表現に飢えた劇団Patchの必死のパッチ!『ロックダウンスパイ』Zoom稽古&生演劇レポート


2020年5月29日(金)より、劇団Patchの新公演『ロックダウンスパイ』が、Zoom生演劇としてオンライン上で開幕した。Patchメンバーが、“今、できること”を模索した今回の企画。劇場で、観客の前に立つことを常としてきた彼らの新しい挑戦を、稽古から本番にかけてオンライン取材した。

2012年4月に旗揚げされた同劇団は、結成8周年の今年を“8(パッチ)イヤー”として4月から数々の催しを企画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大によりすべて延期を余儀なくされていた。

そこへ、本企画を持ちかけたのが小説家・高殿円だった。高殿は、これまでもPatchの劇団公演に何度も足を運び、「ぜひ一緒に仕事がしたい」と今回、作品作りを共にしようと声をかけたという。さらに演出家として、Patch結成当初に脚本提供をしていた縁のあるA・ロックマン(大熊ひろたか)が参加。

高殿が代表作でも扱う“スパイ”ものに、芸人シャカとしても活動してきたA・ロックマンの“笑い”を加え、参加するPatchメンバー(中山義紘、松井勇歩、竹下健人、三好大貴、星璃、吉本考志、尾形大吾、藤戸佑飛)8名の個性が光る「オンライン・コメディ」が誕生した。

収録ではなく、編集不可のリアルタイムで配信が行われるため、入念な稽古が必要だ。しかし、稽古といってもそれもZoomを使ったオンライン。その稽古について、中山は「百聞は一見に如かず、という言葉が正にピッタリで。僕自身も、正直『Zoomで演劇ってどんな感じ??』と首を傾げていたんですけど、稽古を進めていくにつれ『あっ、これは新しいジャンルの表現方法なんや』と認識が変わっていきました」と、新たな挑戦だったことを明かした。

物語の舞台は「オンライン会議」。日本には、某国から潜入しそれぞれ独自の活動を続けているスパイたちがいた。しかし、突然のウイルスの大流行、国境閉鎖、非常事態宣言につき、彼らは当初の予定通りの任務を遂行することができなくなってしまった。

本国はこの緊急事態に対処するため、特定の日の午後10:00から30分だけ、スパイたちがネット上で、各国のハッキングを恐れることなく情報交換をできる場所を提供することにした。しかし、その部屋はすでに日本の公安警察によってマークされていたのだ。

公安五係・平山(藤戸)が監視する中、エリート(松井)、ガチ(吉本)、ヨシコ(竹下)、ミナミ(中山)、ロック(尾形)が、任務を続行するためやむなく「その場所・生存戦略会議室」に現れる。果たして彼らはどんな人物で、日本でどんな活動をしているのか・・・。本国による極秘日本攻略のプロジェクトとは!?

中山が、「登場人物がZoomを使って会話をしている様子をお客様は覗き見している感覚になると思います!」と言っていたが、さながら観客(視聴者)は“公安五係”!藤戸演じる平山と共に、スパイたちを監視する感覚を味わえる。これは、劇場で観るのとはまた少し違った、スリリングな観劇体験である。

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稽古風景もまた、不思議なものだった。本番と同じように、Patchメンバーが芝居を進めていく中、演出のA・ロックマンが声だけで演出を指示していく。「画面の向こう」を常に意識して、「パソコンだと分かりやすいんだけど、スマホで観ている人は○○が小さくて分かりづらいかもしれない」と、小道具や仕掛けの見せ方も、「画面の向こう」ファースト。劇場では、演出も役者も劇場全体を意識して芝居を作っていくが、このZoom生演劇では「画面の向こう」の“あなた”だけ、というのもおもしろい作り方である。

また、A・ロックマンは演劇用語で言うところの「セルクル」(サークル)を、非常に大事にしていた。「セルクル」とは、フランスのメソッド(ベラ・レーヌ・システム)で、台詞の方向性を心の中で3つに分けて考えること。「第一セルクル」では自分の心のつぶやき(いわゆる独り言)、「第二セルクル」では人・物・景色への問いかけ、「第3セルクル」では記憶やバックボーンへのアプローチを含んでいく。

「それはこぼし台詞だから、そんなに強く言うものじゃない」「その“言葉”がひっかかるように立てていこう」と、対象や時間軸が違えば、発する台詞の出どころも変わってくる。全身で表現をすることを見せるのが難しいオンライン生演劇だからこそ、より一層台詞へのこだわりを感じさせた。

