舞台『野球』飛行機雲のホームラン公演レポート 演劇でしかなしえない表現の粋(すい)


舞台『野球』飛行機雲のホームラン~Homerun of Contrailが、2018年7月27日(金)に開幕した。作・演出を西田大輔が手掛けたこの新作舞台が、連日大きな反響を呼んでいる。出演は、安西慎太郎、多和田秀弥、永瀬匡、小野塚勇人、松本岳、白又敦、小西成弥、伊崎龍次郎、松井勇歩、永田聖一朗、林田航平、村田洋二郎、内藤大希(友情出演・Wキャスト)、松田凌(友情出演・Wキャスト)、藤木孝。公開ゲネプロより、この公演の模様をレポートする。

※公開ゲネプロは内藤が出演

舞台『野球』飛行機雲のホームラン舞台写真_2

描かれているのは1944年、戦時下の日本。野球は、敵国の競技として弾圧され、全国中等学校野球大会は中止され、少年たちの甲子園への夢は絶たれてしまった。予科練へと入隊する少年たちだったが、“最後の一日”に再び野球をする機会を得る。

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甲子園優勝候補と呼ばれた強豪・伏ヶ丘商業学校と、実量は未知だが有力な会沢商業学校。出身校同士で行われる紅白戦で、会沢商業の投手・穂積均(安西)と伏ヶ丘の投手・唐澤静(多和田)は再び相まみえる。“野球”に憧れを抱き続ける、仲間と共に・・・。

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本作の上演が決まった際、なんてシンプルなタイトルだろうと思った。蓋を開けてみると、本当にそのタイトルに相応しい、シンプルでド直球な作品だった。

“戦争を描いた作品”と聞くと少々構える方もいるかもしれないが、悲愴な場面はほとんど出てこない。打者は球を避けてはいけない、最後まで戦い抜くため選手の途中交代は禁止・・・今と少し違う野球のルールなど、彼らの背景にある事実が、台詞やエピソードの裏側に横たわっているだけだ。

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桑田真澄監修のもと、俳優たちが実際にかなり練習をしたという野球のプレーが、作品としてのリアリティを一層高めている。捕手のミットからは球を受ける度に粉塵が上がり、ホームに滑り込む俳優の額には汗がにじむ。かぶり直す帽子の下からは「勝ちたい」、そして「野球が楽しい」という純粋な顔が覗く。それだけですべてを伝わってくる気がした。

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また、投手と打者の対決や走者の結果、一つ一つを、マルチアングルのように様々な角度で見せることで、いつしか観客席はスタンドになり、ベンチになり、外野になり、舞台裏や袖を含めてすべてがグランドとなる。西田演出の粋が詰まった、演劇だけど野球で、演劇でしかない野球のあり方。

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また、笹川美和が手掛けたテーマソング「蝉時雨」の力が大きい(このほか、「サンクチュアリ」「光とは」「止めないで」「誘い」が挿入歌として使われている)。暑い夏の日差しが照りつける青空の下にいるような照明と相まって、強い余韻を残す。

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甲子園で少年たちが夢を追う全国高等学校野球選手権大会は、今年で100回目を迎える。結果を残せた選手はもちろん、残せなかった選手も、すべてに等しくある人生。作品の中で、果たせなかった少年たちの夢を俳優たちは全力で表現する。

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物語を観ているのに「この時間が、終わらないでほしい」と思ってしまう。「ああ・・・野球だ」と、少年たちが嬉しそう笑うから、観ていてどうしても泣きたくなる。心が震えて止められないあの感覚はきっと劇場でしか味わえないし、どれだけ言葉を尽くしてもすべてを表現しきれない。

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平成の時代が終わっても、夏が来る度にこの作品を思い出しそうだ。そして、同じ夏は二度と来ないことを知りながら、また“野球”が観たいと思うのだろう。

舞台『野球』飛行機雲のホームラン~Homerun of Contrailは、8月5日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて、8月25日(土)・8月26日(日)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。

※内藤大希は7月中の東京公演に出演
※松田凌は8月1日(水)以降の東京公演、および、大阪公演に出演

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(取材・文・撮影/エンタステージ編集部、一部撮影/嶋田真己)

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