石田隼、「不老不死男」の“生”と向き合う『宇宙でクロール・令』レポート


2019年10月3日(木)に東京・神保町花月にて上演されている『宇宙でクロール・令』。本作は、不老不死の病の疑いがある男と、心臓が一定回数動くと死に至る病(通称:時限爆弾病)を患い余命半年となった男、正反対の状況に置かれた二人が出会い「生きよう」とする物語。演出は、こゆび侍の成島秀和が手掛けている。主演の石田隼は、本作で演じる役を「今まで演じたことがないような役」と語っていた。それを実現するには、相応の負荷と努力が必要になる。小さな空間に、石田の役者として「生きよう」とする気概が満ちていた。

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このほか、金成公信(ギンナナ)、ピクニック、光永、松本勇馬(スカイサーキット)、小名木健、天龍、川端武志(コロウカン)、久川みみ子、福永成一郎、ミカちん、倉田あみが出演。一風変わった座組が織りなす物語を、舞台写真と共に紹介する。

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不老不死の病という疑惑を持つ男、羽田(石田)は、離島の病院で研究に協力しながらも、永遠の長さにうんざりしていた。その病院を訪れようとするもう一人の男。村上(ギンナナ金成)というその男は、心臓が一定回数動くと死に至る病(通称:時限爆弾病)を患っており、余命半年と宣告されていた。村上が店長を務める居酒屋のアルバイト・ことみ(光永)は、村上に好意を寄せており心配して付き添おうとするが、突き放される。同じアルバイトの飯島(コロウカン川端)は、ことみに邪険にされても好きだと愛を叫び続けていた。

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病院は、変な人ばかり。医者の豊田(ピクニック)は愛を求め続けているし、看護師の愛子(倉田)は何だか言動がおかしい。男性看護師の加藤(天龍兵藤)は男尊女卑が行き過ぎて時代に取り残されている。患者も、子どものように暴言を吐きまくる瀬川(スカイサーキット松本)、右手が痛い格闘家の今泉(小名木)と、みんな身体以上にどこか病んでいる人たちばかりだ。何かと騒がしいが、羽田はコミュニケーションのすべてを遠ざけていた。

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あるきっかけで、村上は羽田に話しかける。「役に立ちたい」という村上を「俺にかまうな」と拒絶する羽田。村上は、命の期限がありながら毎日が楽しいと言う。一方で「やろうと思えばいつでもできる」と閉ざし続ける羽田。村上は、ついに「ただ生きているだけじゃないか。それだけ生きていて、何もしていないってどういうことだ」「俺と勝負しろ」と感情をぶつけた。勝負の中で、見えてくる本音。
「ドキドキさせてくれよ」
正反対の二人の男。人生のその先は――。

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この戯曲は冨田雄大(オコチャ)が2009年に書いた『宇宙でクロール』をリライトしたもの。このリライトには、今回の出演者たちの影響が大きかったという。もともとは、石田が「余命半年男」、金成が「不老不死の男」となる予定だった。しかし、稽古の過程で逆の方が良いとなり、今回の登場人物たちが出来上がったそうだ。見ていて、これが大変良い判断だったように感じた。

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石田は、とても丁寧で器用な役者だと思う。もともとの設定でもきっと良い芝居を見せてくれただろうが、「不老不死」と「生」というねじれが生む複雑な感情や虚無感と格闘させることで、石田の「今までにない」が存分に引き出されていた。呼吸一つも、瞳が潤みだす瞬間も、すべて自分の目で捉えられる小劇場でもっと見てみたい俳優の一人である。

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また、金成をはじめとするお笑い芸人陣が作り出す独特のテンポも、本作を構成する中で重要な要素。吉本坂46としても活動する光永のダンスなども取り入れられ、要所要所でエンターテインメント性を打ち出し、物語にメリハリをつけていた。

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とても個人的で壮大な物語に散りばめられた台詞の数々が、令和という新しい時代に突入した「今」に響く。『宇宙でクロール・令』は、10月6日(日)まで東京・神保町花月にて。上演時間は、約2時間を予定。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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