凰稀かなめ×西田大輔、“キャリアが交わる”瞬間への期待――音楽劇『モンテ・クリスト伯』稽古場レポート


凰稀かなめ主演、西田大輔作・演出の音楽劇『モンテ・クリスト伯~黒き将軍とカトリーヌ~』が、2020年8月16日(日)に東京・明治座にて幕を上げる。本作は、アレクサンドル・デュマ・ペールによる小説「モンテ・クリスト伯」を取り巻く人々の物語と、小説世界を劇中劇として絡め、多重の“復讐劇”として仕上げる作品。コロナ禍でもなんとか作品を届けようと奮闘する稽古場を取材した。

本作は、もともと5月に上演を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で一旦延期になっていた。今回、改めて日程が組まれ、一部キャストを変更。伊藤裕一、松浦雅、松田昇大、十碧れいや、川﨑麻世に加え、渡辺大輔、富田麻帆、廣瀬智紀、日向野祥、千田京平、岩崎良祐が新キャストとして参加し上演することとなった。

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稽古場には、入り口で手指消毒が義務付けられているほか、劇場と同じくサーモグラフィを設置。出入りする出演者、スタッフの発熱状況が常に確認できる。また、その日出演シーンの稽古がないキャストはオフにするなどの細かい対応や、稽古時間も約1時間ごとに休憩を入れ、扉や大きなドアを全開にするなど、できる限りの対策を行っていた。

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稽古中も、俳優たちはフェイスシールドを着用。表情が見えづらかったり、声が聞こえづらかったりと苦労も多いようだが、作・演出の西田を中心に、一丸となって取り組んでいる様子が伺えた(取材日は、ヴィルフォール役の廣瀬智紀、ダングラール役の日向野祥、デュマ/フィリア役の川﨑麻世は不在)。特に、エドモン・ダンテス(モンテ・クリスト伯)/フィス役の2役を演じる渡辺は、意思疎通がうまくいかなかったり、齟齬があった際は洋画のようなオーバーアクションとにっこり笑顔で、努めて場を盛り上げていた。

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そして、印象的だったのは、西田の演出意図をフェイスシールドの奥から読み取ろうとじっと見つめる凰稀のまっすぐな目。「モンテ・クリスト伯」は凰稀にとって縁のある題材だ。宝塚歌劇団在籍時代、宙組トップスターとしてタイトルロールの「モンテ・クリスト伯」を演じた。今回は、「モンテ・クリスト伯」の著者であるデュマが愛した最初の女性、カトリーヌと、作中でモンテ・クリスト伯(エドモン・ダンテス)の婚約者であるメルセデス、現実と物語の中で2人の女性を演じ分ける。

凰稀に話を聞くと、「宝塚では男役の方を演じていたので、あの時とは全然違う作品ではあります。でも、エドモンを演じていた時の感情は、今回の『カトリーヌ』を演じる上ですごく重要なものになっているので、演じた経験が役立っているなと思いますね」と教えてくれた。

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西田がこの多重の“復讐劇”を書いたのも、凰稀がモンテ・クリスト伯を演じた経験を持っていることが大きく影響したという。西田は、本作の見どころについて「かなめさんが演じるカトリーヌは、すべての“役”を演じているような側面もあります。僕自身も作家なので“人間”を描く仕事なんですが、カトリーヌが描く人間たちをどう見せるか。そしてカトリーヌは、劇中で演出家的な意味も持つんです。これが本作の最大の醍醐味になるかと思います」と語った。

凰稀が演じるカトリーヌという存在は、この物語の“著者”として物語全体に関わっていく。「いろんな人の感情をカトリーヌを演じる中で表現できたらと思って、今はそれぞれの役を演じる役者さんの癖とか台詞の言い方とかを研究しているところですね」と凰稀。自分の中でしっかりと練り上げる役作りは、稽古場で見せた印象的な眼差しに裏打ちされていた。

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西田と凰稀が共に作品作りをするのは、これが初。西田は、「今、かなめさんと一緒にお芝居を作っていて、短い稽古の中の、一つのシーンにもものすごいお芝居への愛を感じて驚いたんですよ。俳優さんとしてもそうですが、一人の人間としてもその(お芝居への)向き合い方がとても素敵で。かなめさんはずっと宝塚で第一線に立たれてきた方で、僕はまったく違うジャンルでお芝居を作ってきた。今こうしてそのキャリアが交わる瞬間が生まれて、畑は違えど共通の言語を持っている。これは、なかなかない舞台を作ることができるんじゃないかとワクワクしています」と出会いを喜ぶ。

凰稀は、西田の作品作りについて「西田さんは天才過ぎて、まだ全然ついていけていないんですよ(笑)。いつもは点と線を組み合わせていくんですが、今は頭の中がパズル状態というか・・・。外枠ができていて、そこを少しずつピースで埋めていっているような感じです。すごく不思議な感覚。きっとこれは、出来上がった時にああ~!こういう絵になるのか~!ってすごい驚きが生まれるんだろうなあって、やっている今からワクワクしています」と顔をほころばせた。

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今回は音楽劇ということで、ナンバーも多数用意している。稽古では、場面を身体に馴染ませようと、西田の明るい声かけで同じシーンの稽古が繰り返された。舞台装置の模型や、衣裳なども含めて、劇場にしかない完成形を目にできることが楽しみだ。

西田も凰稀も、これが自粛明け一発目の舞台。西田は「細心の注意を払いながらも、いつどうなるか分からない環境の中で稽古をしているのですが、それでも稽古場で俳優たちと一緒に作品づくりをすることで、改めて“生きがい”を感じている今です。僕らは、劇場を出たあとに、お客様の心に何か一つでも残るものづくりを目指しています。何かを作るってすごく大変なことだけど、僕は今、稽古をしていて確かに、誰かにとっての忘れられない景色が生まれるような気がしているんです。大変な時期ですけど、いろんな条件が合う方はまず劇場の扉を開けて、物語を体感してもらえたらと思っています」とメッセージをくれた。

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凰稀も、「こういう状況下で苦しんでいる方もいるので、誰かの背中を押してあげたいという思いもいつものように持っていますが、複雑です。でも、西田さんもおっしゃったように、観ていただいたらお客様に持って帰っていただけるものがいくつもある、すごくおもしろい作品になっています。私も、俳優として生の舞台ってすごいことだなと改めて感じています。お客様にも、少しでも元気の素をお届けして、免疫力を高めていただけたら嬉しいです。こういうご時世なので、少しでも元気になって、免疫力をつけて元気になってもらえたら。もしお時間がありましたら、ぜひ劇場へ足をお運びください」と呼びかけた。

『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~は、2020年8月16日(日)から8月23日(日)まで東京・明治座にて上演される。

【公式サイト】https://kaname.style/monte_cristo20/
【公式Twitter】@Monte_Cristo20

【公演情報】https://db.enterstage.jp/archives/1528

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