平間壮一の新境地、再び――オリジナルミュージカル『Indigo Tomato』開幕レポート


Coloring Musical『Indigo Tomato』が、2019年11月10日(日)・11月11日(月)に福島・いわきアリオス小劇場でプレビュー公演を行い、11月14日(木)に北海道より全国ツアーをスタートさせる。本作は、小林香の作・演出で昨年5月に初演されたオリジナルミュージカル。主演の平間壮一は、サヴァン症候群の青年を見事に演じきり、高い評価を得た。今回、平間をはじめ、大山真志、安藤聖、剣幸・彩吹真央(Wキャスト)が再集結。さらに、長江崚行、川久保拓司(大山とWキャスト)が加わり、再演を果たした。以下、オフィシャルレポートを紹介。

物語は、自閉症スペクトラムなどの障害がある一方で、数学や記憶に突出した才能を持つサヴァン症候群の青年タカシ(平間)が主人公。その才能に目をつけたテレビマンによってクイズ番組への出演を誘われた彼が、さまざまな人との出会いによって自分の殻を破っていく過程を、繊細な筆致で描いていく。

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タカシを演じる平間は、初演時も絶賛された、自閉症スペクトラム障害を持つ青年を真摯に、丁寧に演じる。さらに“数字に強い”という彼の個性を表現する必要もあり、実際、円周率を200桁近く暗唱するシーンもある。それらの挑戦も、並大抵の努力では成し得なかっただろう。

だが、何よりも素敵なのは、数字との格闘より、タカシの持つピュアさを自然に出しているところ。しかも喜びや嬉しさといった感情をあまり表に出さないタカシの心情を、表情ではなく全身で表しているのが素晴らしい。平間にとってもタカシ役は当たり役になったに違いない。

タカシを支える弟マモル役には長江が新たに加わった。彼もまたまっすぐ役と向き合い、気持ちの良い印象を残す。苦労を重ね、時に絶望もするタカシとマモルの兄弟だが、平間と長江が嫌味なく素直に演じていることで、作品全体に爽やかな風が吹く。

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彼らを取り巻く人々もカラフルだ。タカシをテレビの世界へ誘うユーゴを演じる川久保(大山とのWキャスト)はタカシを利用しようとする野心と、彼自身自分の居場所に違和感を持っている屈折した感情をうまくブレンド。

タカシとマモルの行きつけの公園のカフェ店員あやを演じる安藤の朗らかさも作品を象徴するかのよう。さらに剣(彩吹とのWキャスト)が演じ分ける5つの役は、それぞれのキャラクターを通して世間の様々な顔を表現し、タカシに深い影響を与える。

5人のキャストが生き生きと息づき、出演者がわずか5人とは思えない豊かな世界を作り出した。また堀倉彰が手掛けた音楽も美しく耳に残る。作品全体を通して伝わるキラキラした輝きは、音楽の美しさが担う力も大きいだろう。

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タカシにとって社会は厳しく、時には好奇の眼差しを向けられることもある。自身のことを異星人と表現し、“ふつう”になりたかったとタカシは言うが、最後には自分は“ふつう”じゃないけれどこのままでいい、と話す。本当は、“ふつう”というのは人それぞれなのだ。それを自然のものとして受け入れる気持ちを一人一人が持つと、世界はより豊かに、美しく色づいていくのだと気づかせてくれる、珠玉のミュージカル。きっとこのミュージカルを観終わったあとあなたも、周りの人に優しく接したいと思うはずだ。

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以下、作・演出の小林と出演者からのコメントを紹介。

◆小林香(作・演出)
「どんな個性を持った人間として生まれてきても、そのままの自分で、しっかり生きる」ことに背中を押してあげられる作品を作りたい、というかねてより抱いていた思いを形にし、昨年誕生した『Indigo Tomato』。再演では、初演よりさらに登場人物たちの心の機微を深く表現しようと稽古を重ねてきました。初演から参加してくれているキャストも新しいキャストも、みんなが心をこめて生き生きとこの世界に入り込んでくれています。みんなのひたむきな思いが結実した新生『Indigo Tomato』を早く全国の皆様にお届けしたい気持ちでいっぱいです。
私は日本発のオリジナルミュージカルを作り続けていきたいと思っています。昨年、たくさんの人の力を結集して作った本作がまたこうやって上演出来たこと、そしてより花開いたと思えるものになったことを嬉しく思います。初日、いわきの地でたくさんの皆様にご覧いただきましたことに感謝し、さらにこの作品が生き続けていければいいなと願っています。

