又吉直樹「緊張よりも楽しみ」『火花』~Ghost of the Novelist~ゲネプロレポート


2018年3月30日(金)に東京・紀伊國屋ホールにて『火花』~Ghost of the Novelist~が開幕した。本作は、これまでにも映画化やドラマ化が行われてきたピース・又吉直樹の同名小説を原作に、脚本・演出を小松純也が舞台化。そのゲネプロの模様をレポートする。

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舞台は、小説の物語をそのまま描いただけではなく、それに並行して作者であると又吉と、女優である観月ありさの世界が同時に進んでいく。原作本が舞台中央でスポットに照らされる中、又吉が登場して本を片手に“作者の又吉”として語り始める。そこへ現れる、小説家になりたかった女優の“観月ありさ”。観月は又吉を抱きしめ、そしてその愛と引き換えに「火花」を自分が書いたことにしてくれないかと相談を持ちかける。さらに、書いた時に考えていたことや感じていたことを教えてくれとせがむのだった。

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小説の外側の二人の世界はだんだんと、小説の世界へと馴染んでいく。そこでは、お笑いコンビ一人である徳永が、同じく芸人の神谷との出会いを果たしていた。神谷のお笑いへの考え方に惹かれた徳永は、神谷に弟子入りを志願する。それを認められ、神谷の恋人・真樹や新しい世界を知る徳永だが、交流を深めるうちに神谷に対する憧れや嫉妬、さまざまな感情が渦巻き、二人の人生は思わぬ展開を見せる・・・。

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原作には登場しない“観月ありさ役”として登場する観月は、「火花」を朗読しながらストーリーテラーのように舞台を進行させ、ところどころで真樹も演じるという、切り替えが難しい役どころ。お笑いの世界を中心に物語が進む本作への出演について「コメディ要素が多い舞台で、芸人さんたちの前で笑いを取るのが難しいのですが、そんなときは笑いのバロメーターとして又吉くんの笑い方を確認しています。肩の力を抜いて楽しんでいただきたいです」とコメントを寄せた。

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舞台上では、一環して小説の外側の人物を演じていた又吉。初日に向けて「稽古で長い時間かけてやってきたので、それがようやく形になりました。緊張感はありますが、どちらかというと今は楽しみになっていますね」と意気込みを語った。

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さらに、ゲネを終え「『なるほど、こういう話なんや』っていうのがこれで分かりました(笑)。稽古で何回も通してきましたが、ゲネを終えたからこそ納得できる部分もあり、これまでの色々がようやくつながりました。日によっても全然違うと思いますし、舞台の“その場でしか見られない”という性質と今回のお芝居の相性がすごくいいと思うので、ぜひ、足を運んでいただきたいなと思います」と自信を見せた。

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徳永役の植田圭輔は、ドラマとも映画とも違う徳永を見せる。神谷の話を聞く際の目の輝きや、自身のコンビであるスパークスでの漫才テンポも本物そのもので、舞台後半では汗と涙を流しながらお笑いへの熱意を全身全霊で表現。これまでの舞台での経験と、植田の役へのストイックさが表れていた。

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私生活と同じくお笑い芸人を演じることになった神谷役の石田明(NON STYLE)は、舞台でもプロの力を惜しみなく放ち、笑いどころをきちんと落としていた。一方シリアスなシーンでは、これまで見たことがないような石田の一面を見せ、その迫真の演技に客席からすすり泣きが聞こえてきたほど。

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今回の見どころは「火花」の物語の再現度はもちろんのこと、それをとおして又吉自身の「なぜこの小説を書いたのか」が少しずつ明かされていく部分。国語の授業で文章を読まされ、“登場人物の心情は?”“作者の気持ちを述べよ”という問いに頭を抱えた人も多くいるだろうが、この舞台ではその大きな問いを、作者と共に探求することができる。

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舞台では登場人物の存在がリアルに描かれながらも、スクリーンに小説の一部や、小説でのページ数が映し出され、舞台上の出来事があくまでも虚構であることを観客に伝えている。しかし、そこに外側の世界の人物が入っていくことで、観客は虚構と現実を行ったり来たりする。

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小説の物語自体は本を読み終えてしまえば、それ以降続いていくことはないが、物語の世界の住人と読み終えた読者の生活は、決して終わることなく続いていくもの。我々は「火花」の登場人物とその外側の二人によって、生きる勇気を与えられることになるだろう。それは「今こそが幸せ」などという綺麗ごとではなく、現状が思うようにいかず、悔しさや悲しみにまみれ、そして人生がどんなに泥くさくとも「“でも”生きていこう」という力強いエネルギーなのだ。

『火花』~Ghost of the Novelist~は、3月30日(金)から4月15日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて、5月9日(水)から5月12日(土)まで大阪・松下IMPホールにて上演。

【公式HP】http://hibana-stage.com/

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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