一つ一つの場面に細かくしっかり演出をつけていくA・ロックマンだが、あるシーンで松井に対し“画面の枠”を使った演出をつけるためカメラを切り替えると、その傍らにはかわいい女の子の姿が・・・。“リモートワークあるある”な微笑ましい実態に微笑みながらも、変わらず稽古をすすめるPatchメンバーに、「イタズラ盛りの2歳の女の子がリモート稽古中にパソコン前に入ってきても全く動じない!!すごいメンバーです!」と、A・ロックマンもさらなる信頼を寄せていた。

今回の公演は、それぞれがでは、役者はカメラマンでもあり、舞台美術さんであり、衣裳さんでもあり、メイクさんでもある。通し稽古を終えた後には、それぞれが用意した衣裳の“色”や、小道具、メイクなどでも、登場人物の造形作りにも余念がない。パリッとしたシャツを1枚しか持っていないという松井はネクタイで変化をつけようとしてみたり、吉本はTシャツで差別化を図ってみたり・・・。メイクでは、役の置かれた状況を物語る中山の“眉毛”に注目だ。

オンラインでは、観客を含め、個々のWi-Fi環境によって視聴状況が左右されやすい。藤戸の役はいわゆる“ツッコミ”の要素を強く持っており、間は命なのだが、稽古中、時々遅れが生じる場面もあった。しかし、通し稽古や本番では少し前のめり気味に芝居でぴったり合わせてくるという、デジタルをアナログでねじ伏せるスゴ技を発揮。決して充実した環境ではなくとも、生の演劇としてしっかり芝居を成立させる、Patchの根性を感じた。

脚本提供していたPatch結成当初以来、約8年ぶりに一緒に仕事をすることになったA・ロックマンも、彼らについて「実際、みんなにはほぼ会ったことなかったんですが、リモートでの稽古をしていて思ったことは、とにかく皆さん吸収が早い!!その上、みんなそれぞれ役に対してのアプローチがすごい!」と絶賛。

本作は、全5話の連ドラ形式になっている。第1話の終盤で登場する三好と星璃が演じるのは、一体どんな人物なのか?今後の展開が楽しみだ。また、第3話には納谷健、第4話には近藤頌利も出演予定。

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このZoom生演劇、公演中は観客の声はミュートロックされているが、終演後にはこれを解除し、メンバーに直接声をかけることができるシステムが設けられている。初日を終え、観客から「おつかれさま」「楽しかった」という声が次々にかけられるメンバーの表情は、充実感に満ちていた。

「ここ数ヶ月間、表現する事に飢えていた劇団PatchがZoom演劇に喰らいつく姿をぜひとも目撃して欲しいです」と言った中山。緊急事態宣言が解かれてなお、まだ演劇の日常は戻ってこない。そんな状況の中でも、あがき、模索し続ける劇団Patchの“必死のパッチ”。画面という一枚絵の中でも、残念だけど一生懸命にがんばっている“スパイ”たちを、Patchメンバーが生き生きと演じる姿は、きっと元気をくれるはずだ。

劇団Patch『ロックダウンスパイ』は、毎週金・土・日曜日にオンライン上演。上映時間は1話約25分を予定。1公演の価格はパッチにかけて888円。

視聴URL:https://match-ing.jp/lockdownspy/
※全公演生配信
※各公演につきチケットが必要
※1枚のチケットにつき、対応する公演が配信されている時間内の視聴1回のみ可能(途中退出・再入場可)
※開演後もチケットの購入・途中入場可能
※録音・録画は禁止

<公演日程>
【1話】
5月29日(金)22:00開演(21:30開場) ※終了
5月30日(土)22:00開演(21:30開場)
5月31日(日)22:00開演(21:30開場)
【2話】
6月5日(金)22:00開演(21:30開場)
6月6日(土)22:00開演(21:30開場)
6月7日(日)22:00開演(21:30開場)
【3話】
6月12日(金)22:00開演(21:30開場)
6月13日(土)22:00開演(21:30開場)
6月14日(日)22:00開演(21:30開場)
【4話】
6月19日(金)22:00開演(21:30開場)
6月20日(土)22:00開演(21:30開場)
6月21日(日)22:00開演(21:30開場)
【5話(最終話)】
6月26日(金)22:00開演(21:30開場)
6月27日(土)22:00開演(21:30開場)
6月28日(日)22:00開演(21:30開場)

(取材・文/エンタステージ編集部 1号、画像/オフィシャル提供)

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