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世田谷パブリックシアター企画、注目のカンパニー「らまのだ」稽古場レポート

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2018年11月29日(木)から東京・シアタートラムにて上演される、らまのだ『青いプロペラ』。本作は、質の高い舞台を送り出し続けている世田谷パブリックシアターによる、“シアタートラム ネクスト・ジェネレーション”において上演される。

本プロジェクトでは「若い才能の発掘と育成」を目的とし、1年に1度、選ばれた団体に上演機会を提供し、劇場が上演をサポート。これまでも快快、FUKAIPRODUSE 羽衣、演劇ユニットてがみ座、tamagoPLINなど、数々の“ネクスト・ジェネレーション”を輩出してきた。

今年選ばれたのは“らまのだ”。劇作家・南出謙吾の戯曲を演出家・森田あやがプロデュースし上演することを目的に、2015年旗揚げした。近年のネクスト・ジェネレーション選出団体とは異なり、特殊な手法ではないが、オーソドックスなストレートプレイの会話劇を、誠実に、丹念に練り上げた作品で観客の感情を大きく揺さぶる。人々の心に届く作品を着実に積み上げている実績が注目を受け、今回選出された。

『青いプロペラ』は、らまのだの旗揚げ公演作品の再演となる。日本劇作家協会新人戯曲賞の最終候補に選出された『ずぶ濡れの鳩』を改定したもので、石川弁で紡がれる田舎の原風景を描き、評価された。

出演は、富川一人(はえぎわ)、田中里衣、林田航平、福永マリカ、今泉舞、斉藤麻衣子、井上幸太郎、猪股俊明の8名。

この日、稽古は、冒頭のシーンから。石川県の山あいの小さな町の老舗スーパー。周囲は緑ばかりで、民家も見えないような田舎町だ。その隣町に、超大型ショッピングセンターができるという。
「ユニクロ入るんけ」
「ケーズデンキも」
このままではスーパーは潰れてしまう・・・。

そんな危機的状況を前に、従業員たちは焦りながらもどこかのん気な日常を送る。デートの約束をしたり、後輩に嫉妬したり、痴話喧嘩をしたり。お互いに小さな秘密があったり、プライベートな問題を抱えていたりする。どこかの町にあるあたり前の、けれど不穏な日常感。

「らまのだ」稽古場レポート_2

幕が開き、舞台上では、2015年の初演に引き続き出演する田中里衣(惣菜部チーフ役)がツタンカーメンのように胸に手を当てたポーズで眠っている(ト書きに“ツタンカーメンのように”と書いてある!)。そこにスーパーの新米店長役の富川一人がやってきて、新聞を読み始める。

そこから二人の会話が始まるのだが、演出の森田あやは、細かいニュアンスにこだわっていく。たった一瞬、店長役の富川が頷くという小さな仕草を丁寧に作りこむ。「もっと弱々しく頷いてください」や「もう少し曖昧な感じで」など、いろんな説明方法で指示を出す。さらには「(店長が)どう思っているのか分からない方がいいです。今は、表現されすぎてしまっているので」と、客席からどう見えるかを客観的に説明する。

それを受けて演技を繊細に変える富川。すると、一気に弱々しい男になる。誰かにはっきりと伝えるわけではない曖昧なしぐさ。それによって、はっきりと“演技”だったものが「ああ、こういう人、いるなあ」と感じられた。一気に、舞台上の二人が近所のスーパーの二人になり、親近感がわく。

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またある時は、恋人関係(らしい)二人きりのシーンで、森田が「そこ、相手の顔を覗き込んでみてください」と提案。すると、さっぱりした雰囲気の二人が、今にもキスしそうなあやしい関係に見える。

この台本の会話は、そこらのカフェで見聞きしたことをそのまま文字にしたようだ。「えっと」「なに?」「いえ」「ちがうちがう」「そうなんですか」「そらそや」「てっきり」・・・これは、あるシーンのやりとりだが、曖昧で短い言葉が並ぶ。確かに私たちは普段、そんな細かい言葉でコミュニケーションをとっている。だからこそ、舞台上でちょっとした変化を積み重ねることで、日常の風景ができていくのだ。

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ふとした行動も、どこか親しみを感じるおかしさがある。たとえば、とっさに隠れようと無駄にしゃがんだ結果丸見えだったり、鳩にエサをやる時に野球の投球のように振りかぶったり。「何やってるの(笑)」と言いたくなるような仕草がところどころに散りばめられる。それは、振り返ってみれば日常のいろんなところで起きている。日常は、おかしいのだ。

細部を丁寧に作り上げていく。そして浮き彫りになる彼らの日常のドラマは、私たちの人生の一つの風景だという気がする。

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「森田さんは“こうしてください”とは言わないんです」と出演者たちは肯定的に言う。確かに、森田は笑顔で「こうしてみませんか?」と提案を重ねる。決して答えは言わない。「いろいろ試してみましょうよ」と、出演者と共に歩んでいこうとする姿勢だ。それを受けて、俳優たちはそれぞれ「どうするのが一番良いのか?」を探っていく。

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その稽古場は、小さな町のスーパーのようだった。いろんな人が集まって一つの目的に向かう。都会のように慌ただしくセコセコせず、ゆったりと柔らかい空気が漂う。けれども「良い演劇をつくらねば」という意志があって、それは『青いプロペラ』の登場人物たちが「大型ショッピングモールがくる、なんとかしなければ」と対峙する様子と重なる。

ただ純粋に、誠実に、日常をつくっていく。まるで見ているこちらはその町のスーパーに当たり前にぽんと置かれているような錯覚に陥る。不思議な空気の稽古場だ。きっと劇場では、観客はただ一人の石川県の町の一人となるだろう。そこには「体験」という演劇の魔法が詰まっている。

シアタートラム ネクスト・ジェネレーション vol.11 らまのだ『青いプロペラ』は、11月29日(木)から12月2日(日)まで東京・シアタートラムにて上演される。

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◆公演情報
シアタートラムネクスト・ジェネレーションvol.11
らまのだ『青いプロペラ』

【日程】2018年11月29日(木)~12月2日(日) シアタートラム
【脚本】南出謙吾
【演出】森田あや

【出演】富川一人(はえぎわ)、田中里衣、林田航平、福永マリカ、今泉舞、斉藤麻衣子、井上幸太郎、猪股俊明

【ポストイベント開催決定!】
11月30日(金)14:00公演
スティールパンミニライブ
出演:実近友里恵 飯野顕 岩崎有美(STARS ON PAN)

12月1日(土)17:00公演
ポストトーク
登壇:瀬戸山美咲 森田あや 南出謙吾

12月2日(日)14:00
ポストトーク
登壇:マキノノゾミ 森田あや 南出謙吾

※ポストイベントは開催回のチケットをお持ちの方が参加可能

(取材・文・撮影/河野桃子)

(文/エンタステージ編集部)

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