◆平間壮一(タカシ役)
昨年の初演は本当にガムシャラにやりましたし、自分が主演で大丈夫かというような不安もあり、自分にとっても挑戦でした。再演である今回はまたさらに、みんながこの作品をよく知っている分、それを一つにまとめる難しさもあり、苦しみもたくさんありました。でもそれを乗り越えた先には、初演で感じた以上の楽しさがある。再演っておもしろいですね。
タカシは自閉症スペクトラムの障害を持つ青年ですが、自分自身、タカシに色々と勉強させられています。普段、平間壮一が生活していて、自分は一人で平気だと思ったり、人に対してツンケンしちゃったりするような時に『Indigo Tomato』を思い出すと、視界が広がるし、周りにはいつも人がいるんだって気づきます。人は苦しいこと、辛いこと、面倒くさいことから逃げがちになる。でも逃げるとそこで、世界と関わらなくなっちゃうんですよね。そういう時に『Indigo Tomato』を思い出すと、ちょっと世界を広げられます。
いわきからスタートしたこの公演、これからいろいろな場所に行きます。観にいこうかなと迷っている人は絶対来てほしいです(笑)。舞台を観に行くってことは、手間も時間もかかること。でもこの作品のキャスト・スタッフは全員、お客様がそういう思いで観に来てくださっているということを本当に分かっている人たちばかりです。みんな毎公演毎公演、全力でやっていますので、ぜひ劇場に来てほしいです。
そういえば再演では、覚える円周率の桁数が倍近くに増えました。でも、覚えました(笑)。キツかったけれど。そこが再演で特に変わったところ・・・というわけではないですが、本当により深く、それぞれの登場人物の人生の幅が広がって、違う作品になっています!

◆長江崚行(マモル役)
僕は『Indigo Tomato』には初参加で、新鮮な気持ちで取り組んできましたが、再演の方も多いカンパニーです。皆さんが一度作ったものを新しく作り直す作業を近くで見つつ、自分は素直な状態で挑む。作品を知っている方たちだからこその大変な思いとまっさらな僕らの思いが入り混じって、再演というもののおもしろさをとても感じながら稽古を重ねてきました。
僕が演じるマモルはとても愛情深い人だと思います。兄貴のそばにずっといるというのはなかなかのこと。でも兄に恩もあるし、たったひとりの家族なので失いたくないのだろうし、一緒にいるのが当たり前だし、何よりこの人と一緒に生きていたいという気持ちがあるんだと思う。それはすごく大きな愛情。その気持ちを大事にしたいです。なおかつ、等身大の人物ですので、お客様はマモルの目線で追いかけるシーンも多いはず。一番地に足をつけた存在でいたいです。
この作品は、優しさも大変さもちゃんとあるのがいいですね。しんどさもあるけれど、それを乗り越えて前に進んで生きていこうというパワーがある。楽しいだけじゃ気持ちが滑ってしまう、しんどいだけだと前に進むパワーがなくなる。両方の気持ちを感じられる作品だし、お客様にもそれは届くと信じています。今年は台風をはじめ自然災害で大変な思いをされた方もいらっしゃると思います。もしかしたらその影響で『Indigo Tomato』に観にこれなくなった方もいらっしゃるかもしれません。でも、めぐりめぐって、そういう方にも愛を届けられるような作品だと思うので、ぜひたくさんの方に観に来てほしいです。

