安田章大×古田新太の意地悪でハレンチな音楽劇『マニアック』東京公演スタート「怖くないですよ」


音楽劇『マニアック』が、大阪公演を終え、2019年2月5日(火)に新国立劇場 中劇場にて東京公演の幕を開けた。本作は、青木豪の作・演出となる新作で、安田章大と古田新太の初タッグ作品。安田と古田の顔合わせは、二人のバラエティ番組での共演と、古田に演出の青木が「安田くんはどうかな」と話があったことから実現したという。

安田が演じるのは植木屋の青年、古田は病院の委員長に扮する。また、古田の娘役で安田の恋の相手役には成海璃子。ほか、堀内敬子、小松和重、山本カナコ、宮崎秋人、山崎静代、頼経明子、浅野和之らが出演している。東京公演の初日前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、安田、古田、成海、そして作・演出の青木が登壇した。

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物語の舞台は、とある町の山の上。広い庭には樹木が生い茂り鬱蒼として不気味な・・・いや、とても昭和的な佇まいの八猪(やずま)病院がある。この病院の院長・八猪不二男(古田)は、人当たりの良い柔和な人物として、近隣でも評判だった。そこへ院長の一人娘のメイ(成海)が病院に帰ってくる。ある日、病院の庭の手入れに訪れる植木屋の犬塚アキラ(安田)。ひょんなことから、アキラとメイは運命的に出会うのだった・・・!

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会見で、古田は「ラブストーリーの予定だったんですけど“ラブ”がなくなってただの“ストーリー”になっちゃった。青春ストーリーです」と明かす。安田も頷き「ガラッと変わったので“ラブ”をどっかに落としてきたな?と(笑)。でも、どこかにはあるので、こういう形の青春ラブストーリーもあるのでは」、成海も「最初の台本からけっこう役柄が変わりました」と振り返った。

確かに“ラブ”の要素はある。そして、安田と成海の懸命で誠実な演技が“青春”の色合いを濃くする。さらには、生演奏で歌あり踊ありと、明るく華やかなエンターテイメント作品だ。

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一方で、ダークでシニカルな面も。古田と青木が「意地悪で不道徳、さらにハレンチな音楽劇を」試みたということで、下ネタやバイオレンス、エグめのエピソードも盛り込んでいる。

安田は、さえないバツイチの植木屋をまっすぐに演じる。相手の台詞を受け、素直に返す演技には、熱く真面目な芯がある。作品キャッチコピーの「灼熱の青春音楽劇」という言葉は、安田あってこそだろう。

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古田は「(関ジャニ∞の中で)安田くんはバランサー。あとの人たちは変わった人が多いので」と分析しており、確かに安田からは、全体を見て行動するバランスの良さが垣間見える。と同時に、情熱的な歌には、感受性の強さと秘めた闘争心も感じられ、静と動を両立させているところもバランサーと言えるかもしれない。

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院長役の古田は「くだらないオリジナルの音楽劇を作りたい」と言っていたが、そのくだらなさを存分に楽しんでいる様子。誰かを翻弄したり、ばかばかしい台詞を言う時の楽しそうな顔は、舞台で遊ぶいたずらっ子のようだ。会見でも、安田から「(古田は)日用品やコースターやマドラーを『めっちゃかわいいで〜』ってプレゼントしてくれるんです。かわいいんですよ、目をつけるものが」というエピソードを紹介されると、お茶目な顔で「かわいいもの大好きなんですよ!」と即答。マスコミの反応を見渡す表情も楽しげだった。

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成海は、そんな古田演じる父親に溺愛される娘役。真面目でどこか悲壮感のある女性だが、歌シーンでの弾けっぷりとのギャップは見どころだ。成海は「歌うこと自体が始めてだったのでちょっと緊張していたんですが、楽しいです」とのこと。「音楽劇と言うことで、楽曲もすごく素晴らしいです」と、生演奏に乗って思いきり歌い躍っている。

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歌のシーンには青木のこだわりも強く、髪型、衣裳、また台詞にも、人気ミュージカルや80年代音楽の小ネタが満載。さりげなく解説を入れた分かりやすいものから、コアなファンが「もしかして・・・?」と気づいて内心大興奮する細かいものまであり、小ネタを発見する喜びが散りばめられている。

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また、安田と同じ植木屋役を演じる小松と、病院の秘密を探るフリーランス記者役の浅野の掛け合いも楽しい。長年の共演で培った二人の息のあったやりとりや、互いを信頼したうえでのツッコミなど、二人も舞台上でのコミュニケーションを楽しんでいるようで、安心して笑わせてくれる。病院を買収しにきたホテル経営の女社長を演じる山崎は、お笑いでの「しずちゃん」とは違う存在感。何度か着替えるたび、派手な帽子と衣装に目が惹かれる。社長の部下役の宮崎は、猫背でガラの悪い男。チンピラ風だが清潔感のある出で立ちと丁寧な演技で、このホテル経営会社は単にあくどいのでなく質は良いのかな、大病院を買い取れるほどの財力はありそうだな、などと想像させる。

また、数々のミュージカルで培った堀内の迫力ある歌とコメディエンヌぶりも堪能できる。さらに山本、義経らが物語を右往左往させ、事態は予測不可能の怒濤の展開を繰り返していく・・・!

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作・演出の青木は、『東風』(2005年)『エスペラント~教師たちの修学旅行の夜~』(2006年)で鶴屋南北戯曲賞ノミネート、『獏のゆりかご』(2006年)では第51回岸田戯曲賞最終候補、最近では劇団四季『恋におちたシェイクスピア』の演出でも好評価を得ている。

硬派な社会派、エンタメなど幅広く作品を手がける青木だが、今作はその悪ふざけが詰まったような舞台。古田は作品全体について「曲調もそうなんですけど、現代なのか過去なのか未来なのかは分からないところを狙っています。ノスタルジックな感じもするし、近未来のようでもある。それが古い病院で起こる」と説明した。

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安田は「来てくださる方に感謝しかないですし、どんな感想を持ってもらえるのか。楽しんでいただけたら」とかなり反応が気になる様子。大阪公演のことについて、古田は「途中で『怖い』と言って帰った人もいる。最後まで観たら怖くないですよ」と笑う。「先輩たちも勝手なことをする人たちじゃないし。こんな芝居だけど、上品な座組です」。

また今回タッグを組むことになったお互いについて、安田は古田のことを「こういう先輩にならなきゃなと。尊敬しなきゃいけないところもたくさんある。統率力があり、これだけまとまれているのは新太さんのおかげです」と信頼している。かと思いきや、古田の方も安田を「本当に頼りになります」と褒める。「すごく素直でアドバイスやダメ出し(も素直に聞き入れる)。非常に信頼できる。歌も演奏もしっかりしているんですけど、お芝居も『アキラ』という役で動いてくれてる」と評した。

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意地悪でハレンチな作品を大人たちが真摯に作った本作。古田は「まだお正月騒ぎをやってますので一杯引っ掛けて来てください」と宣伝するが、実は「失敗したな~」とも思ったそう。「意外と良い作品になっちゃった。怒られるかなって思ってたら、お客さんが良い顔をして帰っていく。客席からは『ブラボー!』という声が。ブラブラな棒だから?」と下ネタを言った時の目は嬉しそうだ。安田も「ブラボーってそういう意味!?」とツッコみつつ、「ぜひブラボーな作品を観にきてください。ブラボーと言ってもらえるような作品です」と締めた。

パルコ・プロデュース2019 音楽劇『マニアック』東京公演は、2月27日(水)まで東京・新国立劇場 中劇場にて上演。

(取材・文・撮影/河野桃子)

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