宮崎駿オリジナル作品『最貧前線』内野聖陽、風間俊介、溝端淳平らで舞台化


2019年8月27日(火)より神奈川・神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールにて、『最貧前線』~「宮崎駿の雑想ノート」より~が開幕した。水戸芸術館開館30周年記念事業の一つとして、水戸芸術館ACM劇場プロデュースとなる本作は、宮崎駿のオリジナル作品として国内初の舞台化となる。

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『宮崎駿の雑想ノート』は、宮崎駿が模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」にて1980~1990年代に不定期連載していたもので、戦争の中で兵器と人間が織りなすドラマを描いた連作絵物語&漫画作品となっており、そこから長編アニメ『紅の豚』も誕生している。

その中の11番目の物語となる『最貧前線』は、太平洋戦争末期の事実をもとに、わずか5ページながら、ユーモアとスペクタクルを合わせ持った内容の中に、平和への重いメッセージが込められた作品となっており、南方の海の最前線海域に監視艇として派遣されることとなった、小さな漁船に乗り込んだ軍人たちと漁師たちの人間ドラマが描かれている。

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日本海軍に徴用される漁船・吉祥丸の船長を主演として演じるのは内野聖陽。徴用された吉祥丸に乗り込んでくる日本海軍の士官である艇長を風間俊介、その副官を溝端淳平が演じ、そのほかにベンガル、佐藤誓、加藤啓、蕨野友也、福山康平、浦上晟周、塩谷亮、前田旺志郎ら実力派俳優たちが名を連ねる。

脚本は2017年4月より水戸芸術館ACM劇場芸術監督に就任している井上桂、演出は、NHKエンタープライズ制作本部ドラマ番組エグゼブティブ・ディレクターで、『令嬢と召使』や『人形の家』を手掛けた一色隆司が務める。

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物語の舞台は太平洋戦争末期の日本。ほとんどの軍艦を沈められた日本海軍は、来襲するアメリカ軍の動静を探ろうと、苦肉の策として漁船・吉祥丸を特設監視艇として太平洋に送り出す。乗り込んだのは、元々の乗組員の漁師たちと海軍の兵士たち。海の最前線に送り込まれた男たちは、果たして帰って来られるのだろうか・・・。

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本作のストーリーは、原作のエピソードを踏まえ、様々な文献から当時のエピソードを掘り起し、舞台作品ならではの新たな物語展開や登場人物の性格付けが行われている。

艇長の風間、副官の溝端、漁師たちを厳しく指導する砲術長の蕨野、若き水兵の福山と浦上らが演じる軍人たちと、船長の内野、漁労長のベンガル、無線士の佐藤、機関士の塩谷、14歳の若き見習いの前田、途中から配属される賄い夫の加藤らが演じる漁師たち。過酷な海の最前線に放り込まれながら、若きエリート軍人たちと漁師たちの対立に葛藤と、やがて認め合っていく人間模様が船上で綴られる。

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内野は仲間の漁師たちを家族の待つ母港に帰そうと懸命に努力する老練でユーモアもある船長を熱く演じきり、風間は厳しく生真面目な若き士官を力演。二人の対比と白熱した演技も見どころだ。

また、溝端は死に場所を求めながらも漁師たちを思いやる儚い表情を見せれば、蕨野は海軍の規則で漁師たち厳しく律しながらも、表には出さない優しさを持つ軍人を絶妙に演じる。そしてベンガルら漁師たちも、緊迫した戦場であることを忘れさせるような温かみを感じさせる方言を駆使しながら、それぞれが個性豊かに好演している。

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加えて本作で目を引きつけられるのが、12番目の登場人物ともいうべき漁船・吉祥丸のセットだろう。断面図のような宮崎駿によるスケッチから飛び出した吉祥丸は、シチュエーションに合わせてスタッフの手により時には側面、時には正面と向きを変えて立体的に迫力ある姿と、その中で過ごす登場人物たちの生き生きとした様を見せてくれる。

さらに、スモークや映像を使用した嵐や戦闘などが臨場感たっぷりに一大スペクタクルとして舞台上で繰り広げられ、紗幕に映し出されるイラストや、そのイラストとセットの吉祥丸が重なり合う瞬間が、さらなる本作への没入感をもたらしてくれる。

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命をめぐる圧倒的なドラマを生み出した本作。過酷な環境の中で、命をとことん突き詰めた男たちが最後に手にしたものとは…。宮崎駿がこの原作に込めた平和の願いを、ぜひ劇場で体験してほしい。

水戸芸術館開館30周年記念事業『最貧前線』~「宮崎駿の雑想ノート」より~は、以下の日程で上演される。

【水戸公演】9月12日(木)~9月15日(日) 水戸芸術館ACM劇場
【東京公演】10月5日(土)~10月13日(日) 世田谷パブリックシアター
【横浜公演】8月27日(火)~8月29日(木) 神奈川県立青少年センター
【豊橋公演】9月6日(金)~9月8日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【上田公演】9月21日(土)・9月22日(日) サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)
【新潟公演】9月28日(土)・9月29日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
【兵庫公演】10月17日(木)~10月20日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【大和公演】10月26日(土)・10月27日(日) 大和市文化創造拠点 シリウス 1階芸術文化ホールメインホール

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

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