◆剣幸(高野先生、葉子、好子、ほか)
再演をさせていただけるというのは、役者にとって本当に嬉しいことなんです。演じたものに対して役者は必ず「こうすればよかった、ああすればよかった」っていう思いは抱くもの。特にこの作品、私は5つの役を演じることもあり、去年はバタバタでした。ただその突っ走るパワーで生まれた良さもあったとは思いますが、今回は改めて5つの役をそれぞれ掘り下げて、新たに発見したことも多いです。タカシくんのピュアな心に、5つの役がどう突き刺さるのか。寄り添うのか突き飛ばすのか忘れられない棘になるのか。それをクリアに表現できたらいいなと思います。
初演は非常によい評判をいただいたと聞いています。やっぱりタカシくんのピュアさが、皆さんの心に響いたんじゃないでしょうか。人って「誰より優位だ、誰より劣ってる」って他人と比較しながら暮らしていると思うんですが、タカシくんにはそれがまったくない。他人と自分がどうだ、っていうのとは違う世界で生きている。それが普通とは違うと言われてしまうところですが、本当はみんながみんな“人とは違う”んですよね。この作品を通して世の中を見つめ直すいい機会にもなると思いますし、皆さんにもそういう温かい気持ちになっていただけたら嬉しいです。

◆彩吹真央(高野先生、葉子、好子、ほか)
1年半ぶりの再演です。“再演あるある”なのですが、続演の人たちはお互いよく知っているところが邪魔をしてしまうというという悩みからスタートしました。自分たちとしては自覚がなくとも、慣れている部分が匂ってしまう、それがダメだと演出の小林香さんからも指摘されて。この物語は、そこまで解りあっていない人たちが最終的に素敵な関係を作り上げていくということが描かれています。どのシーンも新鮮にクリアに「0」という数字から始まるというところをしっかり感じながら稽古をしました。だから新しく入ったお二人のキャストの存在もありがたかったですね。しかも長江くんも、川久保くんも、その役らしいカラーを鮮明に持っている方ですので、刺激されました。また、小林さんが再演に際してお芝居の部分を深めていこうと明確に打ち出してくれていました。ミュージカルって、やはり歌やダンスなど、やらなきゃいけないことが多い。でもお芝居の部分こそ大切にしようとおっしゃっていたし、私たちももちろんそうあろうという思いでやってきました。より一層見応えのあるミュージカルに育ったと思っています。
初演の時に観た方から「5人しかキャストが出ていなかったんだ」という感想をいただきました。それだけカラフルな舞台になっているんだと思いましたし、お客さまも5人が放つカラーや温度を感じてくださったからこそ、そういう感想をいただけたのかなと思います。その中で私と剣さんはマルチな役どころを担当させてもらい、中には結構辛辣な役もあります。でも辛さや苦しみがあるからこそ、明るさや楽しさがより輝く。苦しい部分があるからこそ、温かいものはもっと温かく感じられる。タカシという青年が抱えているものは辛さもある、でもだからこそ普通の人が見えない世界を彼は見ることができる。
もしかしたら他愛ないことなのかもしれませんが、それが壮大な世界観に広がる素晴らしさを感じていただける作品になっていると思います。ご覧いただいた方にも、今まで気にしていなかったこと、あまり目の中に入ってこなかったことが目に入る、そんな驚きを感じていただければ嬉しいです。

Coloring Musical『Indigo Tomato』は、以下の日程で上演。上演時間は、約1時間55分(休憩なし)を予定。

【福島公演(プレビュー)】11月10日(日)~11月11日(月) いわきアリオス小劇場(終了)
【札幌公演】11月14日(木)・11月15日(金) 札幌市教育文化会館大ホール
【大阪公演】11月19日(火)~11月21日(木)/会場:東大阪市文化創造館小ホール
【福岡公演】11月26日(火) 福岡ももちパレスホール
【石川公演】11月29日(金) 北國新聞赤羽ホール
【東京公演】12月4日(水)~12月10日(火) 会場:東京グローブ座

【公式サイト】 https://indigo-tomato.com/
【公式Twitter】 @indigo_tomato

(取材・文/山岡祥、撮影/二石友希)

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