ふぉ~ゆ~福田悠太「当たり前は、当たり前じゃない」吉原光夫演出ミュージカル『DAY ZERO』東京公演開幕


水戸で行われたプレビュー公演を経て、オリジナルミュージカル『DAY ZERO』の東京公演が、2018年5月31日(木)にDDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)にて開幕した。幼馴染の3人を演じるのは、ふぉ~ゆ~の福田悠太、ミュージカルで活躍する上口耕平と内藤大希。彼らを取り巻く女性たちは、元NMB48の梅田彩佳、劇団四季出身の谷口あかり。ほか、すべての役を西川大貴が担っている。演出は吉原光夫。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_3

福田は、会見はじめこそ「単独初主演!カッコいいですね~!」と周囲を笑わせていたが「主役とか座長とか関係なく、作品自体が僕らのことを引っぱってくれます」と丁寧に言葉を紡ぐ。座組のことを「家族同然」と言い、真剣に深く、作品や共演者・スタッフたちと取り組んできたことを感じさせる。

舞台は2020年。突然に国から届いた、真っ赤な封筒に入っていた召集令状。
軍隊の一員として戦地へ赴く日(DAY ZERO)まで、あと21日。令状を突きつけられた青年たちと周囲の人々は、ぼんやりと描いていた未来だけでなく、お互いの関係、自分の過去、今の弱さや大切なものと向き合わざるを得なくなる。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_6

福田は「(徴兵は)日本だと実感がないもの。どこまでで感じ、ちゃんと演じられるのか」と大変だったが、演出の吉原から多くの話をしてもらったと言う。内藤は「死と結びつけるのはなかなか難しいですが、吉原さんから“デイゼロは身近なもの”と言われ、急に、家に知らない人が来たらと想像して怖くなりました」とイメージを膨らませたそうだ。会見冒頭で「家族同然」と福田が言っていたように、共にたくさん話し合い、作品を掘り下げた稽古であったことをうかがわせた。また、彼らの会見を静かに見守る吉原からは、懐の大きさや俳優たちへの信頼が感じられた。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_4

突如、告げられたタイムリミット。弁護士のジョージ(福田)は、着実にキャリアを積み重ね、病気の治った妻(谷口)と「そろそろ子どもを作ろうか」と明るい日々を描いていた。タクシー運転手のジェームス(上口)は、この仕事を気に入っている。女子学生のパトリシア(梅田)は、ジェームズのことが気になるようだ。アーロン(内藤)は、大ベストセラー小説家。普段は引きこもりの生活で、戦いなどできるはずもない・・・。

このままおじいちゃんになると思っていた。明日も、今日と同じ日々が続くと思っていた。けれど自分の意思ではないところで、打ち切られてしまう未来―。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_5

個性も生活もバラバラの幼馴染3人は、それぞれのやり方で、残された21日を過ごす。不安と恐怖に揺らぐ心。どう向き合えばいいかわからず、お互いの関係も変化していく。彼らは、突然に日常に幕を下されることになって初めて、自分の人生にも向き合わなければいけなくなる。

ほぼ全編、歌で語られる本作。彼らの心が、歌声で折り重なる。福田は、頑なさと素直さを併せ持つジョージを好演。上口は、正義感と腕っぷしの強いジェームスを、ただのヒーローにせずに、弱さやかわいらしさも織り交ぜて見せる。福田、上口の強くストレートな歌声に、重なる内藤の高音。ケンカすらしたことのないアーロンはまだ少年のようで、人生への心残りを隠すような笑顔に引き込まれた。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_8

召集令状を受け取るのは、男性のみ。女性の元に、赤い封筒は届かない。梅田と谷口が演じる女たちは、出征を控えた男たちを送り出さなければいけない。女たちもそれぞれのやり方で、DAY ZEROへとカウントダウンされる日々を過ごす。戦地に赴く当事者ではない彼女たちの口にできない思いが、舞台と客席の距離が近い劇場だからこそ、強く感じられる。

会見で、谷口は「支える側もしんどい。男性たちの会話、絆、いいなと思います」と男性陣を見つめていた。梅田は「タイムリミットがある中で、どう生きて行くか。好きな人に“好き”って言ってみようかなと思えるのでは」と、役に自分を重ね合わせた。

5人がDAY ZEROの当事者になる中、西川は一人で、周囲の10役以上を演じる。一人違う動きをすることで、人々が恐怖に震える心情を浮き立たせ、作品を支えていく。姿を変えてさまざまな役どころを演じる様子はどこか不穏でもあり、日常に迫りくる不安を深める。

しかし重いシーンが続くわけではない。彼らは友達同士。笑い、冗談を言ったり、ふざけたり。恋をしたり、踊ったり。観ていてこちらも楽しくなるような、小さな輝きに溢れた日常がある。会見で、福田は「小さなことが大事だと気づかされました」と言っていた。人生には、その小さな大事なことが散りばめられている。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_7

原作の映画『DAY ZERO』(主演:イライジャ・ウッド)は、2007年にアメリカで公開された。軍隊を持つアメリカでも当時「(時代が)早すぎる」と言う声もあったようだ。今回、11年越しに日本初のオリジナルミュージカルとして実現させたのは、深沢桂子(作曲・音楽監督)と高橋知伽江(上演台本)。この二人は、2016年、2017年に上演されたミュージカル『手紙』(原作:東野圭吾)と同じタッグ。再び、社会の抱える問題とそこに生きる普通の人々を描くことに、真正面から取り組んだ。

今回、吉原光夫の演出が、カウントダウンの迫る不安を繊細に舞台に乗せる。音楽は、ギター1本。ステージ上で、中村康彦が生演奏で物語に寄り添う。優しくロマンチックに弾かれる時もあれば、心臓がかきむしるように鳴らされることもある。ギターのみの音色は、俳優たちの歌、人間の生の声をまっすぐに届けてくれる。

ミュージカル『DAY ZERO』舞台写真_2

会見の最後、「当たり前だと思っていたことが当たり前じゃない」と語った福田。登場人物たちも私たちも同じだ。世界のどこかで戦争があることは知っていた。ニュースを見て胸を痛めたこともあるし、同情もした。けれど彼らは、それが当たり前じゃないことに気づかされた。「僕たちは何もしなかった、だからこの日が来た」と歌う声が、そっと私たちに向けられる。

オリジナルミュージカル『DAY ZERO』東京公演は、6月24日(日)までDDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)にて上演。その後、愛知・大阪を巡演する。日程の詳細は、以下のとおり。

【プレビュー公演】5月25日(金)~5月27日(日) 水戸芸術館 ACM劇場(終了)
【東京公演】5月31日(木)~6月24日(日) DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)
【愛知公演】6月26日(火) 刈谷市総合文化センター アイリス
【大阪公演】6月28日(木)・6月29日(金) サンケイホールブリーゼ

(取材・文・撮影/河野桃子)

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