伝説的戯曲を長塚圭史が演出『常陸坊海尊』に白石加代子、中村ゆり、平埜生成ら


長塚圭史の演出で上演されるKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『常陸坊海尊』の全キャストが明らかになった。白石加代子、中村ゆり、平埜生成、尾上寛之、長谷川朝晴、高木稟、大石継太、大森博史、平原慎太郎、真那胡敬二らが出演する。

2011年の開館以来、多くのプロデュース作品や招聘作品の上演、フェスティバルの開館など“創造型劇場”として個性的な企画を打ち出してきたKAAT神奈川芸術劇場は、2016年4月に就任した白井晃芸術監督に加え、2019年4月に長塚を芸術参与に迎えた。本作は、長塚が芸術参与となって初めて同劇場で手掛ける演出作品となる。

『常陸坊海尊』は、『近松心中物語』などで知られる劇作家・秋元松代の最高傑作と言われる戯曲。日本にオリンピック大会が初めて招致された昭和39年(1964年)発表当時、日本の演劇界に衝撃を与えた伝説的作品だ。長塚は、本作について「これは現在の私たちの社会に痛烈に響く現代劇です。そして私たちの踏みしめるこの大地に流れる血脈を知ることの出来る覚醒劇でもあります」と語っている。

常陸坊海尊とは、源義経の忠臣として武蔵坊弁慶らと共に都落ちに同行し、義経最期の場所である奥州平泉での衣川の戦いを目前に主を見捨てて逃亡して生き延び、その後、不老不死の身となり源平合戦の次第を人々に語り聞かせたと言われる伝説の人物。歌舞伎『勧進帳』にも登場している。本作では、荒唐無稽ともいえる東北の仙人伝説を背景に、戦中戦後の学童疎開と、人間の“生”や“性”、そして格差や差別といった問題を描く。

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【あらすじ】
東京から疎開に来た啓太と豊は、ある日雪乃という美しい少女に出会う。常陸坊海尊の妻と名乗るおばばと暮らしている雪乃に二人は海尊のミイラを見せられる。烈しくなる戦争で両親を失った少年たちは雪乃に魅かれていくが、啓太は母恋しさで次第におばばに母親の姿を重ねていく。
東京に戻って成人した豊は、十六年後、岬に近い格式の高い神社を訪ねる。そこには巫女をつとめる雪乃と戦後おばばたちと共に消息を絶った啓太の姿があった。
再会をなつかしむ豊は、雪乃の妖しい美しさに魂を抜かれてぬけがらとなった啓太に衝撃を受け、あざわらうかのように子守歌をうたう雪乃に魅入られていく自分の平凡な人生の、基盤がくずれていく恐怖に自失する。
取り残された啓太は、生きながら死に腐れていく自分の運命を嘆き、現れた第三の海尊に救いを求めるが、やがて自分自身が海尊となり、自らの罪を懺悔するため琵琶を抱いてさまよっていく・・・。

白石が演じるのは海尊の妻と称す巫女のおばば役。おばばの美しい孫娘でその魔性で男を翻弄する雪乃役を中村。東京からの疎開児童で、おばばと雪乃とともに生活し、最後に自らが海尊となり、罪を償う懺悔の旅に発つ安田啓太役を平埜。啓太とともに疎開し、後にサラリーマンとなって啓太を訪ねる伊藤豊役を尾上。東京から疎開に来た小学校教師役を長谷川、疎開者たちを預かる旅館の主人・寿屋役を高木、白石演じるおばばにつきまとう山伏・登仙坊玄卓役を大石が、それぞれ演じる。

そして、本作のタイトルでもある伝説の人物・常陸坊海尊は、劇中、3人の異なる海尊として登場する。第一の海尊と第三の海尊には大森博史と真那胡敬二。第二の海尊には、コンテンポラリーダンスのダンサー・振付家として国内外で活動する平原慎太郎。平原はこのほかムーブメントも担当する。

