山﨑晶吾らが“当たり前”の日々を取り戻すべく奮闘 東京印『げんせんじゃ~!』レポート


2020年7月8日(水)から東京・CBGKシブゲキ!!にて、東京印公演vol.18『げんせんじゃ~!~宝や旅館~2020』が上演されている。数百年も続く老舗の温泉旅館ながら借金問題に悩む「宝や」を舞台に、亡き父親の後を継ぎ旅館を切り盛りしている若社長と一風変わった従業員たちが旅館を盛り上げようと奮闘する姿を描く本作には、山﨑晶吾、川上将大、白石康介、鐘ヶ江洸、登野城佑真、堂本翔平、南北斗、安芸武司、清水拓蔵、山本圭壱が出演。開幕直前に行われたゲネプロの様子をレポートする。

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温泉旅館「宝や」に新しい従業員として辰雄(南)がやって来るところから物語は始まる。個人的に舞台を生で観に来たのは約4か月ぶりだった。緊急事態宣言が解除され“新しい生活様式”が掲げられる中、同じ空間で近い距離で観劇できる舞台はどのように変わっているのか。“ソーシャルディスタンス”“マスク着用”など、これまでの舞台にはなかった要素が盛り込まれることで違和感がある中での観劇になるのではないか、というちょっとした不安もあったが、物語が始まって数分でその思いは払拭されたように思う。

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今作は新型コロナウイルスの影響により宿泊客が減ってしまった老舗の温泉旅館が舞台。登場人物達は透明のマスクを着用し、劇中で堂々とアルコール消毒もしっかりとするし「ソーシャルディスタンス!」と距離を意識したセリフも発せられる。コロナ禍で客足が遠のく中でどうやったら旅館を盛り上げていけるのか、経営が傾いてるこの旅館を辞めて別のところへ転職してしまおうか・・・今の時代どの企業でも直面している問題が題材にされているからこそ、それらの行動もナチュラルに観ることができた。

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そんなリアルな世界観の中で、借金問題に悩み家族との関係も上手く築けず頭を抱える若社長・勇作(山﨑)に勇作の幼なじみと一緒に旅館のために温泉祭りのイベントで“ヒーローショー”をやろうと提案する切り込み隊長・霧島(川上)、ライバル旅館への転職を考える有馬(白石)、自分で画鋲などを部屋に仕込みいちゃもんをつけてくる唯一の宿泊客・赤倉(鐘ヶ江)。

そして、料理の腕を買われ他から引き抜きの話が来るも弟のため恩のある旅館のために残ることを決めた料理人・まさる(登野城)、耳が聞こえずも懸命に自分が出来ることをこなすピュアな瞳で旅館の仲間を見守る・純(堂本)、テンションの高い霧島のノリにすぐについていけるコミュニケーション能力を持つ新人従業員・辰雄、そして、サボり癖があるものの先代の社長に恩を感じ旅館のためにがんばろうとする島原三郎(安芸)など、個性豊かなキャラクターたちの愛らしさが光っていた。

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勇作と霧島の幼なじみだからこそ言える励ましや本音、まさると純の兄弟の絆、義理を通そうとする島原と横暴な態度でいちゃもんをつけつつも従業員たちの輪に馴染んでいく赤倉、一人で悩みを抱え孤独になりかける有馬。他愛のない会話を展開し、からかい合い、適度に保たれた距離でも互いにある信頼を感じさせる関係性が見える。そして、ヒーローショーのためにアクションの練習をしたりテーマソングを考えたり、旅館を盛り上げるべく従業員たちががんばる姿が微笑ましい。

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また、霧島がアクションの指導をしてくれる先生として呼んだ“藤岡弘”(山本)の強い個性も物語を盛り上げていた。「サバイバル大好き!藤岡弘です」と良い声で堂々と名乗りながらも、キックは恐らく膝くらいまでしか上がらず、動きも緩く、危機感を察知する能力もなくすぐにやられてしまう。物語が進むにつれて、それぞれが抱える悩みが強まり緊張感が漂い始める中で、藤岡弘が出てくる場面は常に軽妙でコミカルだった。

しかし、藤岡弘と霧島が絡む場面でもコミカルさの中に紛れたリアルが際立つ瞬間がある。霧島が藤岡弘演じる山本へぶつける「当たり前じゃねぇからな!」。知っている人は知っている、山本の心に強く響くこの言葉。今の時代を鑑みるとその言葉は山本だけではなく他のキャスト、観客、全ての人に響くフレーズとなっているのではないだろうか。

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最後には、さまざまな問題に向き合いなんとか乗り越えた9人によるヒーローショーを展開。少しでも当たり前の日々を取り戻すために、特別なショーを披露する。その顔は晴れやかでサッパリとしていて、前向きな未来に向かって進んでいこうという気持ちを感じさせた。

緊急事態宣言が解除されたあと、すぐにこの公演の上演が決定したという。今現在どこかの温泉旅館で直面している問題かもしれない、それくらい身近で現実みのある物語だった。それでも悲壮感ではなく、コミカルでほっこりとした雰囲気を多分に感じることができた。久々に間近で役者の演技を見つめ、空気を肌で感じる。劇場で観ることができるからこそ、この特有の楽しさと贅沢さを久しぶりに体感することができた。観客もマスク着用、入り口で体温を測りアルコール消毒、席も間隔を開けて座っていくことになるが、それでもこうやって少しずつ“当たり前”だった日常が戻ってくるのは素晴らしいことだと、作品を通して教えてくれた気がした。

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主演の山﨑は「油断の出来ない状況が続く中、舞台に立てて感謝の気持ちでいっぱいです。『げんせんじゃ~』は笑いあり、涙ありのコメディヒューマンドラマになっております。自分は何を信じたらいいのか分からず、悩みながらも仲間達の力で成長していく。このストーリーで決心するきっかけは何でもいいんだと教えていただきました。悩みながらも前に進もうとする!皆さんの背中も押せるようにキャスト一同、毎公演大切にして取り組んでいきます。応援よろしくお願いします」とコメントを寄せた。

東京印公演vol.18『げんせんじゃ~!~宝や旅館~2020』は7月12日(日)まで東京・CBGKシブゲキ!!で上演。上演時間は約2時間。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 3号)

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