白井晃×長塚圭史×吉沢悠の『華氏451度』―現実がSFを追い越していく危機感


KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『華氏451度』が、2018年9月28日(金)に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールで開幕した。原作は、アメリカの作家レイ・ブラッドベリの同名SF小説。今回は、脚本を長塚圭史、演出をKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督である白井晃が手掛け、舞台化している。

出演は、吉沢悠、美波、堀部圭亮、粟野史浩、土井ケイト、草村礼子、吹越満。吉沢は、本格的な舞台出演はこれが3年ぶりとなる。吉沢以外は、一人2~4役を演じ分けていく。

『華氏451度』舞台写真_2

【あらすじ】
徹底した思想管理体制のもと、書物を読むことを禁じられ、情報はすべてテレビやラジオによる画像や音声などの感覚的なものばかりで溢れている近未来。そこでは本の所持が禁止されており、発見された場合はただちに「ファイアマン」と呼ばれる機関が出動して焼却、所有者は逮捕されることになっていた。そのファイアマンの一人であるガイ・モンターグ(吉沢)は、当初は模範的な隊員だったが、ある日クラリス(美波)という女性と知り合い、彼女との交友を通じて、それまでの自分の所業に疑問を感じ始める。モンターグは仕事の現場から隠れて持ち出した数々の本を読み始め、社会への疑問が高めていく。そして、彼は追われる身となり・・・。

今回長塚は小説を新たに脚色し、上演台本を仕上げたという。白井とは、2014年に上演された『夢の劇-ドリーム・プレイ-』に続いてのタッグ。二人の感性が、現代の視点で古典を見つめ直す。

『華氏451度』舞台写真_4

舞台を取り囲むように、吊るされた巨大な書棚。乳白色や灰色と、タイトルのないおぼろげな姿の本たちは、抑圧された世界観を物語る。舞台美術を手掛けたのは木津潤平。建築家でもある木津の空間デザインは、観客が劇場に足を踏み入れた瞬間、物語の中に飲み込んでいくようだった。

「華氏451度」とは、書籍が燃える温度のこと。「ファイアマン」のまとう防護服の袖にも、「451」という数字が刻まれている。本作では、炎が本を飲み込む“焚書”シーンを、映像を使って表現。炎以外にも、白い本たちはスクリーンとなり、情報を氾濫させ人間の感性を飲み込んでいく一方、思考が動き出す瞬間も鮮やかに見せていく。

『華氏451度』舞台写真_3

ブラッドベリが本作を生んだ背景には、ラジオやテレビなどが急速に台頭してきたという時代背景があった。現代では、インターネットやスマホの普及が加速度的に便利さを増している。情報は自ら得るために動かなくても、垂れ流されている世の中だ。劇中でも、画面をスワイプするだけで情報が切り替わるシーンがあった。能動的な肉体と、受動的な思考。吉沢が演じる「ファイアマン」モンターグの苦悩が、現代への危機感を突きつける。少人数で複数の役を演じ、早変わりなどもすべて見せる演出が、さらにその色合いを深めていく。

人が本を読まなくなっていると叫ばれている昨今。現実がSFを追い越していくのでは―。私たちの生きる社会で焚書は行われていない、が。

情報が反乱する中で、自らの意思で、今、観てほしい作品である。

舞台『華氏451度』は、10月14日(日)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールにて上演。その後、愛知、兵庫を巡演する。日程の詳細は、以下のとおり。

【神奈川公演】9月28日(金)~10月14日(日) KAAT神奈川芸術劇場 ホール
【愛知公演】10月27日(土)10月28日(日) 穂の国とよはし芸術劇場 主ホール
【兵庫公演】11月3日(月)・11月4日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

『華氏451度』舞台写真_5

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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