さらに、音楽は田中知之が担当。自身のソロプロジェクトFPM(Fantastic Plastic Machine/ファンタスティック・プラスチック・マシーン)をはじめ、DJ、プロデューサーとして活躍する田中が、長塚演出作品初参加で舞台音楽を手掛ける。

発表にあたり、長塚(演出)、白石、田中(演出)、そして特別に平埜がコメントを寄せてくれた。

◆長塚圭史(演出)
秋元松代最高傑作とも言われる『常陸坊海尊』を演出することになってしまいました。しまいましたというのは極めて困難な道程になることは明白だからです。生半可な劇ではないのです。しかしこの険しい道の先にはきっと眩い光があるという確信が私を突き動かします。これは現在の私たちの社会に痛烈に響く現代劇です。そして私たちの踏みしめるこの大地に流れる血脈を知ることの出来る覚醒劇でもあります。絶頂を目指して濃厚なスタッフ・キャストと共に邁進して行きたいと思います。

◆白石加代子(おばば役)
長塚圭史さんの作品への独特なアプローチをわたしは「探検」と呼ぶことにしています。お稽古場はさながら深い森のようで、出口を探し、スタッフ・俳優一丸となって藪をかき分けて一歩一歩進んでいく、つまり探検隊です。
しかも長塚さんは安易な道がお嫌い(笑)。
『常陸坊海尊』はさらに巨大な森です。
何度かご一緒したわたしに分かることは、一筋縄ではいかないこの作品が長塚圭史さんを探しあて、身を委ねたのだと思います。
わたしもしっかりついていき、一緒に探検を楽しみたいと思っています。

◆田中知之(音楽)
長塚圭史くんから、直々に音楽の依頼を受けて、断る理由なんてあるはずがない。
実はまだ企画の概要を聞いて戯曲を受け取り、軽くそれを読んだだけで、何ら具体的なディレクションを受けたわけでもない。なのに私の中で壮大な妄想が膨らんで、巨大な怪物が生まれようとしている。私はまだ指一本動かしていないし、鼻唄の一節さえ諳んじていないのだが、この怪物がさぞかし良い仕事をしてくれるだろうという期待しかない。

◆平原慎太郎(ムーブメント/第二の海尊役)
常陸坊海尊を題材にと長塚氏からお話しがあり、その戯曲を読み一気に引き込まれました。で、ふと物語の中の身体を考えた時に「永遠を生きる身体」とはどういったものかと立ち止まりました。皮膚の動き、呼気の状態、体重を感じさせないだろう所作など、全てが現実のそれとは逸しているのではないか。さらにそれを取り巻く環境とは――。自然も人も今より生きていた時代のお話と察します。その「生きる肉体」にしっかりフォーカスを当てて長塚氏の世界観と物語を彩る一部になればという風に思います。妖にこそ肉体が付随するということを信じて。

◆平埜生成
秋元松代戯曲に挑むことが出来ることを本当に幸せに思います。そして中でも最高傑作と言われる『常陸坊海尊』。出演するにあたり、今の自分にはこの作品を受け止める度量がないのではないかと思った時もありました。そのくらい圧倒的な日本人のエネルギーが詰まっていると感じているからです。しかし、長塚圭史さんと初めてお会いし、演劇は自由で、何人も受け入れてくれる大きな受け皿であることを言われたような気がして、裸一貫で飛び込む決意をしました。精一杯がんばりますので、ぜひ、観にいらしてください!!!

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『常陸坊海尊』は、以下の日程で上演される。

【横浜公演】2019年12月11日(水)~12月22日(日) KAAT神奈川芸術劇場 <ホール>
※2019年12月7日(土)・12月8日(日)にプレビュー公演あり
※チケット発売日:2019年10月5日(土)

【兵庫公演】2020年1月11日(土)・1月12日(日)12:00 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
【岩手公演】2020年1月16日(木) 岩手県民会館 大ホール
【新潟公演】2020年1月25日(土) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

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