ラジオ×演劇×音楽!松居大悟とリスナーらの“ラジオ愛”が溢れる『みみばしる』レポート


2019年2月6日(水)に東京・下北沢 本多劇場にて開幕した舞台『みみばしる』。本作は、劇団ゴジゲン主宰の松居大悟とFMラジオ局J-WAVEがコラボレートするという、演劇公演としては特殊なスタイルで誕生。ラジオ番組「JUMP OVER」(J-WAVE/CROSS FM 毎週日曜23:00~23:54 ON AIR)にてオーディション告知、オーディション、稽古やスタッフ打ち合せなどを公開し、リスナーからの意見にも耳を傾け、作品を創ってきた。ラジオと演劇の垣根を越えるこのプロジェクトの模様を、レポートする。

本作の出演者は、ラジオを通じて行われたオーディションで決定。合格の基準は「ラジオを愛していること」。824名の中から選ばれた彼らは、ラジオを愛するリスナーであり、本業は、保育士、楽器屋店員、庭師、学生などさまざま。演技経験のない人も多かった。

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しかし、配役はそういった点も活かされており、保育士として働く人は保育士の役を演じたり、庭師は庭師役だったりと、役と本人がリンク。要所要所には経験ある俳優が配されていて安定感がある。俳優の仕事は「演じること」なので、何者かを演じる彼らもまた、自分の役と本人が交差していると言えるかもしれない。

全編にわたって、音楽監督・石崎ひゅーいの楽曲が流れる。ステージ上で歌うのはワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)。単なる生演奏とも、音楽劇とも、ミュージカルとも違う、ラジオ×演劇×音楽がうむ新しい舞台となっている。

劇場に入ると、ロビーにはラジオブースが設けられていた。ブース内では、作・演出の松居大悟が楽しそうにおしゃべりをしている。すでに『みみばしる』の世界だ。

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物語は、30歳になった途端、会社をクビになった妙子(本仮屋ユイカ)が、憧れの演出家・澤(ゆうたろう)の劇団の手伝いを始めるところから始まる。妙子は「自分は誰にも必要とされていないのではないか」と不安な日々を送っているが、ある日、妹の影響でラジオを聴くことに。音楽と共に、リスナーから送られてくる愚痴や悲しみを全力で励ましてくれるラジオに妙子はのめり込み、メッセージを投稿するようになるのだが・・・。

本仮屋が演じる妙子は、自己主張のできない内気な女性だが、おそらく本来の彼女が持っているだろう強気な面が役とあいまって、弱気な人物なのにしっかりと物語の芯となっていた。妙子の父親役の市川しんぺー(劇団「猫のホテル」)は思いきりと安定感で客席を沸かせる。

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物語の核となる「ラジオ局」の面々は、玉置玲央(劇団「柿喰う客」)、本折最強さとし(劇団「ゴジゲン」)、村上航(劇団「猫のホテル」)、鈴政ゲンら小劇場から商業演劇まで活躍する俳優陣が固める。また、ゆうたろうは、妙子が手伝うことになる劇団の主宰としてリーダーシップを発揮し、日高ボブ美(劇団「ロ字ック」)は力強く妙子を翻弄。

松居が主宰するゴジゲン所属の目次立樹は、植木職人役の一人として、自身の3年間の農業経験を彷彿とさせるような職人気質と見事な腹筋を披露している。

本舞台で特徴的なのは、演劇が、ラジオだけでなく音楽ともコラボレーションしていることだ。シーンの転換や、登場人物らがヒートアップする場面で、ギターがかき鳴らされる。それはまるで、映画の挿入歌のよう。監督として映画やドラマで活躍する松居の魅力が強く感じられる演出で、心が強く揺さぶられる。

叫ぶワタナベの歌が、出演者たちの心情と重なり、“挿入歌”という枠を越えてくる。まるで、ラジオで聞いた歌を気づけば口ずさんでいたように、登場人物たちの日常に歌が入りこんでくる。舞台×ラジオ×音楽の境界線を越えてくる。

“みみばしる”とは、脚本の松居による造語である。「耳から聞いた言葉で本能的に行動を起こす」という意味がこめられているという。この物語は、ラジオから流れる言葉を耳で聞き、突き動かされるように行動を起こした人々の物語だ。

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松居の作品には、いつもとんでもなく不器用で、とんでもなく一生懸命な人たちが出てくる。うまくいかないことを他人のせいにせず、自分の道を進む。それによって他人とぶつかっても、進む道がハタから見たらおかしくても、走るのをやめられない。だからたとえ間違ったことをしていても(たとえば誰かを傷つけてしまったり、自分を追いつめたり、現状の解決にならないことをしたりしても)、応援したくなる。むしろ、懸命に模索する彼らの姿に「間違ってる」なんて言えなくなる。そんな人たちを、松居は今作でも描いた。

うまくがんばれない、うまく愛せない。でも少しでも幸せになりたくて、なんとかこの場所から這い出たくて、すがるようにラジオの電源を入れる・・・そんな人たちには痛いほど共感できる物語なんだろう。けれども、ラジオに馴染みがなくてもいい。前を向きたいという思いがある人なら、きっとなにかが刺さるはず。

なぜなら、松居は稽古前から本仮屋に「反撃の狼煙をあげろ!」と何度も言ってきた。つまり「今までの自分を変えろ」・・・ということだ。そう、『みみばしる』は、それまでの自分から変化しようとする人たちの話なのだ。

オーディションで選ばれた出演者たちは、まさに変化を選んだ人たち。ラジオでオーディションを知り、応募へと一歩踏み出したことによって、ラジオの“受信者”から、舞台に立つ“発信者”へとなった。「耳から聞いた言葉で本能的に行動を起こす」=“みみばしった”から、新しい扉を開き、今、本多劇場の舞台に立っている。

今作はラジオ愛を叫びながらも、その実、少しでも前を向きたいすべての人へ送る人間讃歌だ。みみばしる人たちの姿を目の当たりにし、私たちもまた、みみばしりたくなるだろう。

舞台『みみばしる』は、2月17日(日)まで東京・本多劇場にて上演(全公演アフタートークショーあり)。その後、2月23⽇(土)・2月24 ⽇(⽇)に福岡・久留⽶座、3月1⽇(⾦)から3月3⽇(⽇)まで大阪・近鉄アート館にて公演を行う。

松居がナビゲーターを務めるJ-WAVEラジオ番組「JUMP OVER」は、毎週日曜23:00から23:54まで放送中。

【公式HP】https://mimibashiru.com/
【番組公式Twitter】@jumpover813

(取材・文/河野桃子、写真/オフィシャル提供)

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