本多劇場に初進出したアマヤドリが混乱と狂乱に招く『銀髪』公演レポート


2017年1月26日(木)に東京・本多劇場にて幕を開けたアマヤドリ『銀髪』。劇団アマヤドリは、前身の劇団「ひょっとこ乱舞」の結成から15周年記念企画として、選りすぐりの過去作品3本を新演出として上演する。『ロクな死にかた』、『月の剥がれる』に続き最後の3本目を飾るのが、この『銀髪』だ。2004年、2007年と上演された本作は、銀髪の青年を渦中に、世界と世間の混乱と狂乱を描く。

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物語の始まりは、ある大晦日の夜。脱サラして路頭に迷う維康(コレヤス/武子太郎)は、屋台のラーメン屋に突然現れた怪しげな男たちに拉致される。その日から彼は、退屈な日常にささやかな混乱と不安をお届けするパニック専門のベンチャー企業「踝(くるぶし)コンドル」の一員となった。

元帥・船場種吉(センバタネキチ/倉田大輔)を中心にビジネスを展開する彼らは、様々な形式でパニックを売りさばき、やがて国民的支持を得て巨大企業へとのし上がっていく。苛烈な反対運動にも関わらず次第にエスカレートしていく狂乱の中、ついに彼らの社運を賭けた一大イベント、「ノストラドン」が始動する・・・。

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アマヤドリといえば、身体表現が特徴的だ。キレのいい俳優の肉体と、それらが揃った迫力の群舞。静と動がハッキリとした俳優の動きと、鳴り響く音楽と声が、観客を物語に引き込む。ほぼ何もない舞台に、車が、家が、線路が見える。舞台上の熱狂が渦巻き、いつのまにか巻き込まれている。

パニック専門ベンチャーの元帥であり、銀髪の船場を演じる倉田の身体が目を引く。再演では元劇団員の成河が演じたこの役は、国民的支持を得るほどの企業のトップという説得力を持たせなければならない。倉田の細い身体は台詞と共にとめどなく動き、世迷いごとのような長台詞を聞かせ、たった一人で380名の観客を惹きつける瞬間が何度もあった。

双子の少女ネピアとエリエールを演じる相葉るかと相葉りこは、混乱していく世間を体現しているようだ。本当の双子だからこそ、同じ動き、似た声の二人が並ぶと、くすぐったいような既視感を覚える。役者が役を演じているのではない、その二人だからこそ作れる空気を体験させてくれる。

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俳優たちが畳み掛ける怒涛の応酬を浴びていると、考える力が失われていくのを感じる。舞台上ではパニックが蔓延し、様々な意見が飛び交うなか、何が正しいのか分からなくなりそうになる。その中でも、会社が大きくなるにつれ不安を抱えていく石田(渡邉圭介)や、命についての苦悩を抱える船場ライカ(小角まや)らの、日常にある悩みを突き詰めていく様が、なんとか現実に引きとどめてくれる。混乱と狂乱の世界に、誰もが日々抱えている悩みの種が散りばめられているので、台詞が胸に刺さる。

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10分の休憩を経て、芝居は変わっていく。舞台の熱気と勢いはそのままだが、前半が狂喜ならば、後半は悔恨。生きるとはどういうことで、生きている感覚とは何なのか、答えの出ない問いを「これが俺の答えだ!お前はどうだ?」と突きつけられているようだ。後悔を丸めこみ、人はどう生きていくのか・・・舞台に目を向けたまま、自分の中に答えを探してしまう。

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また、アマヤドリではチケットの種類が豊富だ。初日プレゼント特典、「前半割」(初日と翌日は割引)、3名での予約だと割引になる「トリオ割」、同じ公演を何度も観ることができる「フリーパス」、そのフリーパスに特典(特製フォトブック&選べる過去公演DVD)がついた「プレミアム・フリーパス」、アマヤドリを初めて観劇する方を各ステージ3名様まで無料モニターとする「タダ観でゴー!」など、演劇を観て欲しいという姿勢が様々な取り組みとなっている。

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舞台セットのほぼ無い暗いステージである分、音と色と身体が浮き立つ。その奥から吹く熱風を、2時間45分(休憩10分含む)、体感する舞台だった。

アマヤドリ15周年記念企画第三弾『銀髪』は1月31日(火)まで、東京・本多劇場にて上演。

(撮影/赤坂久美、bozzo)
(取材・文/河野桃子)

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