北山宏光主演、仮想空間での犯罪を追うSFサスペンス舞台『THE NETHER(ネザー)』開幕


北山宏光(Kis-My-Ft2)の出演する舞台『THE NETHER(ネザー)』が11月2日(土)まで東京グローブ座にて上演される。舞台はインターネットが発達した近未来。人々が“ネザー / NETHER”と呼ばれる仮想空間で膨大な時間を過ごすようになった世界で起きる、犯罪をめぐるSFサスペンスだ。出演は、中村梅雀、シライケイタ、平田満、長谷川凛音/植原星空(Wキャスト)、演出はグローブ座で『グリーンマイル』などを手がけた瀬戸山美咲。

物語はおもに、二つの空間を行き来する。一つはインターネット上の犯罪を取り締まる捜査官・モリス(北山宏光)の尋問室。もう一つは仮想空間のなかにあるエリア『ハイダウェイ』だ。

モリスは、『ハイダウェイ』が問題のある空間ではないかと睨んでいる。『ハイダウェイ』では、子どもとの性行為が提供されているのではないか、という疑惑があるのだ。そのため、『ハイダウェイ』を管理しているシムズ(平田満)と、顧客のドイル(中村梅雀)をそれぞれ尋問していく。

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淡々とレポートを読み上げ、事実確認をしていくモリス。それに対し、シムズは冷静に答えていく。『ハイダウェイ』の正当性に自信を持っているシムズ。なにか含みを持っているに違いないのに、論理的に反論したり、ときに憤慨したりして、モリスをかわしていく平田の佇まいが恐ろしい。モリスも自分のペースを崩さず食らいついていく。相手がどのくらい情報を持っているのか、どうすれば言葉を引き出すことができるか・・・静かなやりとりの中に、意識下の攻防戦が見え隠れする。

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ドイルには、悲壮感が漂う。「なにも知らない!」。ただのハイダウェイの顧客だったというドイルは、モリスの知りたかったことはなにも知らないと言い張る。しかし尋問をすすめるうちに、ドイル個人の欲望や『ハイダウェイ』への望みが明らかになってくる。・・・物語のすべてを知ってからドイルのなにげない言葉を振り返ると、まったく違う意味に聞こえてくるだろう。

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尋問室は、暗い。シムズを尋問する時は黒の背景に青のラインが入り、ドイルを尋問する時には赤のラインが入るので、それぞれが違う空間だということがわかる。そのなかでテーブルを中心に向かい合う様子は、よく刑事ドラマで見る取調室のそれだ。

モリスは白く光るタブレットを持ち、そこに欠かれたレポートを読み上げていく。黒い部屋にラインが浮かびあがり、タブレットが光る様は、この世界の近未来感を強くする。

けれども同時に、この味気ない電子記号でできたような空間も、デジタルな仮想空間の中のようにも見えてくる。現実と、仮想空間・・・どちらがより現実なのか・・・。観客も、登場人物さえも、どちらに生の実感がともなっているかわからなくなっていく。

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一方『ハイダウェイ』には具体的なモノがたくさんある。19世紀のヴィクトリア朝を再現した世界観なので、装飾の多いベッドや鏡台や椅子が置かれている。また『ハイダウェイ』の中では人々は貴族のような服装だ。現実と切り離され、リアルな非日常に没頭することができる。

とはいえ、これはすべて仮想空間。私たちの現実ではこれほど精巧なインターネット仮想空間は実現していないけれど、映画やゲームのデジタル技術やVRの急激な発展を見ていると、いずれ実現できそうな気がする。北山も会見で「近い将来、本当にありえるんじゃないかっていうものを、舞台で表現させていただいています」と言ったが、その言葉が現実感をおびる。

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その『ハイダウェイ』に、モリスは潜入捜査官・ウッドナット(シライケイタ)を送り込んでいた。ウッドナットはそこでアイリス (長谷川凜音/植原星空)という美しい少女と出会う。

アイリスは、ウッドナットに居心地のよい空間を提供する。ハイダウェイに来た人はリピーターになる、とシムズは自信を持っている。そのとおりにウッドナットはハイダウェイの虜になっていく。

捜査は「子どもとの性行為が提供されているのではないか?」との疑惑からはじまった。しかし潜入捜査官のウッドナットも惹かれていくハイダウェイは、なぜこんなに居心地が良いんだろう・・・。物語は、人間の尊厳や欲望へと深くもぐっていく。その先には、生とはなにか? 死とはなにか? という問いも見え隠れする。

いったい『ハイダウェイ』は本当に危険なものなのか。『ハイダウェイ』の仕組みが明らかになるにつれ、本作のテーマでもある“人の欲望の暴走”と“倫理の危うさ”を今一度考えさせられる。

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もともと、北山の演じるモリス捜査官は女性が演じている。脚本はアメリカのジェニファー・ヘイリーによって書かれ、2015年のローレンス・オリヴィエ賞で作品賞を含む4部門にノミネートされたものだ。主人公が女性であることで演劇的な効果があったのだなとは、後半の展開から想像できる。けれど、今回はモリスを男性にしているので、おそらくアメリカでの上演とは物語の焦点の当て方をしているのだろう。

「男性vs.女性の構図に捉われない、人間と人間の物語として再構築します」という触れ込みどおり、登場人物の性別という概念をとっぱらって、『人間の欲望とはなにか』『人間の存在とはなにか』『なにが正しくて、なにが幸せなのか』を考えてみたい。そうするとこの作品が、いかに人間の普遍的な本質をえぐろうとしたものなのかが真に迫ってくる。

仮想空間の自分は、ちゃんと存在しているのか。現実世界で息をしていても、生きていると言えるのだろうか……。考えるほどに、「生きるってなんなのかな」と心もとなくなってしまう。それは、もしこれから現実と区別がつかなくなるほどリアルな仮想空間がわたしたちの日常になった時に、直面する戸惑いなのかもしれない。

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北山は見どころについて「モリスがどう耐えて変化していくか」「モリスがどう揺れ動いていくか」と語った。二つの空間を行き来し、時系列も入れ替わる作品なので、ひとりの人間の変化を表現するのはとても緻密な計算と表現力が必要だ。すべて観終わったあと、物語の全容がつかめてはじめて、北山ら俳優たちの細やかな変化や表現にあらためて気づき「ああ、そうだったのか・・・」と胸が苦しくなるだろう。

『THE NETHER』は、以下の日程で上演される。上演時間は約1時間55分(休憩なし)。

【東京公演】2019年10月11日(金)~11月2日(土) 東京グローブ座
【大阪公演】2019年11月7日(木)~11月10日(日) 森ノ宮ピロティホール

(取材・文・撮影/河野桃子)

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