新生・乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』セーラー戦士と現役アイドルの重なる姿


2020年10月10日(木)から10月14日(月・祝)まで東京・TOKYO DOME CITY HALLにて乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』2019が上演された。本作は、2018年6・9月に行われた公演の再演として、新たなセーラー戦士キャストを迎えて上演。演じるのは、久保史緒里・向井葉月・早川聖来・伊藤純奈・田村真佑の5名。台風の影響などがあるなか、個性豊かにメイクアップした5戦士たちが華麗に踊り、戦った。

「美少女戦士セーラームーン」は、少女漫画雑誌「なかよし」(講談社)で1992年から1997年まで連載された武内直子の大人気漫画。「幽☆遊☆白書」や「スラムダンク」と同時期に、少女漫画として圧倒的な人気を誇り、海外でも多くのファンを得ている。筆者も、子どもの頃は漫画もアニメも夢中になり、今でも「ムーンライト伝説」を聞くだけで泣けるくらい好きだが、その期待を越えてくるほどぴったりなキャスティングのミュージカルに仕上がっていた。

013217_3.jpg

主人公の月野うさぎ(セーラームーン)を演じるのは、久保。ちょっとドジで泣き虫で、勉強は大の苦手。でもいつも笑顔で明るくて、元気いっぱいの中学2年生。まさに少女漫画王道のドジッ子ヒロインだ。久保は「心を開くのに時間がかかった」と稽古の苦労を振り返ったが、舞台上では無邪気で素直なうさぎを好演。本人の真面目さも滲み出ているのだろう。天真爛漫なことが無神経にならず、太陽みたいに眩しすぎず・・・みんなを癒す明るさは、まさに月の姫。

013217_2.jpg

物語は、東京のある街。何か事件が起こると、セーラー服の少女が現れて解決してくれると噂になっていた。うさぎはある日、人間の言葉を話す黒猫のルナと出会う。「うさぎちゃん!」とルナに促され、うさぎは会いと正義のセーラー服美少女戦士セーラームーンに変身!妖魔と戦いながら、仲間を集め、“幻の銀水晶”とプリンセスを探し出して護る使命を抱えている。

013217_4.jpg

うさぎが最初に出会った仲間は、IQ300の天才少女・水野亜美。頭が良すぎるために一人きりだった亜美に、物怖じせず話しかけるうさぎ。最初は「一緒に遊びに行こう!」と誘ううさぎに戸惑うものの、セーラーマーキュリーとして目覚めていく。演じる向井は「これまで(の舞台は)自由にやりたいようにやってきた」と言いつつ、控えめな亜美ちゃんらしさを見せる。そして、向井の持つ明るさや芯の強さも感じられ、水のような滑らかさと心地よさを持つ美少女戦士となっていた。

013217_5.jpg

セーラーマーズこと火野レイ役は、早川。気が強く、巫女としての使命感を持つレイを情熱的に演じる。早川は「大きな舞台は初めて」と緊張の様子を見せていたが、舞台では堂々と九字護身法を唱え、妖魔と闘う。強すぎる霊感を持つために孤高の存在のような凛とした佇まいだが、うさぎは無邪気にレイを褒める。レイの纏う空気が緩み、うさぎに心を開いていく雰囲気を舞台から感じられた。

013217_6.jpg

セーラー戦士5人を演じる乃木坂メンバーの中では一番の先輩である伊藤は、セーラージュピター/木野まことを演じる。怪力で、言葉遣いも荒いまことは、一匹狼のような一面を持った少女。けれども姉御肌で面倒見がよく、人をすぐ信頼する素直さも持っている。5人の中での一番の長身を活かし、強くて頼りがいがあるまこととなっていた。しかも男らしいのではない。ダンスや目線からは色気を醸し出し、大人びていて、女の子が憧れる姉御感がある。舞台裏でもそのようで、伊藤は「急に、パターンの違う4人の妹ができたみたい。楽屋もわちゃわちゃ(笑)」と苦笑いながらも楽しそうだ。

013217_7.jpg

013217_9.jpg

そして、セーラームーンよりも先に活動していたセーラーヴィーナス/愛野美奈子役は田村。経験の差もあってセーラー5戦士のなかではリーダー的なポジションにあたり、田村も「リーダー感を出すのが大変だった」そう。会見などで5人並んでいる姿からは、妹的な感じがあったが、舞台に立つと一転。自信と安定感溢れるヴィーナスとして闘う。うさぎが「憧れてたの!」と目を輝かせるのも納得だ。

