多和田任益らが攻めに攻める!『改竄・熱海殺人事件』モンテカルロ・イリュージョン稽古場レポート


2020年3月12日(木)に東京・紀伊國屋ホールにて開幕した『改竄・熱海殺人事件』。つかこうへい没後10年に向けて、1月末には『飛龍伝 2020』、3月からは『改竄・熱海殺人事件』が、命日にあたる7月には『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』が連続上演される。

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そのうち、『改竄・熱海殺人事件』は中屋敷法仁が演出を手がけ、「ザ・ロンゲストスプリング」と「モンテカルロ・イリュージョン」を2本立てで上演。新型コロナウイルス感染拡大に伴う状況を鑑みて、掲載を見合わせていたが、本記事では「モンテカルロ・イリュージョン」の稽古場の様子をレポートする。

1973年に発表された『熱海殺人事件』は、『売春捜査官』『平壌から来た女刑事』など変化させながら上演されてきたつかこうへいの代表作。「モンテカルロ・イリュージョン」は、つかこうへいが阿部寛のために書き下ろしたバージョンだ。今回は、木村伝兵衛部長刑事役の多和田任益を筆頭に、水野朋子役に兒玉遥、容疑者・大山金太郎役に鳥越裕貴、山形から来た田舎刑事の速水健作役に菊池修司という布陣で本作に挑む。

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稽古場では、場面ごとに台詞の修正や立ち位置の確認が細かく行われていた。中屋敷は、音響とタイミングを合わせ、「この台詞は取ろう」「この言葉、付け加えてもらってもいい?」と、つかこうへいの手法“口立て”を思わせるスピーディな変更で、言葉のリズムを整えていく。

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同時上演される「ザ・ロンゲストスプリング」が『熱海殺人事件』の決定版と言われている一方で、「モンテカルロ・イリュージョン」は“異端”とされている。それは、設定からも明らか。まず、多和田が演じる木村伝兵衛には、バイセクシュアルという人物背景がある。また、オリンピックもキーワードとなっており、「ザ・ロンゲストスプリング」と共通の台詞がありながらもまったく色が違う。

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多和田は『熱海殺人事件 NEW GENERATION』(2017年上演)において、味方良介が演じる伝兵衛の元に赴任してくる熊田留吉を演じている。序盤では主に兒玉の中心となる場面の稽古が行われていたが、その後ろでしっかりと場面を支える多和田の、座長としての背中が頼もしく見えた。

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兒玉は、婦人警官・水野だけでなく、容疑者・大山金太郎(鳥越)と深く関わりのあるアイ子も演じる。一人二役に近い入れ子構造に、長台詞。どこで息を吸うのか、どこまでが“アイ子”で 、どこまでが“婦人警官・水野”なのか・・・。視線から動作まで、中屋敷の導きで、兒玉の芝居は刻々と変化していく。

そんな兒玉のひたむきな姿を見守る他のキャストの姿も印象的。伝兵衛の机を叩くシーンで「うまく音が鳴らない」と悩む兒玉に、多和田が「手のひらをこうして(開くようにして)叩くといいよ」と優しくアドバイスをしていた。

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現場の盛り上げ役でもある鳥越は、稽古に入るとすっと表情が変わり、長台詞もこなしていく。日頃から足繁く劇場に通っている鳥越。「ずっと『熱海殺人事件』に出て、大山を演じたいと思っていたんですよ」と語っていたが、夢が実現した喜びを胸に、稽古場で起こる出来事をしっかりと刻んでいる様子だった。他のキャストも、鳥越の大山役は「ぴったり」と評す。

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序盤、菊池演じる速水健作が山形から新しく赴任してくるシーンでは、木村伝兵衛との絡みがある。他のシーンの稽古中も、椅子にじっと座りながらその様子を見つめていた菊池。自分の出演シーンでは、中屋敷から「台詞で観客にもたらす印象」の指示を受け、台詞を繰り返しながらイメージをすり合わせていた。

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「モンテカルロ・イリュージョン」では楽曲も多数披露される。歌やダンスなど、エンターテインメント要素がたっぷり詰まっている印象を受けた。台詞、動き、視線、その一つ一つに意味を持たせる演出にも注目していただきたい。

多和田は「かなりぶっ飛んでいます。役としてもエキセントリックな部分が多いので、やりがいがあります」と気合十分に語っていた。同時上演される「ザ・ロンゲストスプリング」において荒井敦史が演じる木村伝兵衛とはまったく異なる“部長刑事”像を見せてくれそうだ。

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稽古場でも、実験的で“攻め”の姿勢に満ちた「モンテカルロ・イリュージョン」。『改竄・熱海殺人事件』は、この「モンテカルロ・イリュージョン」からスタートを切る。中屋敷のもと、4人はきっと、幕が開けるギリギリまで、いや、幕が開けてもなお、攻めの姿勢を緩めることはないだろう。

『改竄・熱海殺人事件』モンテカルロ・イリュージョンは、以下の日程で上演。上演時間は約1時間45分を予定。なお「ザ・ロンゲストスプリング」は3月17日(火)に初日を迎える。

【東京公演】3月12日(木)~3月30日(月) 紀伊國屋ホール ※3月17日(火)以降は「ザ・ロンゲストスプリング」と回変わり上演
【大阪公演】4月4日(土)・4月5日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール ※「ザ・ロンゲストスプリング」のみ
【福岡公演 ―FM 福岡開局50周年―】4月11日(土)・4月12日(日) イムズホール ※「モンテカルロ・イリュージョン」のみ

【公式サイト】https://www.atami2020.jp/

(取材・文・撮影/高城つかさ)

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