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ENBアクラム・カーン版『ジゼル』11月30日より公開!トウシューズの有無がもたらす効果

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イングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)によるアクラム・カーン版『ジゼル』が、映画として2018年11月30日(金)より東京・東劇を皮切りに順次公開される。公開に先駆け、マスコミ向けに行われた試写会より、本作の魅力をレポートする。

薄暗い舞台上の巨大な石の壁の前に、質素な衣裳のダンサーたちが客席に背を向けてずらりと立っている。流れる不気味な音楽。鬱屈した怒りや、苦悩が渦巻く。その中で惹かれあう若い男女、ジゼルとアルブレヒトの優しい心の交歓。嫉妬して二人の間に割り込もうとするもう一人の男、ヒラリオン。やがて厚い壁の向こうから豪華な衣裳をまとった支配階級の人々が現れる。被支配階級と支配者たちの間でうまく立ち回るヒラリオン。そしてアルブレヒトが実は支配階級の一人であることが露見し、取り乱すジゼルを拒んで去って行く。打ちのめされ、やがてジゼルは命を落とす・・・。

そこまでが第1幕。第2幕では冥界のような場所で、恨みを抱く女たちの精霊ウィリーがヒラリオンやアルブレヒトに恨みを晴らそうとする。仲間に引き入れるためジゼルを蘇らせるウィリーの女王ミルタ。だがジゼルの望みはアルブレヒトを殺して恨みを晴らすことではなかった。怒るウィリーたち。ジゼルはアルブレヒトを救うことができるのか。

Main_Tamara Rojo in Akram Khan's Giselleロゴc Laurent Liotardo

この作品をより深く楽しむために元々のクラシック・バレエの古典「ジゼル」について知っている必要はないが、説明しておこう。

純朴で美しい農村の娘ジゼルは、若者アルブレヒトと恋をしている。猟師ヒラリオンもジゼルを好きだが、ジゼルは相手にしない。嫉妬したヒラリオンはアルブレヒトが身分を隠した領主の息子であることに気付き、村人たちにそれをばらす。アルブレヒトにはやはり裕福な婚約者もいることを知り、心臓の弱かったジゼルはショックで命を落としてしまう。

愛する男と結婚できずに死んでしまった女たちの精霊ウィリーが住む森に埋葬されるジゼル。森を訪れたヒラリオンは、ウィリーたちによって死ぬまで踊らされる。アルブレヒトも踊るようにウィリーたちに命じられるが、精霊に姿を変えたジゼルが彼をかばおうとし、ウィリーたちの怒りをさらに煽る。ウィリーたちに許しを乞いながら必死に踊るジゼルとアルブレヒト。

だが、ついに精根尽き果ててアルブレヒトが倒れた時、夜明けの鐘が聞こえてくる。ウィリーたちは去り、ジゼルも去って行く。命が助かったアルブレヒトは、自分の裏切りのせいで命を落としながら赦してくれたジゼルを想い、悲しみにくれる―。

恋する二人の間に横たわる階級の壁、嫉妬と裏切り、死と復讐、そして赦し、というテーマはそのままだが、設定が違い、衣裳も伝統的なものとは異なる。音楽も、元々の音楽の中のメロディーが数ヶ所、断片的に使われているが、ムードもまったく違うものに。

Sub_English National Ballet in Akram Khan's Giselle ロゴc Laurent Liotardo

さらに、前半では女性ダンサーたちもトウシューズを履いていない!トウシューズは女性(ごくまれに男性も履くが)のバレエダンサーがはくシューズの足先部分を堅くして爪先で立てるようにしたクラシック・バレエ独特のもので、古典的な「ジゼル」ではこのトウシューズでの技巧を見せる踊りも有名だ。だが、こちらのトウシューズを履いていないアクラム・カーン版『ジゼル』が見せる、“履いていないからこそ”の踊りもとても味わいがある。

実はこのアクラム・カーン版『ジゼル』でも、後半に登場するウィリーたちはトウシューズを履いている。トウシューズでの爪先立ちは、通常の足指部分を前に曲げた爪先立ちと違い、爪先を伸ばした状態で立つ。それがある意味、現実離れした美しさをかもし出すので、このアクラム・カーン版の、トウシューズをはかない前半のジゼルの現実に生きている、生々しい感情に溢れた美しさと、トウシューズをはいた後半のウィリーたちの非現実的な、怖さを潜めた美しさが鮮やかな対照を見せる。

Sub_Tamara Rojo and James Streeter in Akram Khan's GiselleロゴcLaurent Liotardo

生きる人々の苦悩や怒り、その中にもある楽しさや美しさ。階級の分断、その間で引き裂かれ、また踏みにじられる愛情。恨みと復讐、そして赦しと後悔。ENBの芸術監督でもあるタマラ・ロホは柔軟な身体と溢れる表現力で、繊細さの中に人を赦す強さを秘めたジゼルを踊る。原典よりはるかに大きな役割を与えられたヒラリオン役のジェフリー・シリオは、キレの良い動きで野心や嫉妬、身体の中に渦巻くたくさんの感情とそのエネルギーを余すところなく体現して見せた。アルブレヒト役のジェームズ・ストリーターは立ち姿も踊りもノーブルで美しく、見る者がジゼルの愛情に共感できる分だけ、その裏切りや苦悩、後悔が心に沁みる。

イングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)アクラム・カーン版『ジゼル』の東京・東劇での公開は、11月30日(金)から12月6日(木)、12月14日(金)から12月21日(金)まで。

なお、今回の上映を記念して、11月30日(金)19:00回上映後には、バレエが趣味でバレエを題材にした作品も描いている人気漫画家・桜沢エリカを招いたトークショーも行われる(トークショー開始は21:00、約25分を予定)。
【東劇HP】https://www.smt-cinema.com/site/togeki/

その後、札幌、名古屋、大阪、神戸でも上映を予定。
【札幌シネマフロンティア】2018年12月7日(金)~12月20日(木)
【ミッドランドスクエアシネマ】2018年12月7日(金)~12月20日(木)
【なんばパークスシネマ】2018年12月7日(金)~12月20日(木)
【神戸国際松竹】2018年12月21日(金)~2019年1月3日(木)

【公式HP】https://www.culture-ville.jp/enbgiselle

(取材・文/月島ゆみ)

写真 (C)Laurent Liotardo

(文/エンタステージ編集部)

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