演出のウォーリー木下は「キラキラして女の子が憧れる戦士を、現役のアイドルがやる。そこに二重、三重の楽しみがある」と言う。その言葉どおり、個性の違う5戦士達がキラキラとした輝きに見惚れているうち、上演3時間という時があっと言う間に過ぎてしまう。

013217_12.jpg

しかし観る人の心を奪う物語の大きなポイントが、もう一つあった。それは、月野うさぎとタキシード仮面/地場衛との関係だ。恋人になる二人。衛は名前のとおり、うさぎを「まもる」ために命を賭けて闘う。ふだんは成績優秀なエリート高校に通っていて、キザで容姿端麗で、よくモテる。お姫様を守る王子様・・・かと思いきや、セーラームーンは「戦士」なのだ。

ドジで、泣き虫で、勉強ができないうさぎちゃん。けれども彼女は闘わなければならない。「もうやだ!」「もうだめだ!」と何度泣き声をあげても、仲間や恋人に守られても、彼女は闘わなければならないのだ。そんなうさぎをただ護るだけでなく、勇気と力を与えて立ち上がらせるタキシード仮面。対等であり、お互いを高め合う恋人関係は、きちんとうさぎという存在を肯定し、尊重している。だからタキシード仮面は女の子の味方であり、人気があるキャラクターだ。その強さと優しさを、石井美絵子は柔らかく演じている。

013217_11.jpg

うさぎはドジで泣き虫だけど、卑屈になることなく、素直に前向きで、どんな人のこともすべて受け入れ、正面からその心に飛び込んで笑いかける。うさぎの笑顔を中心に、みんながひとつになっていく。その一方で、“幻の銀水晶”を狙うクイン・ベリルの孤独もまた引き立つ。仲間と信頼し合い、愛し支え合う5人。その真逆の存在であるクイン・ベリルを演じる玉置成実は、悪の象徴としてだけでなく悲しさも背負って歌う。

013217_14.jpg

ミュージカルということもあり、全体はテンポ良く進んでいく。そのなかでもクイン・ベリルに仕える四天王(安藤千尋、小嶋紗里、Shin、武田莉奈)それぞれの見せ場では、個性が立つ。そして彼らにも、背負うものがあることが分かってくるにつれ、セーラー戦士たちとの対比が浮き彫りになる。物語構成がシンプルゆえ、彼らの抱える迷いや信念にも強く共感できる。

013217_8.jpg

またうさぎの友達の大阪なる(山内優花)と海野ぐりお(田上真里奈)の出番は、心地よい息抜きだ。まっすぐで可愛らしく、出てくるとほっと頬がゆるむ。うさぎが普段どんなに素敵な友達に囲まれて生活しているか、よく分かる二人だ。

013217_10.jpg

また、乃木坂46メンバーの白石麻衣が、セーラームーンの前世の母親“クイーン・セレニティ”として再び映像出演しているのも、前公演からのファンには嬉しいだろう。

諦めても、絶望しても、仲間がいるからがんばれる。そのセーラー戦士たちの姿は、乃木坂46の彼女たちの姿とも重なる。5人をずっと側で見ていた石井は、会見でこう語っていた。「乃木坂46であることをすごく大切にしながら、乃木坂46以上にやらなきゃいけないと、史緒里を筆頭に。こんなに本番が楽しみなのは初めて」と、5人を見て微笑む。

013217_13.jpg

応援したい、そして、どうしても好きになってしまう。そんなまっすぐな輝く力が、セーラー5戦士にも、乃木坂46にもある。舞台上で、大変なことにも困難なことにも笑顔で明るく挑戦する彼女たちの姿は、90年代を風靡した「美少女戦士セーラームーン」そのもののようだった。

013217_15.jpg

なお、本作は11月22日(金)から11月24日(日)に上海美琪大戯院(MAJESTIC THEATRE)にて海外公演を行うことが決定している。Blu-ray&DVDは、2020年4月11日(土)に発売。

◆乃木坂46版 ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』2019Blu-ray&DVD
【発売日】2020年4月11日(土)
【価格】Blu-ray:7,800円+税、DVD:6,800円+税
【収録内容】本編1枚+特典映像1枚
【会場予約限定特典】舞台写真使用クリアファイル2枚セット
【特典映像(予定)】稽古場風景&バックステージ映像、キャストカメラ、推し戦士カメラ、セーラー5 戦士座談会

(C)武内直子・PNP/乃木坂46版 ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」製作委員会 2019

(取材・文・撮影/河野桃子)

 

チケットぴあ
最新情報をチェックしよう!
テキストのコピーはできません。