小早川俊輔初主演!すべてを曝け出した人間味溢れる舞台『白痴』ゲネプロレポート


2018年3月28日(水)に東京・CBGKシブゲキ!!にて舞台『白痴』が幕を開けた。本作は、文豪である坂口安吾の名作の一つに数えられる同名小説を、空想組曲主宰であるほさかようが“厭らし”く、かつ“滑稽”にリメイクしたストレートプレイ。ここではそのゲネプロの様子をお伝えする。

時代は過去。舞台は戦争が起きている“この国”。安アパートが建ち並び、ほとんどの部屋には妾と淫売が暮らしていている。主人・伊沢は、社長の下で若手の映画演出家として働きながら、この町の寮の一室に住んでいる。隣家には、町でも有名な資産家である「気違い」とその母親、そして妻である白痴のサヨが住んでいた。母親は、米も炊けず、配給さえもまともに受け取ることができないサヨを怒鳴り散らしてばかりいる。

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ある日、サヨが伊沢の部屋の押し入れに逃げ隠れていたことをきっかけに、二人の秘密の同居生活が始まった。そんな日々の中でも、寮の持ち主である仕立て屋や、近所に住む傷を負った少尉、町のほとんどの男と寝ている下宿人の女・家鴨、煙草屋を生業にしている老婆はおのおの人生を送っていく。井沢は、映画作りとサヨとの同居生活の中で、とある思いに駆られる。「駄目だ。君を抱いたら、私はこの町の人間たちと同じ豚になってしまう。・・・触れたい。・・・抱きたい。俺は、君が欲しい」。やがて起きる空襲警報。その時、伊沢は・・・。

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作・演出を手掛けたほさかは、いわゆる“名作”の上演にあたり「古典と呼ばれる文学作品を扱うのには覚悟がいります。穿った解釈をしていないだろうか。原作をなぞるだけになっていないだろうか。今、この時期に上演する意味を見い出せているだろうか。座長の小早川俊輔はじめ、出演者、スタッフ共に誰一人守りに入らず、果敢にその答えを探し続けてくれました。手応えはあります。坂口安吾が描いた「白痴」という作品の、新たな一面を見つけられたのではないかと。どうぞご期待ください」と意気込みを述べている。

伊沢を演じたのは、今作が初主演となる小早川。本作の見どころについて「主人公の伊沢を中心に、目まぐるしく場面が展開されていくところです」とコメント。さらに「その臨場感や関係性を生み出すために、座組が一体となり共に闘い、ここまで進んで来ました。その時間を大切に、作り上げてきたものを真摯にお客様にお届けしたいと思います」と稽古期間を振り返った。

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ほぼ全場面に出ずっぱりの小早川は、伊沢から溢れ出る映画演出家としての、町の住人としての、一人の男としての顔を巧みに演じ分ける。サヨと出会ったことにより変化していく伊沢の立ち振る舞いや、それに影響されて展開するストーリーは、本人も語っているとおりの見どころである。また、上半身を露わにして人間的衝動を舞台上で演じる姿は、ほさかの言う“厭らし”さもありながら、どこか人間としての潔さや真実味ようなものを感じた。

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熊手萌演じる白痴のサヨは、けらけらと明るく笑いだしたと思ったら、些細な出来事をきっかけに金切り声で恐れや悲しみなどのマイナスの感情を剥き出しにする、切り替えが難しい役どころ。熊手はその目力を武器に、サヨの揺らぎ続ける感情を見事に演じていた。

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仕立て屋役の佐伯亮は、丸眼鏡にカラーなしシャツという、時代背景を感じさせる衣装で登場。町の噂を聞き広めつつ、肝心なところはそっと胸にしまっているような憎めない男だ。佐伯の動き一つ一つには、仕立て屋をその場に存在させるためのリアルさへの努力が表れていた。

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中村龍介演じる少尉は、町の中で誰よりも戦争に近い人物。元々は海軍に所属していたが、足の怪我の療養のためにこの町に来ており、杖をついて歩く。自国の勝利を信じる姿は誰よりも一途で、観客からは盲目的に映るほどだ。中村が口にする少尉の台詞からは、国を背負っている重みを感じる。

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「気違い」の母親役・谷戸亮太は、コミカルさとシリアスさを行ったり来たりしながら、確実に周りの人物を巻き込んでいく。全幕をとおして発せられる「返して」の台詞の連呼は、終演後も鉛のように観客の心に残る。

二瓶拓也が扮するのは煙草を売りながら、身体を売って生活をしている煙草屋。役柄的には高齢にあたる年齢だが、言葉の返しの切れのよさはまだまだ現役。作品が作品だけに重く引きずりがちな舞台上の雰囲気を、二瓶のあっけらかんとした演技が一掃する。

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そして加藤啓が演じるのは、伊沢が働く映画会社の社長。伊沢をおちょくるような姿勢を見せながらも、端々に伊沢の心を刺すような言葉を発する彼だが、加藤は確実に脚本を読み解き、それを声に乗せていた。

碕理人演じる家鴨は、孕んだ腹と突き出た尻が由来でその名前がついている。サバサバした性格かと思いきや、人情に厚い面も持ち合わせており、目が離せないキャラクターだ。碕は女装とは思えぬ滑からな所作で、女と母親の両面を好演した。

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木ノ本嶺浩演じた「気違い」は、サヨとはまた違った不気味な笑い声を響かせながら、伊沢の生き様を絶えず舐めるように見つめている。木ノ本の身体能力を活かした、人間らしからぬ動きには目を見張るものがある。

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原作を読んでいる人が度肝を抜かれるであろう点の一つが、この「気違い」の存在だ。原作に違わず「常に万巻の読書に疲れたような憂わしげな顔」を携えている彼だが、この舞台においての彼は、伊沢の隣人以上の意味を持つ。「気違い」の不可解な言動は、物語の終盤にその理由が明かされるため、幕が下りる頃にはもう一度最初から見返したくなること請け合いだ。

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もう一つはサヨの立ち振る舞い。原作では常に訳の分からないことを繰り返し、まとまった文章を話した時も口の中でもごもごと音を転がすだけであった彼女だが、本作では時折伊沢の前でだけ明瞭に言葉を発する。それは、本当に彼女の口から発せられたものなのか、はたまた伊沢の頭の中だけでの白痴の姿なのかは知る由もないが、その切り替わりには、見ているこちらの心と目を釘付けにするものがある。

観客は伊沢の思考や独特の感覚をとおして、“厭らし”くも“滑稽”な人間らしさを目の当たりにする。舞台と客席との隔たりはだんんだんと消え失せ、観客は終演後にこれまで生きてきた自分の過程を内省することになるだろう。

『白痴』 は、3月28日(水)から4月1日(日)まで東京・CBGKシブゲキ!!にて上演。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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