の再演を果たした。今回は、5月25日(木)昼の公演(蝶々夫人:成田紗弥/ピンカートン:堀内將平)の模様をレポートする。

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『蝶々夫人』あらすじ

開国まもない長崎。武家の娘、蝶々は幼い頃に父親が自害し家が没落、遊郭に身を置いていた。恋人ケイトを米国に残し、長崎に赴任した米海軍士官、ピンカートンは、可憐な蝶々に心引かれ、妻に迎える。ピンカートンが米国に帰国して数年。幼い息子と帰りを待ちわびる蝶々夫人の前に現れたのは、ピンカートンの妻となったケイトだった。すべてを知った蝶々夫人が選んだ道とは…。

Kバレエ カンパニー『蝶々夫人』レポート

Kバレエの全幕作品のほとんどがプロローグに印象的なシーンを用意しており、最初からグッと作品の世界観に引き込んでくれるのだが、今回も強烈だった。切腹のシーンから始まったのだ。Kバレエの他の全幕作品にも言えることだが、プロローグがあることで物語がよりいっそうドラマティックに演出され、観客の心を揺さぶる。今回も、このプロローグで描かれた切腹が痛々しくも力強いラストに繋がっていく。

そういえば、紗幕も面白かった。洋装の女性と和装の女性が交わった浮世絵タッチのだまし絵のようなものが描かれており、幕が上がるまでのあいだ、その意味深な絵をぼんやりと眺めながら、私はこれから描かれる蝶々夫人の悲劇に思いを馳せていた。

第1幕は、海軍の男性たちや遊郭の女性たちによるコールドを存分に楽しめたが、私が一番心惹かれたのは遊郭の女性たちが纏っている衣裳。バレエの衣裳といえば、クラシックチュチュやロマンティックチュチュ、『海賊』の衣裳のようなシュミーズタイプのものが一般的だが、遊郭の女性たちの装いには、着物を模したかなり珍しい形の衣裳が採用されていた。

クラシック・バレエの中心には「アンデオール(ターンアウト)」という概念がある。すごく雑な説明だが、要するに“ガニ股”のようなもので、付け根から足全体を外側に回すようなイメージだ。基本的に、バレエのポーズも歩き方もすべてがアンデオールで行われるし、それでこそ美しいラインが生まれる。当然、衣裳もそうした動きを邪魔せず、むしろ引き立てるような形が好まれるわけだが、今回の着物風の衣裳は、そうしたガニ股っぽいバレエの動きに適した形とは言えない。振り付けにも制限が生まれ、ダンサーたちも慣れない身体の使い方を強いられる。

だからこそ、これまで数々の公演を観てきた私の目にも、遊郭のシーンがとても新鮮に映ったのかもしれない。日本的な動きや文化はバレエとは対極の位置にあるようなもので、これが不思議な溶け合い方をしているからだ。足を高く上げるようなダイナミックな動きがなくても、長いスカートからのぞくトウシューズの足先がなぞるステップには強く印象に残る艶やかさがあった。きっと邪魔でしょうがないに違いない長い振袖は、ダンサーたちが腕を動かすたびに、透けるような薄い素材が空気の抵抗を受けながら柔らかくはためき、それはまるで天女の羽衣のように見えた。

群舞の美しさや力強さを堪能した第1幕から打って変わり、第2幕では主演・成田紗弥をはじめとしたダンサーたちの演技力に圧倒された。ピンカートンの帰りを健気に待ち続ける蝶々夫人の姿は、見ているこちらが辛くなってくるような切なさに溢れている。私自身、成田の舞台を見るのは初めてだったが、難しい感情表現に全身全霊で挑戦していることがひしひしと伝わってくるようだった。物語終盤、悲しみに打ちひしがれる蝶々夫人が自ら命を絶つにいたるまでの過程で、客席のあちこちからからすすり泣くような声も。それだけ観客の心を物語の中に引き込むだけの表現力を持ったダンサーだからこそ、今後がさらに楽しみだ。

Kバレエ カンパニー『蝶々夫人』

ピンカートン役を務めた堀内將平は、相変わらずの安定感と存在感を発揮。先述の着物風の衣裳はパ・ド・ドゥで女性をサポートする男性にとってもなかなか扱いづらかったのではないかと察するが、手間取るところを見せることなくスマートにさばいていた。

芸術監督を日本人である熊川哲也が務めているからこそ。そして日本のバレエ団だからこそ。Kバレエ カンパニーの『蝶々夫人』は、きっとどこの国のバレエ団にも表現しえない、日本らしい趣をたたえていた。

Kバレエ次の全幕公演は新制作『眠れる森の美女』

本年9月に名称をK-BALLET TOKYOへと一新するKバレエが、25周年記念事業の第一弾として次に用意している全幕公演は新制作の『眠れる森の美女』。2023年10月8日(日)と10月9日(月・祝)、10月14日(土)と10月15日(日)に渋谷Bunkamuraオーチャードホールにて、10月24日(火)~10月29日(日)にかけて東京文化会館大ホールにて上演予定。さらに、11月3日(金・祝)に大阪、11月7日(火)に福岡でも上演される。

(文・取材/エンタステージ編集部 バレエ担当 写真/Hidemi Seto)

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