オペラで見るか?バレエで見るか?MET『ロメオとジュリエット』を宮尾俊太郎が語る


世界最高峰のオペラハウス、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(通称:MET=メト)の最新のオペラ公演を世界各地の映画館に配信するMETライブビューイング。日本での新シーズンの上映は2018年11月2日(金)より始まるが、東京・東劇では8月初めから10月5日(金)まで、過去の人気作27演目のアンコール上映が開催されている(兵庫、大阪、愛知でも実施)。8月25日(土)には『ロメオとジュリエット』上映前に、Kバレエ カンパニーのプリンシパル宮尾俊太郎を招いてのトークイベントが行われた。

MET『ロメオとジュリエット』02

『ロメオ(訳によってはロミオ)とジュリエット』といえば16世紀末のシェイクスピアの戯曲が有名だが、それを原作に据えた同オペラはフランスのシャルル・グノーが1867年に作曲。10月に宮尾がKバレエ カンパニーでロミオ役を踊るバレエ『ロミオとジュリエット』は、1936年にロシアのプロコフィエフが作曲した。宮尾はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にも「死のダンサー」役で出演しているが、こちらは完全な現代物。

『ロミオとジュリエット』と言えばまず1996年のレオナルド・ディカプリオの映画を思い出す人も多いだろうが、それ以前にも何度も映画化されており、ミュージカル『ウェスト・サイド・ストーリー』のように同作のストーリーを元に作られた別の作品もある。つまり『ロミオとジュリエット』は400年以上もの間、世界中の人々を魅了し、また芸術家たちのインスピレーションの源となってきたのだ。

MET『ロメオとジュリエット』03

トークイベントで宮尾はオペラ『ロメオとジュリエット』の魅力について、また自身の踊るバレエ『ロミオとジュリエット』についてコメント。「17世紀のフランス国王ルイ14世はバレエが大好きで、バレエ学校をつくったり、自分も踊ったり、5番ポジションを作ったのも彼です」と、両足のつま先を外に向け、それぞれのかかととつま先を揃える、バレエの基本の立ち方の一つである「5番ポジション」を舞台上で実演した。

METのあるニューヨークについて宮尾が「ニューヨークと言えばバレエではアメリカン・バレエ・シアター。野球なら巨人軍みたいに、スターを寄せ集めたカンパニーなんです」と言えば、司会の朝岡聡が「METもまさにそれです!スターばかり集めて、さらにぜいたくな演出をして、オーケストラも有名な指揮者をいっぱい呼んで・・・。これ以上スターは集められない、というぐらいのものを作るのがアメリカというか、ニューヨークのエネルギーですね」と応える。

『ロメオとジュリエット』04

今回のアンコール上映では、ジュリエット役は現在オペラ界で最も人気のあるソプラノの一人、ロシアのアンナ・ネトレプコ。ロメオ役は、自身はフランス生まれのフランス育ちだが両親がシチリア出身のせいか、イタリア的な魅力ある声と情熱を感じさせるロベルト・アラーニャ。二人とも実力も人気も屈指の大スターだ。

オペラは音楽と歌で物語をつづり、バレエは歌の代わりに身体の動きで全てを伝えるわけだが、ロミオ役を踊る上で最も気を使うシーン、あるいは好きなシーンを聞かれると、宮尾は「有名なバルコニーのシーンは踊っていてもその雰囲気に酔いしれられるんですが、一番繊細で気を遣うのはやはり最後の死ぬシーンですね。バレエはセリフがないので、僕たちにできることは身体表現と、もう一つはオーケストラの音。オーケストラの音が叫ぶ声に聞こえたり、相手を思う気持ちに聞こえたりするように、僕たちの身体を通して聞かせなければいけないんです。それがラストシーンに向かうにつれて、繊細になっていくのを感じます」と見どころを語ってくれた。

『ロメオとジュリエット』07

一目で恋に落ちてしまったロミオとジュリエットがお互いの気持ちを確かめ合う、有名なバルコニーのシーンについては「振付けは決まっているんですが、やはりシェイクスピアのセリフがお客様に聞こえてくるように、心の中でそのセリフを言いながら踊ります。あのシーンは、16歳と14歳の若い男女がその愛が止まらなくなっていく勢いと、初々しさを大事に踊っています。手の動き一つでも、初々しさを出すためには(ためらいがちに腕を伸ばしながら)『好き、って言えない』とか、(すばやい動きで)『好き、って言っちゃった』とか」と身振りを交えて心情に合った動きを披露した。

『ロメオとジュリエット』05

そしてオペラの中で、宙に浮いたベッドの中で二人が愛のデュエットを歌うシーンについては「素晴らしいですね。グノーの音楽もとても甘美ですし、歌手の方たちがアップになっても美しい。ライブビューイングはそれを映画館で見ることができるんです。それから、幕間のインタビューもおもしろいです。演者からしたら、本番の合間に戻ったらカメラがあるって気を遣うことだと思うんですが、皆さんイヤな顔一つせずに答えてらして・・・。あればっかりはこういったライブビューイングでないと見られないですね」とライブビューイングの魅力も熱く語ってくれた。

愛のために死ぬ、というテーマについては「愛のために死にたい、とはいつも思っています。僕はいつも舞台上で愛のために死んでいるので、日常は抜け殻のようになってます」とユーモアを交えて日常を明かした。オペラでバルコニーなどのシーン以外に印象に残った部分については「セットですね。星座を意識してつくられたセットが、現代的でおしゃれで、すごい。細かく見ても楽しいので、ぜひ寄りで見ていただきたいです」と語った。

『ロメオとジュリエット』06

ジュリエット役のネトレプコは、新シーズンの開幕作『アイーダ』でも主演しているが、この『ロメオとジュリエット』が製作されたのは、なんと10年前。歌手の声質も時を経るに従い変っていくが、バレエダンサーはどうかという問いには「やはり二十代前半の頃には勢いとテクニックに走りがちですが、三十代になってくるともっとより力が抜けてきて、表現も深みが出て、全然違う踊り方になります。でも10年前のオペラと今と、両方見られるというのは、いいですね。僕も10年後には重厚な踊りを踊れるように、そしてライブビューイングしていただけるように、がんばります!」と明るい展望を語ってくれた。

「METライブビューイング アンコール2018」の上映は2、3日ごとに演目が変わり、『ロメオとジュリエット』の上映はあと4回しかないが、すべて水準の高いMETのオペラの中でも厳選されたアンコール上映なので、何を見ても間違いはない。『ロミオとジュリエット』をオペラで見るか、バレエで見るか。いっそオペラもバレエも、ミュージカルも映画もご覧になってはいかがだろうか。

宮尾が出演するKバレエ カンパニーの『ロミオとジュリエット』は10月12(金)から10月14日(日)に東京・東京文化会館にて上演される。その後名古屋、大阪、広島を巡演予定。詳細は以下のとおり。

●Kバレエ カンパニー『ロミオとジュリエット』
【東京公演】10月12日(金)~10月14日(日) 東京文化会館 大ホール
【名古屋公演】10月18日(木) 日本特殊陶業市民会館
【大坂公演】10月20日(土) フェスティバルホール
【広島公演】10月23日(日) 広島文化学園HBGホール

【Kバレエ カンパニー】http://k-ballet.co.jp/company

【METライブビューイング アンコール2018】http://www.shochiku.co.jp/met/

(取材・文/月島ゆみ、写真/オフィシャル提供)

(C)Ken Howard/Metropolitan Opera

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